大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

時岡継美

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9皿目 霧の中のトルティーヤ

(6)

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 火が弱点の霧に炎の剣で斬りつけたりしたら、元が人間であったとしてもどうなってしまうかわからない。
 ヘタすると死んでしまうかもしれない。
 言葉を失うリリアナとテオが見守る中、驚いたことに霧のジョセフは頭のほうから次第に人間の姿に戻っていく。
 ダークブラウンの髪にネイビーブルーの目。チャーリーから聞いていたジョセフの容姿と一致する。

 ハリスはあごに手を当てた。
「驚いたな。魔物が俺たちを騙している可能性を考えて炎をかすめてみたら、これが霧化解除の正解だったのか」
 そういうことだったのかと、リリアナはようやくホッと息をつく。
「もう、先生ったらいきなり斬りつけるから驚いたじゃない!」

 しかしジョセフに視線を戻したリリアナは、また驚かされた。
 人間の姿に戻ったジョセフが丸裸ではないか。
「いやあぁぁぁっ!」
 リリアナの絶叫が湿地帯に響き渡ったのだった。


 ハリスがジャケットを、テオが花柄エプロンをジョセフに貸した。
 靴はないが、地面が苔で覆われていることが幸いし足を怪我することなく歩けそうだ。
 泥の中には毒ガエルが潜んでいる可能性があるため、苔の部分だけを選んで進む。
「いやあ、助かりましたー。ちなみに私の装備が落ちている場所はわかっているんです。霧の体だと掴むこともできなくて、ほんと泣きそうでしたよ」
 その場所まで案内するというジョセフは、人間に戻れて嬉しいのか快活にしゃべり続ける。
 しかし、かろうじて隠すべきところを隠してはいるものの、彼の出で立ちはまだ十分あやしい。
 リリアナはコハクの背中に乗せてもらい、ぶすっと頬をふくらませてずっと目を背けている。
 
 霧の魔物が寄ってこないように、ハリスはたいまつのように長剣に炎を灯して歩く。
 そのおかげで濃い霧に包まれることなく、順調に目的地まで進んだ。
 
 ジョセフの案内してくれた場所まで行くと、なんとそこにチャーリーたちのパーティーがいた。
 たまたま装備品を発見したようだ。
「ジョセフ!!」
 ジョセフの姿を目にとめたチャーリーが駆け寄ってくる。
「隊長ぉ!」
 ふたりの男はしっかりと抱き合い、再会を喜んだ。
 
「生きてたのか! よかった。そこの装備品を見て、手遅れだったと思ったぞ」
 チャーリーの目に涙が浮かぶ。
 冒険者カード、冒険服、マジックポーチ、装備一式すべてがそこに残されていて、体はきれいに無くなっているのだから、ジョセフが生きている望みが完全に断たれたと思っても不思議ではない。
「テオさんたちに助けてもらったんです」
 ジョセフも涙声だ。
「にしてもおまえ、妙な恰好だなあ!」
「それを言わないでくださいよう」
 ふたりは情けない顔で笑い、それを見ていた仲間たちも同じように笑い泣きしたのだった。


 その後の管理ギルドの調査で、霧の魔物は新発見であることが判明し「ミスティ」と名付けられた。
 湿地帯エリアでは原因不明の行方不明者が毎年数名いる。その大半がミスティによって霧化させられたに違いないとの結論が出た。
 実際に霧化して人間に戻ることのできた冒険者・ジョセフの証言で、ミスティの実態も明らかになった。
 彼らは火が弱点であるため、火を扱えそうな冒険者を惑わすことはない。だから狙われるのは大きな武器を持ち、魔法が使えなさそうに見える冒険者だ。
 ミスティにとって冒険者を霧化させて仲間に引き込むのは、イタズラ程度の認識しかない。幻影は人によって見える人物が違う。心残りのある人や、最も愛情を抱いている人の幻影を見る場合が多い。
 霧化してしまった場合は火に軽く触れれば元に戻るが、徐々に人間の思考を失うため早く戻らないと完全にミスティになってしまう。

 これらの証言をもとに、湿地帯エリアでは火種を入れたランタンを持ち歩くことが推奨され、拠点には常に火のついたトーチが設置されることとなった。

 ちなみにミスティから採集した白い球体は、直接摂取すると霧化することが判明した。
 これを弱毒化し、見た目が受け入れられない料理にふりかけると美味しそうに見えるようになる「トリックミスト」が商品化されるのは数年後のことで、その発案者がハリスだったことは余談だ。


 酒場の一角でジョセフを囲み、酒を酌み交わして生還祝いをしているハリスとチャーリーが昔話に花を咲かせている。
 その横でリリアナは特大ハンバーガーにかぶりついていた。
 チラリとハリスを見やると、いい笑顔でエールのグラスを傾けている。
 湿地帯でテオを囲んでいたミスティたちは、ハリスに誰の幻影を見せたんだろうか。あの時の彼の、奥歯を強く噛みしめる緊張した横顔をふと思い出した。
 しかし、それを詮索するのは野暮だろう。

 リリアナが見た幻影がテオだったのは、その直前にテオが行方不明になって気になっていたからに他ならない。決して愛情を抱いているとか、そういうんではない!と、ひとり悶々とし続けているリリアナだ。
 テオがたくさんいたと、あの時言わずによかった。

 リリアナの正面に座るテオがコハクと生ハムの取り合いをしている。
 こんな野生児を好きになんて、なってたまるか。
 思わず睨んでいたようだ。テオが「ん?」と首を傾げ、リリアナを見つめる。
「ねえ、テオは誰の幻影が見えていたの?」
「……リリアナこそ誰だよ」
 テオがぶっきらぼうに聞き返してくる。質問に質問で返すのは反則だ。
「ナイショ」
「じゃあ俺も教えてやらね」
 プイっと横を向いたテオの耳が、心なしか赤いのは気のせいだろうか。

 相変わらずかわいくないんだからっ!
 リリアナは苦笑して、特大ハンバーガーにかぶりついたのだった。

(9皿目・完食)
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