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第三大陸編

ムスペル火山帯⑤

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 アビスメアと対峙したギルターは元の姿へと戻る。
 ギルターもかなりの大きさではあるが、アビスメアは全貌が見ることが出来ないほど巨大。

「Kisyaaaaaaaaaaaaッ!!」

 先に動いたのはアビスメアの方だった。
 巨大な口でギルターへと襲い掛かる。
 それを軽く跳んで避けると、ギルターはくるくると回って太くふわふわな尻尾で上からたたいた。人間で言うところのかかと落としのような感じだな。
 痛くないのか? あれ。
 尻尾で叩きつけられたアビスメアは床にめり込んだ。
 やっぱりレベル差はデカいな。
 たったあれだけの攻撃でアビスメアが床に沈むなんて。

『軽くはたいたつもりだったのだがな』

 ふん! と鼻を鳴らすギルター。
 だが、アビスメアを嘗めてはいけない。

『ぬっ!?』

 頭をめり込ましたまま身体の鱗と言う鱗の隙間からガスを噴き出し始める。
 普通の魔物であれば先の攻撃で沈ませることは出来るだろうが、アビスメアの厄介なところは無駄にある体力と無駄に高い耐久性にある。
 それに加えてあの毒ガスだ。

「マスター! マスクマスク!」
「はいよ」

 あの毒ガスはどんなに高い毒耐性を持っていようが関係なく体力を削ってくる。
 実装当初はもう非難の嵐だった。
 耐久高くて体力も無駄にあって、手出しの出来ない毒。
 運営はクソだってみんな言っていたのを覚えている。
 俺? 俺は課金アイテムと高級回復ポーションをがぶ飲み、バフがん盛りして仕留めたぜ?
 さすがに非難の多さから運営は救済措置としてガスマスクを実装。
 製作アイテムとして実装されたガスマスクによって非難は減った。が、コストが馬鹿みたいにかかるため攻略を諦めるプレイヤーが続出したのは言うまでもない。
 そこまで美味いダンジョンではないため周回するつもりはなかったのだが、フレンドに攻略したいと言われたため有り余ってた材料でフレンド分を量産。
 余剰で作ってしまったものが今もアイテムボックスの奥底で眠っている。
 そんなガスマスクを取り出してカプリスとリーリスに渡す。

「しゅこー。しゅこー」

 早速被ったカプリスはわざとらしく音を立てた。
 ガスマスクの外見はペストマスクそのまんま。
 絶対デザイン担当の趣味だろこれ。

「似合う?」
「似合わん」
「だよねー。マスターはつけないの?」
「死神シリーズは毒をも通さないのだ」
「出た! ぶっ壊れ!!」

 文句は運営さんへ。

『あのぉ、私のは……?』

 おずおずと片翼を上げて聞いてくるフィズリール。

「すまないな。魔物用のはないんだ」
『そうですか……。まあ炎形態なら問題ないのですけどね』

 そう残念がりながらも、いつもの白銀に輝く状態から炎の状態へと形態変化するフィズリール。
 なるほど、毒素を燃やすのか。

「なんか対策方法がフランベみたいだね」
「あー、たしかに」

 フランベも単独攻略をした動画を見たことあるが、確かに炎で毒を燃やしてたな。
 本人曰く、炎に勝てる物は存在しないらしい。
 や、まあね。フランベの火力――この場合文字通りの意味での火力に勝てる奴なんて限られてくるだろう。
 氷は瞬時に溶かし、水は蒸発、風は熱波で弾き返し、土は溶解、炎は耐性強すぎて効かない。
 フランベを倒すなら闇か光か雷らへんで畳みかけないと倒せんだろうな。
 炎耐性をガン上げしないと碌に近づけすらしないし。なんだよ熱による周辺ダメージって。

「さてさて、ギルターはどう対処するのかな?」

 話を終えてギルターの方を見ると、身体を覆うように光のドームを作っていた。

「障壁ですね。自分を中心に展開しているため移動しながら毒を防ぐことが出来ますね」

 おお、考えたな。
 ギルターの魔力量ならアビスメア相手程度で枯渇することはないだろう。
 毒霧の中、殺したと油断しているアビスメアに向かってギルターが駆け出す。
 光の魔術で爪を強化させたギルターは、駆けた状態からアビスメアの頭へと飛び掛かり目を狙ってひっかく。

「Syaaaaaaaaaaaッ!?」

 右目を失ったアビスメアは叫び声を上げて暴れる。
 振動がこっちに来るほど激しく動くアビスメアの背中に爪を立てて耐えていたが、ついに振り落とされてしまう。
 宙で耐性を立て直すためにクルリと回り光の魔術で作られた爪撃を飛ばしてもう一方の眼を潰した。
 戦い方がえぐい。
 だが、目を潰したところで蛇であるアビスメアはピット器官が存在する。
 落ち着いてきたアビスメアがギルターのいる方へと毒液を吐きかけた。
 飛び退いて回避したギルターはお返しとばかりに光線を吐き出す。
 狼なのにブレスを使う頭のおかしい生物オリジンウルフ。
 ブレスを吐いてすぐにギルターは駆け出していて、アビスメアの顎下まで行ったところで再度ブレスを顎へとぶつけた。
 ブレスによって仰け反ったアビスメアの首に噛みつき、地面へと叩きつけたギルターは噛みついたままブレスを吐きつける。
 痛みに暴れるもギルターの拘束を振りほどくことは出来ず、数秒間吐き続けられたところで動きが止まった。
 仕留めたようだ。
 あっさりだったな。

『終わったぞ?』

 毒霧が晴れていく中、ギルターがいつもの狼サイズに戻りながら歩いてきた。

「おう。やっぱりアビスメア程度じゃ話にならないな」
『主がやるとどれくらいかかるのだ?』
「うーん。顔出した瞬間だな」
『……精進しよう』
「にしし! マスター相手するなら9500はないとダメだよねー」
「それくらいあっても負ける気しないな。対人ランカーの上位陣が俺と同レベルだったらやべぇけど」

 闘技場と言うシステムがあり、戦闘力が一定値で固定されたその闘技場で対人を極めた猛者たち。
 彼らがもし、俺と同じ職でスキルが解放されていたらちょっと苦戦するかもしれない。

「言うてもマスター対人も一位じゃん」
「何回も塗り替えられてるけどな」
「いやー、それレベリングするーって期間空けるからじゃん。毎日潜ってたら塗り替えられることなかったんじゃない?」
「レベリングの方が大事だろ」
「あー、うん。まあ、そうだよね」

 対人なんかやってる暇あったらオリジン周回だろ常識的に考えて。
 そんなことを考えていると、ギルターとフィズリールがぶるりと身体を震わせた。

「さあ、帰ろうぜ」
「アビスメアの素材はどうするの?」
「持って帰ったら騒ぎになるだろ。放っておけばダンジョンに吸収されてリポップするだろうから置いてく」

 それにアビスメアの素材ならアイテムボックスの中でホコリ被ってるしな。

「それもそっかー」
「組合に報告したら今日は休んで明日ムスペル火山に向かうからな」
「お! ついにフランベだね!」
「あいつのことだからムスペルと戯れてるだろうな」
「だねー」

 ボス部屋の奥にある転送装置から地上へと移動したあと組合へと向かい、依頼の報告をして今日は宿へと帰った。



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