4 / 18
04
しおりを挟む
04
長い廊下に二つの足音が響いている。1つは革靴のカツカツとなる音、もう一つは骨が軋む音だ。
「・・なぁ」
「はい、なんですか?」
「音がうるさいんだけど」
「あはは、これは失敬しました。何分ただの骨なので、音を出さずに歩くのは骨が折れます。なんちゃって」
「・・・なぁ」
「なんですか?」
「魔王ってどんな奴なんだ?」
「・・・質問に具体性がありませんね。まぁ、いいでしょう。魔王様はとにかくお優しいお方です。魔界の民を想い、人界を想い、全てを1人で守ろうとする。そんな御方です」
「魔王が人界を想う?そんな話、誰が信じるんだ!」
「人間は誰も信じないでしょう。そういう風に操作してますから」
「操作?」
「ええ、人は放っていると勝手に争い合います。他者を受け入れない生き物ですから。だから魔王様が、唯一の他者となり、守っているのですよ。我々は、そんな御方だからこそ付き従うのです」
「・・・バカな、じゃあアタシ達やご先祖様は今まで罪もない魔物達を・・・」
「ああ、勘違いしないでくださいよ。今まであなたが倒してきた魔物は全員生きてますから」
「・・・は?」
「生きているんですよ。魔物が本気を出せばスライム1体で城を滅ぼすこともできます。みんな加減をするんですよ魔王様の御指示でね。ゴブリンの軍隊なんかは2週間もあれば1つの世界を破壊できるんじゃないですかね」
「ば、ばかな!魔王だってそんな力があるようには見えなかった」
突然、目の前に魔法陣が形成された。スケルトンとカレンは立ち止まる。魔法陣から姿を現したのは魔王だった。しかし、カレンが先ほど戦った魔王とは姿形がまるで違う。腰まで伸びた銀髪に、20代くらいの容姿、目は吸い込まれそうな程澄んだ碧眼。
「・・・・誰だ」
「吾輩だよ!吾輩!魔王だよ!」
「カレン様、こちらは魔王様の本来の御姿です。魔王様も、姿形が変われば困惑するからちゃんと説明して下さい」
「・・分かったよ。改めて、吾輩が魔王である。吾輩は姿形を自在に変身させることが出来る力を有している。ここに来たのは知らせがあったからだ」
「なに?」
「午後から悲篠温泉へ無料招待するぞ!まぁ魔界に金銭の概念はないがな!ゆっくり湯に浸かり、間違いのない選択を選んでくれ。猶予は明日までだからな!」
じゃっ!と手を振って魔法陣の中に消えて行った。
「・・・ねぇ」
「はい?」
「なんであいつ魔王なんかやってんの?」
「・・・ぐうの音もでません。私も直接聞いたことはないので定かではないですが、魔王様には人間の想い人がいたとか。もう数千年前の話なのでそれが関係するかは分かりませんが、出会う以前の魔王様は非常に気性の荒い魔王様だったとか」
(やっぱり師範代から聞いてきた魔王像と大きな違いがある。このスケルトンが言ってる操作は真実なのかもしれない)
「着きました。ここが寝室でございます」
案内された部屋はまるで王国のお姫様の部屋のようだった。隅々がきれいに掃除され、窓から見える景色は魔界の全てが見渡せるほど壮観だった。魔界は薄暗いが魔王の魔力により太陽光を模した光が朝から夕方にかけて降り注いでいる。勇者というイベントが終われば元の美しい世界に戻る。
「魔界がこんな場所だったなんて。私達の世界より綺麗だ」
「悲篠温泉へのインスタントゲートを御用意しておりますので魔法陣に入ったらすぐに行けます。ただし1往復で消滅するのでお気をつけを」
そう言い残し、スケルトンは客室を後にした。
「・・・私達の旅ってなんだったんだろう」
数々の苦難を乗り越え、明くる日も魔物を討伐して報酬を得て、レベルを上げて成長する。当たり前だったことが全てまやかしだと思うと、脱力感が体の内から侵食してくる。
こんなにも美しい世界を全員躍起になって侵略しようとしてた罪悪感に打ちひしがれた。
「・・・あーやめやめ!今はお風呂に入って考えを整理しないと」
インスタントゲートに入ると一瞬で景色が寝室から銭湯に変わっていた。
「これ・・・凄すぎ」
