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長い廊下に二つの足音が響いている。1つは革靴のカツカツとなる音、もう一つは骨が軋む音だ。
「・・なぁ」
「はい、なんですか?」
「音がうるさいんだけど」
「あはは、これは失敬しました。何分ただの骨なので、音を出さずに歩くのは骨が折れます。なんちゃって」
「・・・なぁ」
「なんですか?」
「魔王ってどんな奴なんだ?」
「・・・質問に具体性がありませんね。まぁ、いいでしょう。魔王様はとにかくお優しいお方です。魔界の民を想い、人界を想い、全てを1人で守ろうとする。そんな御方です」
「魔王が人界を想う?そんな話、誰が信じるんだ!」
「人間は誰も信じないでしょう。そういう風に操作してますから」
「操作?」
「ええ、人は放っていると勝手に争い合います。他者を受け入れない生き物ですから。だから魔王様が、唯一の他者となり、守っているのですよ。我々は、そんな御方だからこそ付き従うのです」
「・・・バカな、じゃあアタシ達やご先祖様は今まで罪もない魔物達を・・・」
「ああ、勘違いしないでくださいよ。今まであなたが倒してきた魔物は全員生きてますから」
「・・・は?」
「生きているんですよ。魔物が本気を出せばスライム1体で城を滅ぼすこともできます。みんな加減をするんですよ魔王様の御指示でね。ゴブリンの軍隊なんかは2週間もあれば1つの世界を破壊できるんじゃないですかね」
「ば、ばかな!魔王だってそんな力があるようには見えなかった」
突然、目の前に魔法陣が形成された。スケルトンとカレンは立ち止まる。魔法陣から姿を現したのは魔王だった。しかし、カレンが先ほど戦った魔王とは姿形がまるで違う。腰まで伸びた銀髪に、20代くらいの容姿、目は吸い込まれそうな程澄んだ碧眼。
「・・・・誰だ」
「吾輩だよ!吾輩!魔王だよ!」
「カレン様、こちらは魔王様の本来の御姿です。魔王様も、姿形が変われば困惑するからちゃんと説明して下さい」
「・・分かったよ。改めて、吾輩が魔王である。吾輩は姿形を自在に変身させることが出来る力を有している。ここに来たのは知らせがあったからだ」
「なに?」
「午後から悲篠温泉へ無料招待するぞ!まぁ魔界に金銭の概念はないがな!ゆっくり湯に浸かり、間違いのない選択を選んでくれ。猶予は明日までだからな!」
じゃっ!と手を振って魔法陣の中に消えて行った。
「・・・ねぇ」
「はい?」
「なんであいつ魔王なんかやってんの?」
「・・・ぐうの音もでません。私も直接聞いたことはないので定かではないですが、魔王様には人間の想い人がいたとか。もう数千年前の話なのでそれが関係するかは分かりませんが、出会う以前の魔王様は非常に気性の荒い魔王様だったとか」
(やっぱり師範代から聞いてきた魔王像と大きな違いがある。このスケルトンが言ってる操作は真実なのかもしれない)
「着きました。ここが寝室でございます」
案内された部屋はまるで王国のお姫様の部屋のようだった。隅々がきれいに掃除され、窓から見える景色は魔界の全てが見渡せるほど壮観だった。魔界は薄暗いが魔王の魔力により太陽光を模した光が朝から夕方にかけて降り注いでいる。勇者というイベントが終われば元の美しい世界に戻る。
「魔界がこんな場所だったなんて。私達の世界より綺麗だ」
「悲篠温泉へのインスタントゲートを御用意しておりますので魔法陣に入ったらすぐに行けます。ただし1往復で消滅するのでお気をつけを」
そう言い残し、スケルトンは客室を後にした。
「・・・私達の旅ってなんだったんだろう」
数々の苦難を乗り越え、明くる日も魔物を討伐して報酬を得て、レベルを上げて成長する。当たり前だったことが全てまやかしだと思うと、脱力感が体の内から侵食してくる。
こんなにも美しい世界を全員躍起になって侵略しようとしてた罪悪感に打ちひしがれた。
「・・・あーやめやめ!今はお風呂に入って考えを整理しないと」
インスタントゲートに入ると一瞬で景色が寝室から銭湯に変わっていた。
「これ・・・凄すぎ」
