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風吹く星よ
覇道の犠牲
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◇統合軍第七師団 旗艦
統合軍にある全15の師団の内の一つ。
第七師団。彼らがヴィニア捕獲作戦を実行している師団だった。
その旗艦であるこの船の艦橋は緊張に包まれていた。
原因は通信にある。
第七師団長である男は誰かと通信をしていた。
通信相手は師団のトップである師団長よりも遥かに上位の人物らしい。
『それでまた取り逃がしたと?』
「申し訳ありません!次こそは捕えてみせます!」
師団長がヴィニアを捕らえるのを失敗したのは今回が初めてではなかった。
エンジ島に諜報員を派遣し、ヴィニアを捕らえるように指示を出したのも彼だ。
その結果、諜報員に多くの離脱者を出してしまった。
師団長は度重なる失敗で、懲免されることを恐れていた。
通信先の男にはそれだけの力を持っていた。
師団長は特注の豪華絢爛な将服を汚れるのも厭わず、平伏していた。
『もうよい』
師団長は自分が許されたのかと思い、強張った表情を緩め、安堵の顔を浮かべた。
だが、その顔はすぐに苦痛で歪むことになる。
一発の銃声が艦橋に響いた。
師団長は胸を押さえ、膝をつく。
銃弾が彼の体を貫いたのだ。
胸から血が溢れ出て、将服を真っ赤に染めていく。
撃ったのは副官の男だった。
艦橋には二人以外にも船員がいたが、突然の凶行に誰も反応ができず、呆然としていた。
「長年、貴方様に尽くしてきた私を切るおつもりですか?」
『吾輩に尽くすのは至極当然のことであろう?吾輩が切り拓く新時代に貴様のような間抜けはいらん」
「そ……んな」
師団長は絶望の表情を浮かべたまま息絶えた。
『その汚いゴミを片付けろ。見苦しい』
艦橋要員の中の二名が指名され、師団長の遺体は外まで引きずっていく。
『これからは貴様が第七師団を指揮しろ。辞令は後日送る』
「了解しました!」
後任に指名されたのは、前任者を射殺した副官だ。
こうなることは最初から決まってたかのような、鮮やかな対応だった。
『それであの女の行方はどうなっている?』
[どこかの港に寄港したとの情報はありませんが、おそらく、標的はあの航路を通っていると思われます」
『分かっているとは思うが、王派閥の島を通るルートには統合軍は入れんぞ。どうするのだ?』
「すでに手を打ってあります」
『ほう?素晴らしい手際だな。期待しているぞ』
その返答に通信先の男は笑みを浮かべた。
『あの女は我が覇道に必要不可欠だ。手段は問わん。必ず捕らえよ』
「はっ!」
通信が切れると、副官を除いた艦橋にいる全員が安堵した。
誰もが、師団長の二の舞にはなりたくなかった。
「この薄汚い血を掃除しておけ」
遺体は外に運ばれているが、大量の血が艦橋の床を真っ赤に染め上げていた。
遺体を運び出した男が艦橋に戻ってきた。
少し前に艦橋の前まで戻ってきていたのだが、通信が終わるまで待っていた。
「師団長の遺体なんですが」
「あの男は元師団長だ。気を付けろ」
「申し訳ありません!」
彼が必死に謝るのも無理はない。
不興を買ったら、師団長のように殺されてしまうかもしれないのだ。
彼の用は遺体の処遇についてだ。
通信先の男にはゴミだと罵られたが、本当にゴミとして処分すると問題が起きる。
「イヴィルフライヤーにでも喰わせてやれ」
「遺族から遺体の返還要請があるかもしれませんが」
「ならば、首だけくれてやれ。それだけで十分だろう」
副官にはかつての上官への敬意は欠片も残っていなかった。
そもそも、彼は最初から尊敬の念などなく、むしろ、失敗ばかりする無能だと見下していた。
「五号地点の発掘作業はどうなってる?」
「定時連絡ではあと一カ月は掛かるそうです」
「急がせろ。あの方は気が長い方ではない。時間を掛けすぎると、今度は我々の命が危なくなるぞ」
◆
どこかの島に寄港することも考えたけど、僕らの動向が漏れる危険を考慮して、どこにも寄っていない。
ルドフィーで食料などの物資を大量に積み込んできたから、無補給でもクインシフまで行けるはずだ。
ルドフィーを出発して、今日で二日目になる。
クインシフまであと半分。
本当ならすでに到着している予定だったんだけど、統合軍を警戒して進んでいるため、かなり遅れていた。
謁見の日はまだ一週間ほど先なので、それまでには到着するはずだ。
ここから危険度が高くなる。
この先は空賊が根城にしている領域になるのだ。
だから、この航路は危険なのである。
避けて通ることは不可能。
ここを通らなければ、クインシフに到達することはできない。
「レーダーに反応あり!こちらに急速に接近しています!」
「何が来たの?」
「空賊です!」
「やっぱり来たか。方向は?」
