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8皿目 アルミラージのホットスープ
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「よし、終了。拠点まで戻るぞ」
オウルベアの解体作業が終わり荷物をマジックポーチにしまうと、すぐに雪山エリアから出ることにした。
雪が強くなってきたものの視界は良好で、拠点からはさほど離れていない。
行きは上りだったため少々時間がかかったが帰りはすぐだろう。
しかし雪山の天気の変わりやすさを考えると、余裕のあるうちに撤退しておくほうがいい。
コハクが乗れと促してくるので、リリアナはまたそれに甘えて背中に跨った。
モフモフの毛に顔をうずめるリリアナの頭の中はすでに、オウルベア鍋のことでいっぱいになっている。
しかし拠点が見えてきた時、コハクがピクッ背中を揺らして足を止め、山頂を振り返った。
「ガウッ!」
コハクが緊迫した鳴き声を上げたと同時に、ゴゴゴゴッという音が辺りに響く。
雪崩かもしれない。
コハクが駆け出し、テオとハリスも後を追って駆け出した。
背後でザザーッとなにかが流れるような音がして白い雪煙がもうもうと立ち上る。
リリアナがコハクにしがみついたまま振り返ると、すぐ後ろを大量の雪とともに木や魔物たちも流されているのが見えた。
テオとハリスはぎりぎり巻き込まれずに済み、走り続けている。
気付くのが遅れてゆっくり歩いていたら巻き込まれていただろうと思うとゾッとする。
このまま拠点まで走り続ければ大丈夫――そう思った時だった。
腰になにかが巻きついたような感触があり「ん?」と思った直後、リリアナはコハクの背中から離れ後ろへと引っ張られるように飛んだ。
背中が軽くなったことに気付いたコハクが急停止し、体を反転させてリリアナに向かって飛んでくる様子。そしてテオとハリスが驚いた顔で振り返る様子が、まるでスローモーションのようにゆっくり見える。
「リリアナ!」
視界が真っ白になる直前、テオの声が聞こえた気がした。
雪に埋まりながら流されて息もできない。しかし、どうにか身体強化の魔法だけはかけた。
ほどなくして流れは止まったが、自分がいまどこを向いて倒れているのか、腰に巻きついたものがなんだったのか、どこまで流されたのか皆目見当がつかない。
雪に潰され体が思うように動かせず、リリアナの心に焦りと恐怖だけが渦巻き始めた時、すぐ近くでなにかが雪を掻き分けている気配を感じた。
オウルベアだろうか。だとしたらこの状態で勝ち目はまずない。
覚悟を決めた時、視界が開けた。
そこから顔を覗かせたのは……きらきら輝く琥珀色の目と白いモフモフの毛。コハクだった。
コハクはリリアナの頬をいたわるようにペロリと舐めると、大きな前肢で雪を掻き分けリリアナのコートのフードをくわえて引きずり出してくれた。
「コハク~! ありがとう!」
自分を追いかけて雪崩に飛び込んでくれたんだろうか。なんて勇敢な子なんだろう。
リリアナはコハクの首に抱き着いて頬ずりする。
しかしまだ腰を引っ張られるような感覚がある。巻きついたままになっているものを確認すると、それは黒いムチだった。
「なにこれ……」
コハクにも手伝ってもらってそのムチを手繰り寄せてみた。
すると少し離れた場所の雪がボコっと盛り上がり、
「ぷはっ」
と、顔を上げて出てきたのは見知らぬ男だった。
オウルベアの解体作業が終わり荷物をマジックポーチにしまうと、すぐに雪山エリアから出ることにした。
雪が強くなってきたものの視界は良好で、拠点からはさほど離れていない。
行きは上りだったため少々時間がかかったが帰りはすぐだろう。
しかし雪山の天気の変わりやすさを考えると、余裕のあるうちに撤退しておくほうがいい。
コハクが乗れと促してくるので、リリアナはまたそれに甘えて背中に跨った。
モフモフの毛に顔をうずめるリリアナの頭の中はすでに、オウルベア鍋のことでいっぱいになっている。
しかし拠点が見えてきた時、コハクがピクッ背中を揺らして足を止め、山頂を振り返った。
「ガウッ!」
コハクが緊迫した鳴き声を上げたと同時に、ゴゴゴゴッという音が辺りに響く。
雪崩かもしれない。
コハクが駆け出し、テオとハリスも後を追って駆け出した。
背後でザザーッとなにかが流れるような音がして白い雪煙がもうもうと立ち上る。
リリアナがコハクにしがみついたまま振り返ると、すぐ後ろを大量の雪とともに木や魔物たちも流されているのが見えた。
テオとハリスはぎりぎり巻き込まれずに済み、走り続けている。
気付くのが遅れてゆっくり歩いていたら巻き込まれていただろうと思うとゾッとする。
このまま拠点まで走り続ければ大丈夫――そう思った時だった。
腰になにかが巻きついたような感触があり「ん?」と思った直後、リリアナはコハクの背中から離れ後ろへと引っ張られるように飛んだ。
背中が軽くなったことに気付いたコハクが急停止し、体を反転させてリリアナに向かって飛んでくる様子。そしてテオとハリスが驚いた顔で振り返る様子が、まるでスローモーションのようにゆっくり見える。
「リリアナ!」
視界が真っ白になる直前、テオの声が聞こえた気がした。
雪に埋まりながら流されて息もできない。しかし、どうにか身体強化の魔法だけはかけた。
ほどなくして流れは止まったが、自分がいまどこを向いて倒れているのか、腰に巻きついたものがなんだったのか、どこまで流されたのか皆目見当がつかない。
雪に潰され体が思うように動かせず、リリアナの心に焦りと恐怖だけが渦巻き始めた時、すぐ近くでなにかが雪を掻き分けている気配を感じた。
オウルベアだろうか。だとしたらこの状態で勝ち目はまずない。
覚悟を決めた時、視界が開けた。
そこから顔を覗かせたのは……きらきら輝く琥珀色の目と白いモフモフの毛。コハクだった。
コハクはリリアナの頬をいたわるようにペロリと舐めると、大きな前肢で雪を掻き分けリリアナのコートのフードをくわえて引きずり出してくれた。
「コハク~! ありがとう!」
自分を追いかけて雪崩に飛び込んでくれたんだろうか。なんて勇敢な子なんだろう。
リリアナはコハクの首に抱き着いて頬ずりする。
しかしまだ腰を引っ張られるような感覚がある。巻きついたままになっているものを確認すると、それは黒いムチだった。
「なにこれ……」
コハクにも手伝ってもらってそのムチを手繰り寄せてみた。
すると少し離れた場所の雪がボコっと盛り上がり、
「ぷはっ」
と、顔を上げて出てきたのは見知らぬ男だった。
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