銭湯の中はとても綺麗で、上流階級の人間しか入れないような雰囲気を彷彿とさせた。カレンは入るのを躊躇ったが、後ろから
「入らないのか?」
と魔王がはにかみながら問いかけてきた。
「い、いきなり後ろに立つんじゃないわよ!」
振り向き様に勢いよく頬をビンタすると思いの外クリーンヒットした。10mほど吹き飛ばされ、銭湯の壁に激突する。
「・・か、かはっ」
「あ・・ご、ごめん」
「い、いやこっちもごめん。気配隠さずに近寄ったから分かるかなって油断してた」
頬を摩りながら苦笑いを浮かべる魔王。
「魔王なんだから別に痛くないんじゃないの?」
「気を抜いていればどんな攻撃も痛いよ。昨日も吾輩の寝室でタンスの角に小指ぶつけて悶えてたから」
「・・・あなた、本当に魔王なの?」
「・・・よく言われる」
しばらくの沈黙の後、2人は銭湯の中に入っていった。
「・・・ふぅ、魔界ってなんでこんなに極楽なのよ」
「それは良かった。招待した甲斐があったよ」
「・・・・・・は?」
「ん?」
刹那、カレンの掌底が魔王の頭蓋に突き刺さる。入口のビンタの事もあり避けるだろうと本気で打ち込むと、またしてもクリーンヒットした。
「・・・避けなさいよ」
「いや、急だったから」
「じゃなくて‼︎なんであんたがここに居るのよ!」
「ここは混浴だから?」
「なっ‼︎」
「あぁ、吾輩の姿が気になるのかちょっと待っててくれ」
そう言って魔王の体が光り始め、次第に女性の姿に変身していく。
「これならもんだいないだろ?」
「なんなの・・・このナイスバディ。私への当てつけか!」
「あのゲス元勇者と賢者には怒らないのになんで吾輩にはそんなに怒るんだ?」
「なんでって、それはあんたがアタシ達人類の敵・・・・・・」
「ん?どうした?」
「・・・いや、なんでもない」
「そうか、ならばここでゆっくりする事だ。吾輩は邪魔のようだから時間をずらしてまた入るとするよ」
そう言い残し、カレンに背を向けて出て行った。
(・・・・・・・・・・・・アタシ、決めた!)
長い廊下に二つの足音が響いている。1つは革靴のカツカツとなる音、もう一つは骨が軋む音だ。
「・・なぁ」
「はい、なんですか?」
「音がうるさいんだけど」
「あはは、これは失敬しました。何分ただの骨なので、音を出さずに歩くのは骨が折れます。なんちゃって」
「・・・なぁ」
「なんですか?」
「魔王ってどんな奴なんだ?」
「・・・質問に具体性がありませんね。まぁ、いいでしょう。魔王様はとにかくお優しいお方です。魔界の民を想い、人界を想い、全てを1人で守ろうとする。そんな御方です」
「魔王が人界を想う?そんな話、誰が信じるんだ!」
「人間は誰も信じないでしょう。そういう風に操作してますから」
「操作?」
「ええ、人は放っていると勝手に争い合います。他者を受け入れない生き物ですから。だから魔王様が、唯一の他者となり、守っているのですよ。我々は、そんな御方だからこそ付き従うのです」
「・・・バカな、じゃあアタシ達やご先祖様は今まで罪もない魔物達を・・・」
「ああ、勘違いしないでくださいよ。今まであなたが倒してきた魔物は全員生きてますから」
「・・・は?」
「生きているんですよ。魔物が本気を出せばスライム1体で城を滅ぼすこともできます。みんな加減をするんですよ魔王様の御指示でね。ゴブリンの軍隊なんかは2週間もあれば1つの世界を破壊できるんじゃないですかね」
「ば、ばかな!魔王だってそんな力があるようには見えなかった」
突然、目の前に魔法陣が形成された。スケルトンとカレンは立ち止まる。魔法陣から姿を現したのは魔王だった。しかし、カレンが先ほど戦った魔王とは姿形がまるで違う。腰まで伸びた銀髪に、20代くらいの容姿、目は吸い込まれそうな程澄んだ碧眼。
「・・・・誰だ」
「吾輩だよ!吾輩!魔王だよ!」
「カレン様、こちらは魔王様の本来の御姿です。魔王様も、姿形が変われば困惑するからちゃんと説明して下さい」
「・・分かったよ。改めて、吾輩が魔王である。吾輩は姿形を自在に変身させることが出来る力を有している。ここに来たのは知らせがあったからだ」
