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水の都ルーセント編

堕ちた天使の襲来

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「力片を渡せ。お前が持っている必要はない」

 灰色の翼を持つフリューゲルはそう言った。
 ソレから放たれる殺気や魔力は尋常ではなく、俺は背に冷たいものが流れるのを感じた。
 俺一人ならば問題ないだろう。
 
 カプリス達を連れてきたのは失敗だったな。

 そう考えるも後の祭り。
 全力で守りつつ、全力で相手した方が良さそうだ。

「無言は拒否と取るぞ」

 それは問いかけのようで、また自身で完結しているような物言いだった。
 直後の出来事。
 ソレから放たれた殺気が膨れ上がるのを感じた時には既に目前まで迫っていた。
 即座にプリセットから死神シリーズを装備し受け流す。

「逃げろっ!」
「っ!」

 俺の言葉に反応してくれた面々は踵を返し、全力を持ってその場から離れた。

「一人でいいのか?」

 一度距離を取ったソレはそう問いかけてきた。

「守りながら戦うにはちとばかし相手が悪いからな」
「・・・そうか」

 変わらず表情の変わらないソレは小さく呟いたあとロングソードを構え直し斬りかかってきた。
 繰り出される連撃を鎌でいなす。
 強撃を受け止めたところでソレは鎌を弾き、後ろに下がる。
 直後魔術が発動するのを感知。バックステップで下がると、元いた場所に黒炎が吹き上がる。
 間髪いれずに黒炎を切り裂き追撃してきた。
 俺も魔術を土の魔術を行使し、ソレを挟むように土壁を立ち上がらせる。
 が、ソレは加速し土壁を回避した。
 回避されるのは予想の範疇。俺は鎌で迎撃しなかながら光の魔術でソレ目掛けて光の槍を降らす。
 対してソレは俺の鎌を蹴って後ろに回避した。
 今度はこちらが攻める番だ。

 カンステによる超速移動でソレの後ろに回り込み鎌を振るう。
 背面にロングソードを回すことにより鎌の攻撃を防いだソレは振り向き様に攻撃してくる。
 もちろん予想はしていたため、次の手である風の刃をソレの後ろに発現させて攻撃する。
 屈んで回避し、次に俺の足元を薙ぎ払ってくるのを跳んで回避、自らの放った魔術を同じ魔術で相殺してソレの立ち上がる所を狙い、空中で身体を捻って回し蹴り。
 ソレは左腕でガードし、退くことなく体制の崩れた俺の懐へと身を入れ込み、斜め下からの逆袈裟斬りをしてきた。
 瞬時に左腕に小盾を装備してダメージを緩和する。一撃で小盾がお釈迦になったが、気にせず鎌を一瞬手放して握った拳で顔を殴り抜く。
 その勢いを生かしてくるりと身体を回転させて鎌を掴み、遠心力をのせた右薙ぎを叩き込む。
 ロングソードで防がれたが、勢い任せに弾き飛ばした。
 ソレは両翼を生かして勢いを殺すと優雅に着地した。

「プレイヤーにしてはやるな」

 切れた口の端から垂れる血を拭いながらそう言った。

「それはどうも。何故力片を狙う?」

 俺は距離が保たれたところで問いかける。

「この世界には不必要なものだからだ」

 ソレは言った。

「不必要?」
「新たな世界に旧き神の力など不必要」
「なるほど」

 言い方として新たな神──三女神どもの仲間だと確信した。

「だから渡せ。破壊する」
「悪いが俺らもこれが必要なんでな」
「愚問か」
「愚問だな」

 短い問答。
 直後戦闘が再開された。

 浮遊も使い、俺を狙った幾つもの吹き上がる黒炎を回避しながらソレに近付いていく。
 加速の勢いを付けたまま袈裟斬り。
 ソレは宙に飛び上がることにより回避。俺は追撃する。
 俺の頭上にいるソレは闇の魔術で槍を形成し放ってくる。
 身を翻し槍を避け袈裟斬りを繰り出すが、ロングソードで受け止められてしまう。 
 俺は鎌を手前に引いて首斬りを狙うも下にかわされてしまった。
 俺の腹を狙っての刺突を叩き落とし、ソレとの間に炎の魔術で爆発を起こす。
 爆風を利用して距離を取り、爆煙の中特攻してくるソレに向けて魔術で形成した巨大な雷の槌を振り下ろす。

 ソレはロングソードを盾にして雷の槌を防ぐと、力任せに弾く。
 雷光が弾け、雷の槌が消え失せるなか、今度は俺が特攻して連撃。
 縦横無尽の連撃をロングソードで防ぎながら魔術で攻撃してくる。
 こちらも魔術を行使して相殺。
 ソレの頭上に炎の魔術で爆発を起こして目眩ましをし、上段からの強撃を叩き込む。
 ロングソードで防がれるも、空中という不安定な場所での攻撃により踏ん張れず地面にむけて吹き飛んでいった。
 追撃するために急降下。
 即座に体勢を建て直したソレと、またも鍔迫り合いになる。

「ッ!?」

 今まで殺気で満ちていたソレは何かに驚き目を見開くと、力任せに鎌を弾いて後退した。

「・・・ここまでのようだ」

 そう呟くソレは、先ほどまでの殺気が嘘のように消え失せるとロングソードを霧散させた。

「仕留めるッ!」

 退散してくれるのはありがたい。
 だが、何やら嫌な予感がしたので思い切り地面を蹴り斬りかかる。
 が、ソレは自身から黒煙を発生させて俺の視界を奪った。

「次は奪い取る。どんな手を使ってでもな」

 黒煙の中からそう聞こえた。
 瞬時に風の魔術で黒煙を吹き飛ばすとソレは既にいなかった。

「・・・どんな手を使ってでも」

 残されたその言葉が嫌に印象に残った。


─────────────────────

お読みいただきありがとうございます!
真面目な戦闘回でしたが、どうでしたか?

私としてはあまり真面目に戦闘描写を書かないためか、とても難しかった印象でした。

さて、今回の的であった灰色のフリューゲルさん。
ノアとほぼ互角で戦えるほどエグい強さを持っていましたね。

彼が残した言葉に嫌な予感ビンビンなノア。
果たして彼はいったい何者なのか。

わたくしことうるふさんのやる気のために応援よろしくお願いしますっ!
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