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15ー魔王sideー
カツカツと、廊下を歩くゴーレム。敗北を自ら認め、魔王城を上へと登っていく。このような負け方、認められるのだろうか。自ら慕う魔王に殺されるのなら悔いはない。そう考えながら淡々と歩いていく。
ふと、目の前に魔法陣が構築された。転移魔法、きっと魔王様が来られたのだ、そして、罰を与えに来られたのだ。覚悟を決め目を閉じるゴーレム。
しかし、ゴーレムは何かに包まれた。目を開けると、魔王が何も言わず抱擁していた。暖かい懐に、自然と涙が溢れて止まらない。
「すまない、辛い思いをさせてしまったね。ゴーレム・・・いや、リク。もう少しの辛抱だ。もう少しで君はーー」
涙が止まらなかった。ただただその言葉や優しさが深く、心に染み渡ってくる。
ー数日前ー
「・・・もう一回言ってくれるかな?」
魔王城の王室、そこでサラマンダーとゴーレム、魔王とその側近のスケルトンが顔を見合わせていた。
「はい、ここにいるゴーレムが人間になりたいと申しております」
「・・・もう一回「くどい!」」
スケルトンから裏手でツッコミを入れられる魔王。それほどまでに動揺する出来事だった。
「な、なにが原因なんだ??シフトが多かったからか?それとも、劣悪な職場環境だからか?」
「いや、私たち雇われてないでしょ」
「じゃああれだ!俺の一人称が吾輩になった事で仕事意欲が削がれていったとかで・・・」
再度スケルトンに裏手でつっこまれる。
「だから、魔王カンパニーなんて私たち入社した覚えないって言ってるでしょ?ゴーレムさん、説明をお願いできますか?」
「・・・・・・」
「ゴーレムは昨日、ナンバーワールド07に居たそうです。そこで盗賊に攫われそうになっていた女性を咄嗟に助けてしまい・・・その、仲良くなったと。しかし、ゴーレムの姿では彼女と共に過ごすことはできず、どうすることも出来ないまま今に至るとの事です」
「・・・そうか」
「やはり、人間の転身は叶わないのでしょうか。私、サラマンダーにとって、ゴーレムは子のようなもの。子の願いは叶えてやりたく。どうか、助言を」
「いや、人間への転身は過去にも例がある。だが、心優しきゴーレムには少し荷が重いがそれでもいいのか?」
即答、ゴーレムはすぐさま首を縦に振り答える。
「そうか・・・すまない、後でいくらでも俺を恨んでくれ」
「一体それはどういう意味でしょうか?」
「まず、人間に転身するにはいくつかの条件を満たさなければならない。一つは名前を決める。ゴーレムではなく人間としての名前、それには、大量の魔力が必要になる。これは俺が用意しよう。そしてもう一つ、この飲み物を飲んでくれ」
凝縮した魔力を両手でこねくりまわし銀色の液体が入ったゴブレットを1つ作り出した。
「魔王様、それはどのような効果が?」
「・・・これはな、人を憎しむようになる飲み物だ」
「・・・・人間になる希望を捨てよと申しますか・・・」
項垂れるサラマンダー。
「違うんだサラマンダー・・・・。ゴーレムは人間に対して慈愛の心しかない。故に、慈愛の試練は人間に憎しみを持って挑まなくてはならないのだ。正直、この試練がゴーレムにとっては一番堪えるだろう。そして、最後に魔族としての記憶を無くすこと。これは、意中の相手との記憶も例外ではない。この3つの条件が満たせて人間になれる。ゴーレム、お前にその覚悟はあるか?」
ゴーレムは少し考えた後、静かに頷いた。
「・・・・そうか、お前がいなくなると少し寂しくなるな」
ゴーレムの硬い岩をさすりながら優しい目で見つめる魔王。そこから一気に魔力を流し込む。
「我が名は魔王 我の魔力を糧とし 汝を生命の根幹から解き放て 汝の名はリク・アルフレッド」
ゴーレムの体を魔力が包み込み、やがて全体を覆うと白く輝き出す。その光が次第に消えていくと、光源の中心に1人の少年の姿があった。
「に・・・人間?」
「それは君の人間としての核だ。そこからリク・アルフレッドという人間が形成されていく。だがしばらくは自信を岩で覆うといい。人間の核は如何様にも変化し易い」
リクの体は岩に覆われ、再び元のゴーレムに姿を変えた。
「後はこの液体を飲んでくれ」
リクは少し躊躇いながらも銀色の液体を一気に飲み干した。
「ぐっ⁉︎あああぁぁぁ⁉︎」
地面に伏せ悲鳴をあげるリク。体の中を憎しみが侵食していく。嫌だ!嫌だ!嫌だ!・・・心で叫ぶが、次第に全て憎しみに染まった。
「僕は、人間が嫌いです」
慈愛の象徴のような存在のゴーレムからは思いもよらない言葉。その言葉は魔王の心に深く突き刺さる。
「・・・・・・・すまない、すぐに戻るからな」
魔王にとっても、苦渋の決断だった。魔族は数千年生きることができるのに対し、人間はたかだか80年ほどしか生きれない。いわば、寿命を縮める行為なのだ。しかし、ゴーレムは言った、仲良くなった娘がいると。愛かもわからないその感情でただ一つ、人間になって一緒にいたいのだと。ならば、魔王が取る行動は一つしかなかったのだ。
「・・・・魔王様、最大限の御慈悲ありがとうございます。この試練、必ずやリクは成し遂げてみせます」
