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神主の息子と猫の魂(1)
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神社の駐車場の隅に自転車を停めた藤堂君は、カバンを置いてくるからと言って奥の木々に囲まれた建物へ走っていく。
藤堂君の自転車のとなりに自分の自転車を停めて待っていると、すぐに手ぶらで引き返してきた。
「おまたせ」
そしていっしょにお社へと続く石段を上りはじめた。
肩と背中に乗る妖の山が体感どれほどの重さなのかは想像もつかないけど、重りを背負って毎日この石段を上り下りしているなら相当なトレーニングになりそうだ。
「毎日これ上ってるの?」
数年前に弟の陽介といっしょに数えたことがある。
この石段はたしか88段だったはずだ。
「自宅は下。さっきのあの建物なんだけど、まあなんだかんだで毎日上り下りしてるかな。今日は拝殿のほうに行かないといけないから」
先を行く藤堂君が振り返ってこっちへ手をのばしてくる。
なにかと思えば、どうやらわたしのカバンを持ってくれるようだ。
すでに息が上がりはじめていたわたしは、ありがたくその厚意に甘えることにした。
そもそもお祓いの得意なはずの神主さんの息子が妖の山を背負い、壁ドンで気になるなら来いと半ば脅されてここまで来てやったのだ。
荷物を持ってもらったって罰は当たらないだろう。
石段を上りきると視界が開け、立派なお社が姿を現した。
お参りするたびに思うことだけど、この風格あるお社を見ると下の道路とは別の世界へ来たような感覚になる。
子供の頃から何度も訪れているなじみのある神社だ。
7歳のときに海で溺れかけたあの事件のあと、両親と一緒にお祓いに来たのもここだった。
あの時の神主は白髪で高齢の男性だったから、たぶん藤堂君のおじいちゃんだと思う。
ひと通りのお祓いをしてもらったあとに、
「普通の人とはちがう目を持ったことを悲観するのではなく、神様からの贈り物だと思ってください」
と言われたことだけは印象に残っている。
てっきり社務所のほうに回るか拝殿の中へでも連れて行かれるのかと思ったら、藤堂君は普通の参拝と同じようにまっすぐ歩いていく。
それについて行くと、賽銭箱の向こうに見える拝殿の中で小柄な女性がお祓いを受けているところだった。
いま祝詞をあげている神主さんが藤堂君のお父さんってことなんだよね?
「間に合ったか」
「なにが?」
「実際に見てもらうほうが早いと思ってさ」
シャッシャッと大幣を振る音が聞こえて視線を藤堂君から中へ移した時だった。
突然茶色っぽい影が飛んできてわたしの横をすり抜けると、ビタンと音がした。
イヤな予感が当たっていませんようにと祈りながらおそるおそる首を回すと、斜め後ろに立っている藤堂君の顔に茶色い猫が張り付いているではないか。
「だいじょうぶ?」
「これが平気そうに見えるか?」
のけぞり気味の体勢をまっすぐもどし、猫の首をつかんで顔からはがしながら藤堂君が不機嫌そうに言う。
藤堂君を襲った茶トラの猫は、確かに猫ではあるけれどおそらく霊だろう。
猫はお祓いを受けている女性のほうを見ながら前足動かしている。
もしかして……?
「ねえ、その猫ちゃんってもしかして祓われちゃったの?」
「そういうこと。そんで、俺が生まれつき強烈にこういうのを引き寄せる体質らしくて、全部こっちに来るってわけ」
ムスっとした顔で言う藤堂君の右手では、つかまれたままになっている猫の霊が相変わらずジタバタ暴れていた。
藤堂君の自転車のとなりに自分の自転車を停めて待っていると、すぐに手ぶらで引き返してきた。
「おまたせ」
そしていっしょにお社へと続く石段を上りはじめた。
肩と背中に乗る妖の山が体感どれほどの重さなのかは想像もつかないけど、重りを背負って毎日この石段を上り下りしているなら相当なトレーニングになりそうだ。
「毎日これ上ってるの?」
数年前に弟の陽介といっしょに数えたことがある。
この石段はたしか88段だったはずだ。
「自宅は下。さっきのあの建物なんだけど、まあなんだかんだで毎日上り下りしてるかな。今日は拝殿のほうに行かないといけないから」
先を行く藤堂君が振り返ってこっちへ手をのばしてくる。
なにかと思えば、どうやらわたしのカバンを持ってくれるようだ。
すでに息が上がりはじめていたわたしは、ありがたくその厚意に甘えることにした。
そもそもお祓いの得意なはずの神主さんの息子が妖の山を背負い、壁ドンで気になるなら来いと半ば脅されてここまで来てやったのだ。
荷物を持ってもらったって罰は当たらないだろう。
石段を上りきると視界が開け、立派なお社が姿を現した。
お参りするたびに思うことだけど、この風格あるお社を見ると下の道路とは別の世界へ来たような感覚になる。
子供の頃から何度も訪れているなじみのある神社だ。
7歳のときに海で溺れかけたあの事件のあと、両親と一緒にお祓いに来たのもここだった。
あの時の神主は白髪で高齢の男性だったから、たぶん藤堂君のおじいちゃんだと思う。
ひと通りのお祓いをしてもらったあとに、
「普通の人とはちがう目を持ったことを悲観するのではなく、神様からの贈り物だと思ってください」
と言われたことだけは印象に残っている。
てっきり社務所のほうに回るか拝殿の中へでも連れて行かれるのかと思ったら、藤堂君は普通の参拝と同じようにまっすぐ歩いていく。
それについて行くと、賽銭箱の向こうに見える拝殿の中で小柄な女性がお祓いを受けているところだった。
いま祝詞をあげている神主さんが藤堂君のお父さんってことなんだよね?
「間に合ったか」
「なにが?」
「実際に見てもらうほうが早いと思ってさ」
シャッシャッと大幣を振る音が聞こえて視線を藤堂君から中へ移した時だった。
突然茶色っぽい影が飛んできてわたしの横をすり抜けると、ビタンと音がした。
イヤな予感が当たっていませんようにと祈りながらおそるおそる首を回すと、斜め後ろに立っている藤堂君の顔に茶色い猫が張り付いているではないか。
「だいじょうぶ?」
「これが平気そうに見えるか?」
のけぞり気味の体勢をまっすぐもどし、猫の首をつかんで顔からはがしながら藤堂君が不機嫌そうに言う。
藤堂君を襲った茶トラの猫は、確かに猫ではあるけれどおそらく霊だろう。
猫はお祓いを受けている女性のほうを見ながら前足動かしている。
もしかして……?
「ねえ、その猫ちゃんってもしかして祓われちゃったの?」
「そういうこと。そんで、俺が生まれつき強烈にこういうのを引き寄せる体質らしくて、全部こっちに来るってわけ」
ムスっとした顔で言う藤堂君の右手では、つかまれたままになっている猫の霊が相変わらずジタバタ暴れていた。
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