BLACK CONQUEROR ー黒の征服者ー

立居知敏

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邂逅

カモンPMC 4

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「高次元世界をご存じない?・・・フフッ。」

希井の目を見開き笑いを含んだ言い方に万金は一瞬イラっとしたが、スルーした。頭を掻き、気持ちをごまかす。

「いや、ちょっとは知ってるさ。俺らが住んでいる世界は3次元で、まだ知らない次元が広がっているかもしれないってことくらい。ただ、それを上手くは説明できないけどな。」

「おっ、少しは分かるんだな。じゃあ、あまり細々とした説明は野暮ったくて好きじゃないから、かいつまんで補足しよう。」

希井は鉛筆と紙を出し、立体の図を描きながら説明し始めた。

「君たちの知ってのとおり、この世界は3次元だ。この世界の物質は縦、横、高さの3つの直交した数値で表現できる。それによって、立体を形作ることができるね。我々が触れることができるものは、全部立体だ。テレビでも、本でも、それにお父さんが作る糞マズイケーキだってそうだ。」

 未悠がクスリと笑う。万金はそれを横目に見ながら、気にしてるんだから笑うなという風におかしなアヒル口を作る。

「位置情報だって表現できるね。例えば『Mt.富士の山頂は、緯度35度21分39秒 、経度138度43分39秒、標高3775.6 mにある。』といった風にね。僕らは意識しないまでも、そういう世界で暮らしている。そういう制限の中で生きている。」

「でも次元とは1点の位置を決めるために必要な数値の個数に過ぎない。縦・横・高さ、この他にももう1つ別の次元があったって、おかしいと思わないだろ?」

「いや、俺はおかしいと思う。」

「イメージするんだよ!!!頭の中にケーキでも詰まってるんか!」

 希井がすかさずツッコミを入れる。

「はぁ、で、縦・横・高さ、この他にもう一つ次元がある世界。それが四次元世界というわけだ。」

 希井は立体図が描かれた紙に、垂直に鉛筆を立てた。なるほど、3次元世界に直交した、もう一つの次元が広がっているように見える。その次元には一体何が広がっているのだろうか。まだ我々の知らない道の領域。それは神秘的にも思えるし、オカルト的なうさん臭さもある。


 希井は2人の表情を見る。万金は、「ふぅん」とした顔をしている。納得しているのか、まだ理解していないのか、それとも「へーそうなんだ」位にしか思っていないのか、よく分からない表情だ。一方で、未悠も「ふぅん」とした顔をしている。この親子、ちゃんと分っているんだろうか。希井は不安に思った。

 「と、ところで未悠ちゃん、4次元世界にある物体を、我々は見ることができると思うかい?」

「多分できないと思います。だって、今までもそんなもの見たことないし、私たちが見ることができるのはこの3次元世界のものだけでしょ?」

 希井は少しホッとした。

「大体合ってる。普段、我々には4次元世界は知覚できないから、見ることも出来ない。別の次元の方向なんて、分かるわけないしね。ただね、僕らにも4次元の物体を見ることができる瞬間があるんだ。それは、#4次元の物体が我々の世界を。つまり断面図なら僕らにも見ることができるんだ。」

「だ、断面図だと!!!お前、未悠になんてものを教えようとしてるんだ!」

万金がガタリと椅子から立ち上がり、机に手をつき身を乗り出した。

「・・・万金、いやらしい漫画の表現以外にも断面図を使うことはあるよ。これは普通のやつだ。」

 冷静に返す希井を見て、万金はやってしまったと思った。娘の方をチラリと見る。あっ、すっごいジト目。万金は真っ赤になって顔を両手で塞いで大人しく席に着いた。


「・・・話を続けるけど、1次元の線を切ったとき、その断面は0次元の点になるよね。これはどんな次元にも言えることなんだ。面(2次元)の断面は線(1次元)。立体(3次元)の断面は面(2次元)。これはある次元の数を持つ空間は、それよりも低次元の空間を内部に含むことが出来るからなんだ。そして超立体(4次元)の断面は立体(3次元)。つまり断面だけなら、我々も4次元の物体を見ることが出来るということだ。」

「でも、それはどのように見えるんですか?想像ができないです。」

「よし、じゃあCTスキャンを例に取ってみよう。CTスキャンとは、人間の体の周囲からX線をあてて、体の中の吸収率の違いをコンピューターで処理し、体の断面図を作るものだ。言ってしまえば3次元である人間の体を2次元の画像データにしてしまうものさ。頭からつま先までを観測するとしよう。」
「体の断面図は、頭から始まって、首を通り、そして胸へと大きさと形を変えて1つの面を通過し、やがてつま先を過ぎたところで体が消滅する様子までが写し出される。」
「4次元物質だって同じことが言える。我々の世界を通過する際、それは突如として現れ、大きさと形を変える立体として我々の世界に存在するだろう。そして最後には消滅する。」

 ややこしい話になってきたが、なんとか馬場親子二人は食らいついている。

「これを聞いて、何か気が付いたことは無いかい?」

 暫くの沈黙ののち、未悠が「あっ」と声を出した。




「事件に出てきた変形する脳ですか?」
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