「なに?」
「午後から悲篠温泉へ無料招待するぞ!まぁ魔界に金銭の概念はないがな!ゆっくり湯に浸かり、間違いのない選択を選んでくれ。猶予は明日までだからな!」
じゃっ!と手を振って魔法陣の中に消えて行った。
「・・・ねぇ」
「はい?」
「なんであいつ魔王なんかやってんの?」
「・・・ぐうの音もでません。私も直接聞いたことはないので定かではないですが、魔王様には人間の想い人がいたとか。もう数千年前の話なのでそれが関係するかは分かりませんが、出会う以前の魔王様は非常に気性の荒い魔王様だったとか」
(やっぱり師範代から聞いてきた魔王像と大きな違いがある。このスケルトンが言ってる操作は真実なのかもしれない)
「着きました。ここが寝室でございます」
案内された部屋はまるで王国のお姫様の部屋のようだった。隅々がきれいに掃除され、窓から見える景色は魔界の全てが見渡せるほど壮観だった。魔界は薄暗いが魔王の魔力により太陽光を模した光が朝から夕方にかけて降り注いでいる。勇者というイベントが終われば元の美しい世界に戻る。
「魔界がこんな場所だったなんて。私達の世界より綺麗だ」
「悲篠温泉へのインスタントゲートを御用意しておりますので魔法陣に入ったらすぐに行けます。ただし1往復で消滅するのでお気をつけを」
そう言い残し、スケルトンは客室を後にした。
「・・・私達の旅ってなんだったんだろう」
数々の苦難を乗り越え、明くる日も魔物を討伐して報酬を得て、レベルを上げて成長する。当たり前だったことが全てまやかしだと思うと、脱力感が体の内から侵食してくる。
こんなにも美しい世界を全員躍起になって侵略しようとしてた罪悪感に打ちひしがれた。
「・・・あーやめやめ!今はお風呂に入って考えを整理しないと」
インスタントゲートに入ると一瞬で景色が寝室から銭湯に変わっていた。
「これ・・・凄すぎ」
銭湯の中はとても綺麗で、上流階級の人間しか入れないような雰囲気を彷彿とさせた。カレンは入るのを躊躇ったが、後ろから
「入らないのか?」
と魔王がはにかみながら問いかけてきた。
「い、いきなり後ろに立つんじゃないわよ!」
振り向き様に勢いよく頬をビンタすると思いの外クリーンヒットした。10mほど吹き飛ばされ、銭湯の壁に激突する。
「・・か、かはっ」
「あ・・ご、ごめん」
「い、いやこっちもごめん。気配隠さずに近寄ったから分かるかなって油断してた」
頬を摩りながら苦笑いを浮かべる魔王。
「魔王なんだから別に痛くないんじゃないの?」
「気を抜いていればどんな攻撃も痛いよ。昨日も吾輩の寝室でタンスの角に小指ぶつけて悶えてたから」
「・・・あなた、本当に魔王なの?」
「・・・よく言われる」
しばらくの沈黙の後、2人は銭湯の中に入っていった。
「・・・ふぅ、魔界ってなんでこんなに極楽なのよ」
「それは良かった。招待した甲斐があったよ」
「・・・・・・は?」
「ん?」
刹那、カレンの掌底が魔王の頭蓋に突き刺さる。入口のビンタの事もあり避けるだろうと本気で打ち込むと、またしてもクリーンヒットした。
「・・・避けなさいよ」
「いや、急だったから」
「じゃなくて‼︎なんであんたがここに居るのよ!」
「ここは混浴だから?」
「なっ‼︎」
「あぁ、吾輩の姿が気になるのかちょっと待っててくれ」
そう言って魔王の体が光り始め、次第に女性の姿に変身していく。
「これならもんだいないだろ?」
「なんなの・・・このナイスバディ。私への当てつけか!」
「あのゲス元勇者と賢者には怒らないのになんで吾輩にはそんなに怒るんだ?」
「なんでって、それはあんたがアタシ達人類の敵・・・・・・」
「ん?どうした?」
「・・・いや、なんでもない」
「そうか、ならばここでゆっくりする事だ。吾輩は邪魔のようだから時間をずらしてまた入るとするよ」
そう言い残し、カレンに背を向けて出て行った。
(・・・・・・・・・・・・アタシ、決めた!)
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