銭湯の中はとても綺麗で、上流階級の人間しか入れないような雰囲気を彷彿とさせた。カレンは入るのを躊躇ったが、後ろから
「入らないのか?」
と魔王がはにかみながら問いかけてきた。
「い、いきなり後ろに立つんじゃないわよ!」
振り向き様に勢いよく頬をビンタすると思いの外クリーンヒットした。10mほど吹き飛ばされ、銭湯の壁に激突する。
「・・か、かはっ」
「あ・・ご、ごめん」
「い、いやこっちもごめん。気配隠さずに近寄ったから分かるかなって油断してた」
頬を摩りながら苦笑いを浮かべる魔王。
「魔王なんだから別に痛くないんじゃないの?」
「気を抜いていればどんな攻撃も痛いよ。昨日も吾輩の寝室でタンスの角に小指ぶつけて悶えてたから」
「・・・あなた、本当に魔王なの?」
「・・・よく言われる」
しばらくの沈黙の後、2人は銭湯の中に入っていった。
「・・・ふぅ、魔界ってなんでこんなに極楽なのよ」
「それは良かった。招待した甲斐があったよ」
「・・・・・・は?」
「ん?」
刹那、カレンの掌底が魔王の頭蓋に突き刺さる。入口のビンタの事もあり避けるだろうと本気で打ち込むと、またしてもクリーンヒットした。
「・・・避けなさいよ」
「いや、急だったから」
「じゃなくて‼︎なんであんたがここに居るのよ!」
「ここは混浴だから?」
「なっ‼︎」
「あぁ、吾輩の姿が気になるのかちょっと待っててくれ」
そう言って魔王の体が光り始め、次第に女性の姿に変身していく。
「これならもんだいないだろ?」
「なんなの・・・このナイスバディ。私への当てつけか!」
「あのゲス元勇者と賢者には怒らないのになんで吾輩にはそんなに怒るんだ?」
「なんでって、それはあんたがアタシ達人類の敵・・・・・・」
「ん?どうした?」
「・・・いや、なんでもない」
「そうか、ならばここでゆっくりする事だ。吾輩は邪魔のようだから時間をずらしてまた入るとするよ」
そう言い残し、カレンに背を向けて出て行った。
(・・・・・・・・・・・・アタシ、決めた!)
長い廊下に二つの足音が響いている。1つは革靴のカツカツとなる音、もう一つは骨が軋む音だ。
「・・なぁ」
「はい、なんですか?」
「音がうるさいんだけど」
「あはは、これは失敬しました。何分ただの骨なので、音を出さずに歩くのは骨が折れます。なんちゃって」
「・・・なぁ」
「なんですか?」
「魔王ってどんな奴なんだ?」
「・・・質問に具体性がありませんね。まぁ、いいでしょう。魔王様はとにかくお優しいお方です。魔界の民を想い、人界を想い、全てを1人で守ろうとする。そんな御方です」
「魔王が人界を想う?そんな話、誰が信じるんだ!」
「人間は誰も信じないでしょう。そういう風に操作してますから」
「操作?」
「ええ、人は放っていると勝手に争い合います。他者を受け入れない生き物ですから。だから魔王様が、唯一の他者となり、守っているのですよ。我々は、そんな御方だからこそ付き従うのです」
「・・・バカな、じゃあアタシ達やご先祖様は今まで罪もない魔物達を・・・」
「ああ、勘違いしないでくださいよ。今まであなたが倒してきた魔物は全員生きてますから」
「・・・は?」
「生きているんですよ。魔物が本気を出せばスライム1体で城を滅ぼすこともできます。みんな加減をするんですよ魔王様の御指示でね。ゴブリンの軍隊なんかは2週間もあれば1つの世界を破壊できるんじゃないですかね」
「ば、ばかな!魔王だってそんな力があるようには見えなかった」
突然、目の前に魔法陣が形成された。スケルトンとカレンは立ち止まる。魔法陣から姿を現したのは魔王だった。しかし、カレンが先ほど戦った魔王とは姿形がまるで違う。腰まで伸びた銀髪に、20代くらいの容姿、目は吸い込まれそうな程澄んだ碧眼。
「・・・・誰だ」
「吾輩だよ!吾輩!魔王だよ!」
「カレン様、こちらは魔王様の本来の御姿です。魔王様も、姿形が変われば困惑するからちゃんと説明して下さい」
「・・分かったよ。改めて、吾輩が魔王である。吾輩は姿形を自在に変身させることが出来る力を有している。ここに来たのは知らせがあったからだ」