「正面です。今からじゃ逃げられません!」
マイグラントを反転させている間に、敵艦に接近されてしまう。
クインシフに行くには、この道を通るしかないので、どっちにしろ戦うしかない。
統合軍にある全15の師団の内の一つ。
第七師団。彼らがヴィニア捕獲作戦を実行している師団だった。
その旗艦であるこの船の艦橋は緊張に包まれていた。
原因は通信にある。
第七師団長である男は誰かと通信をしていた。
通信相手は師団のトップである師団長よりも遥かに上位の人物らしい。
『それでまた取り逃がしたと?』
「申し訳ありません!次こそは捕えてみせます!」
師団長がヴィニアを捕らえるのを失敗したのは今回が初めてではなかった。
エンジ島に諜報員を派遣し、ヴィニアを捕らえるように指示を出したのも彼だ。
その結果、諜報員に多くの離脱者を出してしまった。
師団長は度重なる失敗で、懲免されることを恐れていた。
通信先の男にはそれだけの力を持っていた。
師団長は特注の豪華絢爛な将服を汚れるのも厭わず、平伏していた。
『もうよい』
師団長は自分が許されたのかと思い、強張った表情を緩め、安堵の顔を浮かべた。
だが、その顔はすぐに苦痛で歪むことになる。
一発の銃声が艦橋に響いた。
師団長は胸を押さえ、膝をつく。
銃弾が彼の体を貫いたのだ。
胸から血が溢れ出て、将服を真っ赤に染めていく。
撃ったのは副官の男だった。
艦橋には二人以外にも船員がいたが、突然の凶行に誰も反応ができず、呆然としていた。
「長年、貴方様に尽くしてきた私を切るおつもりですか?」
『吾輩に尽くすのは至極当然のことであろう?吾輩が切り拓く新時代に貴様のような間抜けはいらん」
「そ……んな」
師団長は絶望の表情を浮かべたまま息絶えた。
『その汚いゴミを片付けろ。見苦しい』
艦橋要員の中の二名が指名され、師団長の遺体は外まで引きずっていく。
『これからは貴様が第七師団を指揮しろ。辞令は後日送る』
「了解しました!」
後任に指名されたのは、前任者を射殺した副官だ。
こうなることは最初から決まってたかのような、鮮やかな対応だった。
『それであの女の行方はどうなっている?』
[どこかの港に寄港したとの情報はありませんが、おそらく、標的はあの航路を通っていると思われます」
『分かっているとは思うが、王派閥の島を通るルートには統合軍は入れんぞ。どうするのだ?』
「すでに手を打ってあります」
『ほう?素晴らしい手際だな。期待しているぞ』
その返答に通信先の男は笑みを浮かべた。
『あの女は我が覇道に必要不可欠だ。手段は問わん。必ず捕らえよ』
「はっ!」
通信が切れると、副官を除いた艦橋にいる全員が安堵した。
誰もが、師団長の二の舞にはなりたくなかった。
「この薄汚い血を掃除しておけ」
遺体は外に運ばれているが、大量の血が艦橋の床を真っ赤に染め上げていた。
遺体を運び出した男が艦橋に戻ってきた。
少し前に艦橋の前まで戻ってきていたのだが、通信が終わるまで待っていた。
「師団長の遺体なんですが」
「あの男は元師団長だ。気を付けろ」
「申し訳ありません!」
彼が必死に謝るのも無理はない。
不興を買ったら、師団長のように殺されてしまうかもしれないのだ。
彼の用は遺体の処遇についてだ。
通信先の男にはゴミだと罵られたが、本当にゴミとして処分すると問題が起きる。
「イヴィルフライヤーにでも喰わせてやれ」
「遺族から遺体の返還要請があるかもしれませんが」
「ならば、首だけくれてやれ。それだけで十分だろう」
副官にはかつての上官への敬意は欠片も残っていなかった。
そもそも、彼は最初から尊敬の念などなく、むしろ、失敗ばかりする無能だと見下していた。
「五号地点の発掘作業はどうなってる?」
「定時連絡ではあと一カ月は掛かるそうです」
「急がせろ。あの方は気が長い方ではない。時間を掛けすぎると、今度は我々の命が危なくなるぞ」
◆
どこかの島に寄港することも考えたけど、僕らの動向が漏れる危険を考慮して、どこにも寄っていない。
ルドフィーで食料などの物資を大量に積み込んできたから、無補給でもクインシフまで行けるはずだ。
ルドフィーを出発して、今日で二日目になる。
クインシフまであと半分。
本当ならすでに到着している予定だったんだけど、統合軍を警戒して進んでいるため、かなり遅れていた。
謁見の日はまだ一週間ほど先なので、それまでには到着するはずだ。
ここから危険度が高くなる。
この先は空賊が根城にしている領域になるのだ。
だから、この航路は危険なのである。
避けて通ることは不可能。
ここを通らなければ、クインシフに到達することはできない。
「レーダーに反応あり!こちらに急速に接近しています!」
「何が来たの?」
「空賊です!」
「やっぱり来たか。方向は?」
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