犯意

北川 悠

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恐怖の旋律

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 全裸にした田代香苗たしろかなえを後ろ手に緊縛きんばくし、ボールギャグをかませてから床に正座させた。――その身体からだは小刻みに震えている。
 血の気の失せた顔、怯えた目が心地良い。軽く触れるだけで過剰に反応する身体。思わず笑みがこぼれる。
 さあ、ショーの始まりだ。
 香苗の正面に、拘束された入谷健吾いりやけんごを連れてきた。顔は腫れあがり、何本かの指はありえない方向を向いている。
 勇ましい竜の入れ墨も、今はただただ哀れである。
 香苗の身体は、よりいっそう震え始めた。恐怖におののいているのだろう。上出来だ。
「さあ、これからが本番だ」
「うー、うー」と入谷がうめき声をあげる。入谷の口にはダクトテープが貼られている為、何を言っているのかわからない。
「死にたくないか?」
「うー、うー」という音を発しながら入谷が激しく頭を縦にふる。
「助けてほしい?」
「うー、うー」と同じ動作をくり返す。
「そうか、でも残念ながら、それは無理」
 入谷が激しく、首を振る。
 入谷の喉にナイフを当て、ゆっくりと縦方向に切り裂いてていく。
 裂かれた気管に血液が流れ込むと、入谷は声にならないうめき声を上げた。
 しばらくその様子を香苗に鑑賞させた後、頃合いを見て頚動脈を掻き切った。――真っ赤な動脈血が噴水のように噴き出して香苗の身体を染めていく。

 たった今、人を殺したというのに、思ったより冷静でいられる自分に少し驚いた。
 泣き叫ぶ香苗の頬に往復ビンタを貼ってから、血塗られたナイフの切先を彼女の瞳に向ける。
「黙れ!」
 香苗が失禁する――しばらくして静かになった香苗の髪を掴んで目を合わせる。
「余計な事を言わなければ、約束通りお前は殺さない。だがもし……」
「う……う……」
 香苗は何度も何度も頷き、言葉にならない声を発した。
「もし、約束を破ったら私は必ずお前を殺す。どんな状況になっても、どんなことをしてでも、必ず殺す」
 香苗の口に噛ませていたボールギャグを外すと、彼女は泣きながら訴えてきた。
「絶対、絶対誰にも言わない。本当に、本当にごめんなさい――」
「もうすぐ警察が来るからこのまま待て」
 香苗の頭を優しく撫でてから再びボールギャグを噛ませ、その場を後にした。
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