コスモス・リバイブ・オンライン

hirahara

文字の大きさ
26 / 816
廃棄星

最終試験と宇宙船塗装とパフェ

しおりを挟む
 八雲さんはおじいちゃんたちのことを誰にも言わないと誓ってくれた。
もし学校で今日の中継の話が出ても、話題をそらしてくれることまで約束してくれた。
ばれたら登校拒否するって言ったのが大きかったと思う。


 八雲さんはちゃんと約束を守ってくれているようでおじいちゃんのことでからかわれることはなかった。
学校でばれたら地獄だ。
 あれは忘れもしない小学生の父母参観。
あの二人がハッスルしたことでどんだけ恥ずかしい思いをしたことか。


 指導が始まって一週間。今日は最終試験だった。
これで合格なら宇宙船も塗ることができる。
 八雲さんはすでに塗り終わった課題の模型を細かくチェックしている。
彼女がチェックしている時に僕もムラを発見してしまった。
それが一カ所ならいいけど複数箇所あり不安がどんどん大きくなる。


「これなら大丈夫。まだムラもあるけどこれぐらいなら問題ないよ」
「じゃあ!」
「ごーかーく!」
「ありがとうございます」

 ここまで本当につらかった。
彼女の指導はスパルタだったので何度も逃げたくなった。でも、頼んでおいて逃げ出すのは最低だ。
それにどんなに辛くてもコスモス・リバイブのことを想えば我慢できた。


「厳しくしたから途中で投げ出すんじゃないかと思ったけど、根性あるじゃん」
「だったらもう少し優しく教えてくれてもよかったんじゃ」
「できたんだしいいじゃん」
「そうだけどさぁ」
「終わったことは気にしない気にしない。じゃあ頑張って。結果報告楽しみにしているから」

 そして決戦の日。
ここまで教えてくれた八雲さんのためにも成功させてみせる。
準備も万全だ。昨日の内に全部用意しておいた。
頭の中でシミュレーションを何度もしたので手順も完璧だ。


 まず塗るのは宇宙船の前面。
ここは一番負担がかかる場所だ。
スペースデブリや隕石などがぶつかる可能性が一番高い。慎重に時間を掛けて塗る。

 
 次は底部。
ここは大気圏突入時に負担が掛かる部分だ。
船首からでも突入できるし、そっちの方がいいんだけど僕の塗装の腕前じゃそれはできない。


 特殊塗料の効果は永続ではない。
時間の経過は勿論、障害物に衝突することでも効果が徐々に劣化していく。
腕がいい人なら劣化の速度も遅いけど、僕みたいな下手くそがやると劣化スピードもそれだけ早い。


 練習したけど、僕の塗りは素人の域を出ていない。八雲さんの見立てだと3ヶ月持てばいい方と言われた。
ちなみにプロは5年以上持たせないといけない。じゃないと売り物にならないそうだ。
 底部からの突入は八雲さんのアイディアだ。
航行でのダメージを考えれば、ダメージをあまり受けていない場所から大気圏突入させた方が危険も少ない。
どういう負荷が掛かるのか考えるのは塗装士にとって常識らしく、そこからの発想だった。


 実際、腕のいい塗装士は塗料節約のために負荷が掛かる場所を計算して塗っており、あまり負荷が掛からない場所は薄く、負荷が大きい場所には濃く塗るそうだ。
 ただし、この技術はプロ塗装士の中でもわずかしかできないらしい。
下手に濃淡をつけるとムラができてそこから塗装が剥がれていく。徐々に薄く、徐々に濃くしなければならないので難しいそうだ。


 順調に塗り進めていき、5時間ほどで塗り終わった。
プランを立てて塗っていったので塗り残しもない。

「よしこれで完成。あとは合格かどうかだけだ」

 指導前に比べるとその出来は比較にならないレベルだ。しかし、判定するのは僕じゃない。
デバイスだ。
結果を確認してみる。
……表示はsuccess、つまり成功だった。


 嬉しいけど、工場の1兆の扉を開けた時ほどではない。
今更だけど成功は分かっていた。
八雲さんにお墨付きを貰っていたので失敗するわけがない。


 八雲さんに成功の報告ができる。
一時ログアウトして撮ったスクショを添付して彼女にメッセージを送った。


 お礼どうしようかな。
食堂でいいと言われているけどそれだけじゃ僕の気が済まない。
 でも彼女は何も受け取ってくれないと思う。
この一週間で彼女がそういう人だと分かっていた。
最初の約束の範囲内でお礼を考えないと。

「そうだあれがあった」


 翌日、食堂で。
今日で奢り最終日だ。

「カレーでいいよ」
「トッピングは?」
「温玉チーズで」
「わかった。デザートは?」
「いつものやつね」

 このやり取りも5回目だ。
彼女と数名はテーブルの確保に行ったのでその隙にあれをオーダーする。

 
 デザートの中でも冷たい物は食後に取りに行く。
僕の選んだデザートは冷凍ミカンで八雲さんはチョコアイスだ。
 今日はアイスじゃなく、スペシャル。チョコアイスとは重量が違う。
そのスペシャルなデザートを彼女の前にドンっと置いた。


「あれアイスは?」
「目の前にあるよ」
「これはパフェじゃんか」
「ちゃんとアイスも入ってるよ」
「そうだけどさ」
「今回のお礼だよ。約束は食堂で奢ること。その範囲は超えてないでしょ」
「でもこれ高いじゃん」

 
 僕が頼んだのはスペシャルオリジナルチョコパフェ。
この食堂で最高額のデザートだ。その額5000円。
 この値段の原因はチョコレートにある。
昔はチョコレートも安かったらしいけど地球寒冷化でチョコレートが高騰しており、滅多にと言うほどじゃないけどあまり口に入る物じゃない。


 大抵の場合VR内で食べるか、人工的に再現した合成品を食べるかのどっちかだ。
でもVRは餓死を防ぐために満足感を抑えているし、合成品の中でもチョコレートは質が悪い。
このパフェはその高騰した本物のチョコをふんだんに使ったパフェだ。学校外で食べるとしたらこの倍以上の値がつく逸品である。


 彼女がVR内でチョコクッキーなどのチョコ菓子を食べているのを見たので好きなはずだ。
それに彼女は現実でも合成チョコを使ったアイスを好んで食べているし。

「成功報酬だと思って食べてよ」
「それじゃあ遠慮なく」

 八雲さんは目の前にあるチョコパフェの誘惑には勝てず受け取ってくれた。
彼女はそれを独り占めにはせずみんなで幸せそうにシェアしていた。
だけど僕にあーんしようとするのは止めてほしかった。
周りから殺気で胃に穴が空きそうだった。
しおりを挟む
感想 354

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

処理中です...