「なに?」
「午後から悲篠温泉へ無料招待するぞ!まぁ魔界に金銭の概念はないがな!ゆっくり湯に浸かり、間違いのない選択を選んでくれ。猶予は明日までだからな!」
じゃっ!と手を振って魔法陣の中に消えて行った。
「・・・ねぇ」
「はい?」
「なんであいつ魔王なんかやってんの?」
「・・・ぐうの音もでません。私も直接聞いたことはないので定かではないですが、魔王様には人間の想い人がいたとか。もう数千年前の話なのでそれが関係するかは分かりませんが、出会う以前の魔王様は非常に気性の荒い魔王様だったとか」
(やっぱり師範代から聞いてきた魔王像と大きな違いがある。このスケルトンが言ってる操作は真実なのかもしれない)
「着きました。ここが寝室でございます」
案内された部屋はまるで王国のお姫様の部屋のようだった。隅々がきれいに掃除され、窓から見える景色は魔界の全てが見渡せるほど壮観だった。魔界は薄暗いが魔王の魔力により太陽光を模した光が朝から夕方にかけて降り注いでいる。勇者というイベントが終われば元の美しい世界に戻る。
「魔界がこんな場所だったなんて。私達の世界より綺麗だ」
「悲篠温泉へのインスタントゲートを御用意しておりますので魔法陣に入ったらすぐに行けます。ただし1往復で消滅するのでお気をつけを」
そう言い残し、スケルトンは客室を後にした。
「・・・私達の旅ってなんだったんだろう」
数々の苦難を乗り越え、明くる日も魔物を討伐して報酬を得て、レベルを上げて成長する。当たり前だったことが全てまやかしだと思うと、脱力感が体の内から侵食してくる。
こんなにも美しい世界を全員躍起になって侵略しようとしてた罪悪感に打ちひしがれた。
「・・・あーやめやめ!今はお風呂に入って考えを整理しないと」
インスタントゲートに入ると一瞬で景色が寝室から銭湯に変わっていた。
「これ・・・凄すぎ」
銭湯の中はとても綺麗で、上流階級の人間しか入れないような雰囲気を彷彿とさせた。カレンは入るのを躊躇ったが、後ろから
「入らないのか?」
と魔王がはにかみながら問いかけてきた。
「い、いきなり後ろに立つんじゃないわよ!」
振り向き様に勢いよく頬をビンタすると思いの外クリーンヒットした。10mほど吹き飛ばされ、銭湯の壁に激突する。
「・・か、かはっ」
「あ・・ご、ごめん」
「い、いやこっちもごめん。気配隠さずに近寄ったから分かるかなって油断してた」
頬を摩りながら苦笑いを浮かべる魔王。
「魔王なんだから別に痛くないんじゃないの?」
「気を抜いていればどんな攻撃も痛いよ。昨日も吾輩の寝室でタンスの角に小指ぶつけて悶えてたから」
「・・・あなた、本当に魔王なの?」
「・・・よく言われる」
しばらくの沈黙の後、2人は銭湯の中に入っていった。
「・・・ふぅ、魔界ってなんでこんなに極楽なのよ」
「それは良かった。招待した甲斐があったよ」
「・・・・・・は?」
「ん?」
刹那、カレンの掌底が魔王の頭蓋に突き刺さる。入口のビンタの事もあり避けるだろうと本気で打ち込むと、またしてもクリーンヒットした。
「・・・避けなさいよ」
「いや、急だったから」
「じゃなくて‼︎なんであんたがここに居るのよ!」
「ここは混浴だから?」
「なっ‼︎」
「あぁ、吾輩の姿が気になるのかちょっと待っててくれ」
そう言って魔王の体が光り始め、次第に女性の姿に変身していく。
「これならもんだいないだろ?」
「なんなの・・・このナイスバディ。私への当てつけか!」
「あのゲス元勇者と賢者には怒らないのになんで吾輩にはそんなに怒るんだ?」
「なんでって、それはあんたがアタシ達人類の敵・・・・・・」
「ん?どうした?」
「・・・いや、なんでもない」
「そうか、ならばここでゆっくりする事だ。吾輩は邪魔のようだから時間をずらしてまた入るとするよ」
そう言い残し、カレンに背を向けて出て行った。
(・・・・・・・・・・・・アタシ、決めた!)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる