癒し(笑)の魔王~防御力が高すぎて誰にも倒せません~

岳河 夕陽

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第51話 少年と悲劇

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「ほんともう散々だったんですよいやこれマジで!!!」
「ブルウッ!ブルウッ!ブルルウ!!!」

『わたっ!しのっ!人参んんん!!!』


商人となった経緯を尋ねられたその途端、エドは水を得た魚の如く話し始めた・・・脳天にクリティカルヒットしまくっているプラムのひづめにすら気づかないほどに。


「・・・えと、うん。何か、大変だったんだね。」


ミスト、若干引き気味である。
エドの勢いもさながら、その必死の形相に加え、彼の後ろで飼い主の脳天を踏み潰さんとする繊細な乙女わがまま暴馬ことプラム。
・・・はっきり言って、あまりお目にかかりたくはない光景であった。


「ええ、最近、私の住んでいた村に訪れる方々が、ちょっとした事情で増えまして。まあ、そのちょっとした事情が事情なもので、村の役場がこと忙しくなってしまったんですよ。」
「いいことじゃないの?確かに忙しいのは面倒だけど。」
「ええ、忙しかったんですよ。母が村長の娘だったのもあって、少しばかり役場で働いていたんですよ。まあ、ほんの手伝い程度でしたが。」
「忙しすぎて逃げてきたってわけでもなさそうだね。」
「そこまでは何ともなかったんです・・・配属されたのが、あそこじゃなければ・・・あの部署でさえなければ・・・!」
「ん?」
「何だって万年独り身の俺が婚姻届を受け取らなきゃならねえんだよおぉぉぉ!!!」
「エドさーん、素が出てるぞー。」


エド少年、幸せそうなカップルを見るのがたいそう応えたらしい。ちなみに、彼は所謂【恋人いない歴=年齢】である。しかも、


「マジで誰だようちの村の【サクラ】の樹の下でプロポーズしてウチの村で婚姻届出せば幸せになれるとか言ったのは!?おかげで婚姻届の書類だけ軽く5倍に増えてんだぞおい!?」
「うん、大変だったんだね。ところでさ・・・それ、ほっといていいの?」
「ブルルルルウ!!!」


役場の仕事が増えた理由もこれなのであった。彼にとって、毎日のように訪れる幸せそうなカップルを見ているのは辛すぎた。ついに耐えかねて役場の手伝いをやめたのだが、結局のところ、村中が新婚の2人組みで溢れかえっているのだから、大して変わりはしなかった。
故に、もういっそのこと村を出てしまえ!と、父の仕事を引き継いで、国内の各地を回る商人となったのである。

そして、ゲシゲシと今だに飼い主を蹴りつけているプラム。
珍しい事に、ミストの頬が引きつってきているのだが・・・1人と1頭がそれに気づくことはなかった。


「毎日毎日べたべたベタベタとっ・・・!」
『こんだけ踏まれても傷一つないし、私と似たようなステータスかもしれないなー。』


怒涛の勢いで負の感情を吐きだすエドを見て、若干遠い目をしながらそう思うミストなのであった。と、


「あ、角兎ホーンラビットだ!」


そらした視線の先に、黒と焦げ茶の塊がいた。角兎は雌雄で体毛の色が違うのである。
番であろう2羽の角兎を見つけ、喜色満面となるミスト。


この瞬間、ミストの思考から他の事は一切合切が消え去った。夕食の品数、とりわけ肉は多いに越したことはないのだ。最早、ホーンラビットの番しか見えていない。


この程度であれば魔法を使うまでもなく仕留められる。そう考えて、いつものロッド(撲殺用)を取り出した。
防御力特化のミストである。自分から積極的に攻撃するのは得意とはしない。もしも角兎に逃げられでもすれば、それを追って捕らえる事は難しいだろう。
だがしかし、角兎というのは見た目にそぐわず凶暴で、こちらの存在に気がつけば直ぐさま襲ってくる。それ故に、いかなミストといえども、容易に捉えることができるのである。二兎を追っても二兎とも得られるのだ。


「俺だって可愛い彼女が欲しいんだよ!どいつもこいつもいちゃつきやがって!」


グッと、少しばかり身をかがめる。ミストが駆け出そうとした、その時であった。


偶然にもエドが角兎の番を目にし、そして、


「ちくしょう!【リア充爆発しろ】!!!」
「え!?」




チュドオォォォォォォォォォォン!!!!!




角兎の周囲に魔力が集中し、閃光と轟音を放ってーーー爆発した。


【リア充爆発しろ】。何代か前の勇者に巻き込まれて異世界から召喚された青年が生み出した、スキルによる取得が不可能な超高難易度の魔法である。


爆発地点を中心として半径3メートル程の地面が抉り取られ、焦土と化す。ミストが咄嗟にはなった防御障壁で押さえ込んだためにこの程度で済んだが、そうでなければ、周辺一帯がこうなっていてもおかしくはなかったであろう。


「あー、すっきりした。はっ!申し訳ございませんお客様、いらぬ話をグダグダと致してしまいまして、」


【リア充爆発しろ】の使用により、多少の憂さ晴らしができたらしい。先程までの妙な迫力が消え去り、正気に戻ったらしいエド。が、


「ねぇ、」


その声と共に、ユラリ、と振り返る客の少女。それは


「私のお肉・・・どうしてくれるの?」


ロッドを右手に握りしめ、完全に座った目をした魔王ミストであった。


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