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8皿目 アルミラージのホットスープ
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冒険者だろうか、男は体中についた雪を手で払いながら立ち上がると、にっこり笑った。
細身で背が高く軽装。ムチを持っているということはレンジャーだろう。
「いやあ、助かったよ。サンキュー」
男の軽い口調に腹が立つリリアナだ。
「ちょっと! どういうことよ。あなたがわたしを雪崩に引きずり込んだのね!?」
「悪い悪い。雪崩に流されながらなんかに引っかかればって無我夢中でムチを振ったら、こんなかわいいお嬢ちゃんが釣れるだなんてなあ」
レンジャーは軽薄な男が多いと思うのは偏見だろうか。
ムスっとするリリアナの傍らでコハクは男に向かって牙をむいている。
「待て待て! 俺は怪しいもんじゃない。本当に感謝してます。このとおり!」
男が両手を合わせて深々と頭を下げる。
とそこへ強い風が吹きつけ、吹雪を連れてきた。
リリアナは辺りを見るが視界が悪く、テオとハリスの姿も拠点も見えない。
相当流されたのか、現在位置がさっぱりわからない。
「テオ! ハリス先生!」
大きな声で名を呼んでみたが、風の音でかき消されてしまった。
「こりゃマズいな。避難できそうな場所を探そう」
嫌だとは言っていられない。もたもたしていたら今度こそ雪の中から一緒に流された魔物が出てくるかもしれないし、ホワイトアウトする前に避難場所を探さなければいけない。
レンジャーは探索スキルが高いから視界が悪い悪天候の中でもいい避難場所を見つけてくれるだろう。
「俺はアルノー。よろしくな」
「リリアナよ。こっちはレオリージャのコハク。わたしの……用心棒よ」
ペットだと言いかけて、飼い主がハリスだったことを思い出して用心棒にしておいた。
こう言っておけば、このアルノーと名乗った男が妙な気を起こすこともないはずだ。
リリアナがコハクに跨る。
耳が妙に寒くて手を持っていき、耳当てがないことに気付いた。
テオからもらった耳当てを失くしてしまった……。
いや、そんなことを気にしている場合ではないのだけれど。
「こっちだ」
しばらく耳を澄ませていたアルノーが歩き出し、コハクがその後ろをついていく。
アルノーは途中、食料にとムチでアルミラージを2匹仕留める余裕さえ見せながらまっすぐ進んだ。
到着したのはほどよい広さのある洞穴だった。
アルノーは、この洞穴に吹き込む風が微かに立てる笛のような音を頼りに探し当てたと言っているが、リリアナには全く聞こえていなかった。
レンジャーに向いているのは、聴覚・嗅覚・視覚が鋭敏で勘がよく、器用な人間だ。一流のレンジャーになるためには生まれ持っての素質のほかに、どれだけ実地訓練を積んでその能力を伸ばしてきたかという努力の積み重ねも大きいと聞いたことがある。
吹雪が強まる中で慌てることなく洞穴を簡単に見つけたアルノーは、レンジャーとしてそこそこの腕前なのだろう。
しかし引っかかることがひとつ。
「雪崩に巻き込まれるだなんてレンジャー失格ね。パーティーのほかのメンバーたちは?」
リリアナは暖を取るためにマジックポーチから魔導コンロを取り出して火をつけた。
マジックポーチが流されなくて助かった。
「さあ、どうなったんだろうな」
アルノーはどこか投げやりに言って横を向く。
「俺だけ後から入ったメンバーだったからさ、お調子者のフリしながら早く認めてもらえるようにって頑張ってたし、うまくやれてるって思ってたのによ」
どうやらお調子者はキャラづくりだったようだ。
アルノーは憂いを含んだ青灰の目を伏せ、経緯をぽつりぽつりと語り始めた。
細身で背が高く軽装。ムチを持っているということはレンジャーだろう。
「いやあ、助かったよ。サンキュー」
男の軽い口調に腹が立つリリアナだ。
「ちょっと! どういうことよ。あなたがわたしを雪崩に引きずり込んだのね!?」
「悪い悪い。雪崩に流されながらなんかに引っかかればって無我夢中でムチを振ったら、こんなかわいいお嬢ちゃんが釣れるだなんてなあ」
レンジャーは軽薄な男が多いと思うのは偏見だろうか。
ムスっとするリリアナの傍らでコハクは男に向かって牙をむいている。
「待て待て! 俺は怪しいもんじゃない。本当に感謝してます。このとおり!」
男が両手を合わせて深々と頭を下げる。
とそこへ強い風が吹きつけ、吹雪を連れてきた。
リリアナは辺りを見るが視界が悪く、テオとハリスの姿も拠点も見えない。
相当流されたのか、現在位置がさっぱりわからない。
「テオ! ハリス先生!」
大きな声で名を呼んでみたが、風の音でかき消されてしまった。
「こりゃマズいな。避難できそうな場所を探そう」
嫌だとは言っていられない。もたもたしていたら今度こそ雪の中から一緒に流された魔物が出てくるかもしれないし、ホワイトアウトする前に避難場所を探さなければいけない。
レンジャーは探索スキルが高いから視界が悪い悪天候の中でもいい避難場所を見つけてくれるだろう。
「俺はアルノー。よろしくな」
「リリアナよ。こっちはレオリージャのコハク。わたしの……用心棒よ」
ペットだと言いかけて、飼い主がハリスだったことを思い出して用心棒にしておいた。
こう言っておけば、このアルノーと名乗った男が妙な気を起こすこともないはずだ。
リリアナがコハクに跨る。
耳が妙に寒くて手を持っていき、耳当てがないことに気付いた。
テオからもらった耳当てを失くしてしまった……。
いや、そんなことを気にしている場合ではないのだけれど。
「こっちだ」
しばらく耳を澄ませていたアルノーが歩き出し、コハクがその後ろをついていく。
アルノーは途中、食料にとムチでアルミラージを2匹仕留める余裕さえ見せながらまっすぐ進んだ。
到着したのはほどよい広さのある洞穴だった。
アルノーは、この洞穴に吹き込む風が微かに立てる笛のような音を頼りに探し当てたと言っているが、リリアナには全く聞こえていなかった。
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しかし引っかかることがひとつ。
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「さあ、どうなったんだろうな」
アルノーはどこか投げやりに言って横を向く。
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