ギガシス スリー

ミロrice

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3 セカンドヒーロー

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 鮫島さめじま宗介そうすけは、ズボンのポケットからハンカチを出して、額の汗を拭った。
 宗介は、四十二歳の独身者だ。
 業務用調理器具の営業マンとしては十四年目になる。
 かなりふくよかな体型をしていた。
 千駄ヶ谷のラーメン店で昼をっている時に、大きな音とかすかな振動を感じて、急いでラーメンを平らげ店を出たところだ。
 くたびれた鼠色の背広を、左腕に掛けていた。同じ側の肩に、黒いショルダーバッグを下げている。
「さっきのはなんだったのかなぁ」
 ラーメン店のテレビでも、ニュース速報などは流れなかった。
 地震ならそう間を置かず、テロップが映し出されるが──。
「それに、あの音」
 聞いたことのない音だった。
「爆弾でも落ちたかな?」
 そう言って、宗介はぷっと吹き出した。そんなわけないか──。
 その顔は、すぐに真顔に戻った。
 足元の歩道から震動が伝わってくる。
 すぐに震動は大きくなって、立っていられなくなった。
「地震か⁉︎ でかい!」
 宗介は、片膝と片手を歩道についた。
 揺れは一旦治まった。
 しかし、すぐにまた、大きく揺れる。
 治まりかけては、大きく揺れる。
 それを繰り返した。
「な、なんだ、この地震は⁉︎」
 普通の地震ではない。
 宗介は辺りを見回した。
 建物のガラスにヒビが入り、いくつかは歩道に落ちてくる。
 頭を腕でカバーした人々が、歩道に出てきた。歩道の道路側に身を寄せる。
 車と車があちこちで衝突した。
 それほどの揺れなのだ。
「くそっ、なにが起こっている」
 宗介がそう吐き捨てた時、数十メートル竹下通りよりのビルが、爆発したように壊れた。
 瓦礫が舞い上がり、道路を転がった。
 もうもうとした土埃に辺りが包まれる寸前、宗介は見た。
 なにか巨大な影が、崩壊したビルから現れたのを。
「えっ、な、なに? なんだ、あれは?」
 でかい生き物? まさか? そんなはずはない。
 宗介は動けなかった。
 土埃に飲み込まれたからだけではない。
 驚きに、体が麻痺したのだ。
 宗介はハンカチを広げ、口と鼻を覆った。眼を細める。
 周りは真っ白で、数メートル先はなにも見えない。
 ずしん
 と地面が揺れた。
 先ほどよりは小さな震動だ。
 しかし、それは断続的に地面を揺らした。
「なんだ? まさか、そんな」
 やがて、土埃が晴れ、巨大ななにかが姿を現した。
 犬とも熊とも猪ともつかぬ、巨大な生き物。
 十階建てのビルほどの高さがある、生き物としか思えないものが、建物を壊しながら移動してくる。
──なんだ、これは?
「か、怪獣だ!」
 誰かが叫んだ。
「きゃああああああ!」
 悲鳴が上がった。
 その悲鳴に気づいたのか、でかい生き物──怪獣が、宗介のいる方へ顔を向けた。
 ずしん
 と地面が揺れた。
 ずしん
 怪獣が、向かってくる。
 あちこちから悲鳴と怒号があがる。
「逃げろ!」
 誰かの言葉に宗介は我に返った。
「そ、そうだ、逃げなきゃ」
 宗介は巨大を揺らして駆けだした。
 怪獣が雄叫びを上げた。
 全身を大音量に包まれ、足元がよろける。
 ──なんて声だ。
 そのまま駆けだそうとした宗介だったが、足を止めた。
 いまだ耳鳴りの治まらない耳を澄ます。
 かすかに、微かになにかが聞こえる。
「子供の、泣き声?」
 辺りに顔を向け、音源を探す。
 ──後ろだ。
 怪獣のやってくる方向の、建物の中から泣き声が聞こえるのだ。
 宗介はためらった。
 引き返せば、怪獣が壊す建物の崩壊に巻き込まれるかも知れない。
 宗介の脚が震えた。
 前にも後ろにも動けない。
「くそっ!」
 宗介は震える脚を殴りつけた。
 そして、宗介は駆けだした。
 泣き声の元へと。
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