犯意

北川 悠

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麗奈のボールペン

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「見失った! さっきまでは確かにいたのよ。コンビニに行って戻ってきたら車が無いの」
「富永! 早く! 早く調べて! お願い……高橋、高橋紀彦たかはしとしひこはどこにいったの!」
「そうよね。ごめんなさい。わかった、津島君に頼んでみるわ」

「津島君、お願い……緊急なの……何も聞かないで、大至急調べて下さい……」
「命がかかってるの。もう貴方にしか頼れないの」
「高橋紀彦……うん市原桜ケ丘中学」
「住所は――」
「うん、わかった……待ってる」
「まだ、みんなには内緒にして」
「ありがとう」


「なんだ? 津島、彼女と電話か?」
 小出が津島のスマホを覗き込む。
「いえ、そんなんじゃありませんよ」
「津島! ちょっと来てこれ見てくれ」
 武男に呼ばれて津島は席を立ち、武男のパソコンを覗き込む。
「どう思う?」
「画像処理してみないとハッキリ言えませんが、これと同じかと……」
 津島は胸ポケットから、麗奈にもらったボールペンを取り出して見せた。
「だよな……なんとなくだが嚙み痕もありそうだな……」
 武男のデスクトップに映し出されていたのはあの日、川島のメンタルクリニック、三階で撮った写真だった。そこに映っていたペン立てを拡大した画像が映し出されていた。
「津島頼む」
「わかりました」
 津島は自分のデスクに戻ったが、ボールペンは無視して、高橋紀彦について調べ始めた。
 パソコンのキーを叩き、何度か電話もした。約1時間後、何とか高橋紀彦の居場所の心当たりを調べ上げて麗奈にメールで報告した。
 津島が調べものをする時はいつもこの調子だから、今回もその行動を疑う者はいなかった。
「津島、お前、仕事なんだから署の電話使えよ。自分の携帯使う必要ないぞ」
 小出が眼鏡をふきながら言った。
「あ、ですね、つい」
「津島、できたか?」
「もう少しです、このカード、損傷が激しくて……」
 嘘だった。津島は急いで、さっきのボールペンの画像に処理をかけて鮮明にしたものをプリントアウトして、武男に見せた。
「やはりな……」
 そのボールペンにはくっきりと嚙み痕があり、文字の特定はできないが白い印字もある。
「日暮里の警察に問い合わせてくれ」

「間違いありません。RenaCCと印字されているそうです」津島が言った。
「麗奈のボールペンが川島先生のクリニックにあったということは、彼女は川島先生の患者だったのか?」
 少なくとも武男には心当たりがなかった。
「麗奈さんも川島先生も都内ですし、偶然では? 僕みたいに、彼女からボールペンを貰っただれかが、あのクリニックに忘れていったとかも」と津島。
「でも噛み痕があるとなると……」と武男。
「まあ、二人が知り合いだったとして何か?」と小出。
「あ、でも、もしかしたら、川島先生から連絡を受けた麗奈さんがテレビ局に……」
 津島が小出を見る。
「考えられるな……まさか……共犯?……」
 小出が武男を見る。
「でも、やっぱり麗奈さんの会社のボールペンがあのクリニックにあったからと言って、そう決めつけるのはちょっと乱暴かと……」
 言いながら津島が麗奈からもらったボールペンを眺める。
「お前ら、しばらくこの件の口外を控えてくれ」
「わかりました」と小出。
「はい」と津島。
「津島、話がある」
「え? あ、はい。わかりました」

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