・・・・・
・・・・
・・・
カツカツと、廊下を歩くゴーレム。敗北を自ら認め、魔王城を上へと登っていく。このような負け方、認められるのだろうか。自ら慕う魔王に殺されるのなら悔いはない。そう考えながら淡々と歩いていく。
ふと、目の前に魔法陣が構築された。転移魔法、きっと魔王様が来られたのだ、そして、罰を与えに来られたのだ。覚悟を決め目を閉じるゴーレム。
しかし、ゴーレムは何かに包まれた。目を開けると、魔王が何も言わず抱擁していた。暖かい懐に、自然と涙が溢れて止まらない。
「すまない、辛い思いをさせてしまったね。ゴーレム・・・いや、リク。もう少しの辛抱だ。もう少しで君はーー」
涙が止まらなかった。ただただその言葉や優しさが深く、心に染み渡ってくる。
ー数日前ー
「・・・もう一回言ってくれるかな?」
魔王城の王室、そこでサラマンダーとゴーレム、魔王とその側近のスケルトンが顔を見合わせていた。
「はい、ここにいるゴーレムが人間になりたいと申しております」
「・・・もう一回「くどい!」」
スケルトンから裏手でツッコミを入れられる魔王。それほどまでに動揺する出来事だった。
「な、なにが原因なんだ??シフトが多かったからか?それとも、劣悪な職場環境だからか?」
「いや、私たち雇われてないでしょ」
「じゃああれだ!俺の一人称が吾輩になった事で仕事意欲が削がれていったとかで・・・」
再度スケルトンに裏手でつっこまれる。
「だから、魔王カンパニーなんて私たち入社した覚えないって言ってるでしょ?ゴーレムさん、説明をお願いできますか?」
「・・・・・・」
「ゴーレムは昨日、ナンバーワールド07に居たそうです。そこで盗賊に攫われそうになっていた女性を咄嗟に助けてしまい・・・その、仲良くなったと。しかし、ゴーレムの姿では彼女と共に過ごすことはできず、どうすることも出来ないまま今に至るとの事です」
「・・・そうか」
「やはり、人間の転身は叶わないのでしょうか。私、サラマンダーにとって、ゴーレムは子のようなもの。子の願いは叶えてやりたく。どうか、助言を」
「いや、人間への転身は過去にも例がある。だが、心優しきゴーレムには少し荷が重いがそれでもいいのか?」
即答、ゴーレムはすぐさま首を縦に振り答える。
「そうか・・・すまない、後でいくらでも俺を恨んでくれ」
「一体それはどういう意味でしょうか?」
「まず、人間に転身するにはいくつかの条件を満たさなければならない。一つは名前を決める。ゴーレムではなく人間としての名前、それには、大量の魔力が必要になる。これは俺が用意しよう。そしてもう一つ、この飲み物を飲んでくれ」
凝縮した魔力を両手でこねくりまわし銀色の液体が入ったゴブレットを1つ作り出した。
「魔王様、それはどのような効果が?」
「・・・これはな、人を憎しむようになる飲み物だ」
「・・・・人間になる希望を捨てよと申しますか・・・」
項垂れるサラマンダー。
「違うんだサラマンダー・・・・。ゴーレムは人間に対して慈愛の心しかない。故に、慈愛の試練は人間に憎しみを持って挑まなくてはならないのだ。正直、この試練がゴーレムにとっては一番堪えるだろう。そして、最後に魔族としての記憶を無くすこと。これは、意中の相手との記憶も例外ではない。この3つの条件が満たせて人間になれる。ゴーレム、お前にその覚悟はあるか?」
ゴーレムは少し考えた後、静かに頷いた。
「・・・・そうか、お前がいなくなると少し寂しくなるな」
ゴーレムの硬い岩をさすりながら優しい目で見つめる魔王。そこから一気に魔力を流し込む。
「我が名は魔王 我の魔力を糧とし 汝を生命の根幹から解き放て 汝の名はリク・アルフレッド」
ゴーレムの体を魔力が包み込み、やがて全体を覆うと白く輝き出す。その光が次第に消えていくと、光源の中心に1人の少年の姿があった。
「に・・・人間?」
「それは君の人間としての核だ。そこからリク・アルフレッドという人間が形成されていく。だがしばらくは自信を岩で覆うといい。人間の核は如何様にも変化し易い」
リクの体は岩に覆われ、再び元のゴーレムに姿を変えた。
「後はこの液体を飲んでくれ」
リクは少し躊躇いながらも銀色の液体を一気に飲み干した。
「ぐっ⁉︎あああぁぁぁ⁉︎」
地面に伏せ悲鳴をあげるリク。体の中を憎しみが侵食していく。嫌だ!嫌だ!嫌だ!・・・心で叫ぶが、次第に全て憎しみに染まった。
「僕は、人間が嫌いです」
慈愛の象徴のような存在のゴーレムからは思いもよらない言葉。その言葉は魔王の心に深く突き刺さる。
「・・・・・・・すまない、すぐに戻るからな」
魔王にとっても、苦渋の決断だった。魔族は数千年生きることができるのに対し、人間はたかだか80年ほどしか生きれない。いわば、寿命を縮める行為なのだ。しかし、ゴーレムは言った、仲良くなった娘がいると。愛かもわからないその感情でただ一つ、人間になって一緒にいたいのだと。ならば、魔王が取る行動は一つしかなかったのだ。
「・・・・魔王様、最大限の御慈悲ありがとうございます。この試練、必ずやリクは成し遂げてみせます」
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