不機嫌な藤堂君は今日も妖を背負っている

時岡継美

文字の大きさ
25 / 40

(3)

しおりを挟む
 トイレットペーパーの点検を終えて昇降口を出ようとすると、外はすでに雨がザーザー降っていた。

 だから早く帰りたかったのに! とも思ったけれど、このタイミングですでにザーザー降りってことは、すぐに学校を出ていたら帰り道の途中でずぶぬれになっていたにちがいない。

「藤堂君、傘持ってるなら先に帰ってくれていいよ。わたし雨がもう少し弱くなるまでこのまま待ってみるから」
 今朝の天気予報で気象予報士のお兄さんが「午後から雨になるでしょう」って言っていたのに、物理のことで頭がいっぱいで傘を持ってき忘れたのだ。
 もう少し様子を見て、小降りになったところで出たほうがいいだろう。
 
「なに言ってんの、俺が傘何本持ってるか知ってる?」
 ムスッとした顔で藤堂君がわたしを見る。

 何本って、そんなにたくさん持ち歩いてるの? と聞こうとしてイヤな予感がする。
「まさか……」

「そのまさかだよ」
 藤堂君が後ろに手を回して山から引き抜いたのは、から傘小僧だった。
 一本足で下駄をはき、傘についた顔は一つ目の妖だ。

 2体のから傘小僧を出した藤堂君は、そのうちの1体をこっちに差し出した。
「はい、使って」

 え、待って。
 傘の柄の部分が生足なんだけど!
 この足首を持てってこと!?

 気持ちわるっ!と言いそうになってあわてて口をつぐむ。
 そんな言いかたをするのはこの妖に対して失礼だし、怒らせたり傷つけたりするとあとがめんどうだ。
 
 思い切ってその足首をつかんでみるかやめておくかで悩んでいると、藤堂君がプっと笑った。
「だいじょうぶだよ、勝手に開いてくれるから」
 藤堂君が一歩外へ出ると、から傘小僧は肩に足を乗せる形で大きな傘をひろげた。

「わあ、便利だねえ」
 思わずつぶやくと、わたしの前にいるから傘小僧がぴょんと跳ねた。
『あかり、僕たちも行こうよ』
「よろしくね」

 藤堂君を追いかけて外へ出ると、から傘小僧がわたしの左肩に飛び乗って傘をひろげる。
 左肩がほんの少し重くなったような気がするけど、この程度ならどうってことはない。

 自転車をこぎはじめると、から傘小僧は傘の角度を前のほうにかたむけてくれた。
 傘は半透明に見えているから視界がふさがることもなく、片手で傘を支える必要もなく、いつもと同じようにこげてこんなに便利なことはない。

 ふつうの人たちには、傘をささずに自転車をこぐ高校生に見えているだろうけど、実は雨から守られている。
 ちょっと左に視線をうつすと肩に乗る生足が見えるという不気味さにはこの際、目をつぶろう。

 わたしは笑いながら何度もから傘小僧にお礼を言い、藤宮神社の駐車場に着くと藤堂君にもお礼をした。
「ありがとう。すごく助かった」

「そいつ、浮島さんにあげるから好きに使って」
 なるほど、それを理由に山から引き離そうっていう魂胆だったのね。
 それならこの子には、学校の傘立てにでもいてもらうことにしようか。

 今日みたいに傘を持っていないときや、雨が吹き込む渡り廊下を歩かないといけないときにから傘小僧がいてくれたらとても助かる。
 わたしと藤堂君だけじゃなくて、ほかの生徒のことだって助けてもらいたい。

 藤堂君が何体のから傘小僧に憑かれているのか知らないけど、次に昇降口まで一緒に行った時にはそのミッションをお願いして、まとめて傘立てに移動してもらおうと提案すると、藤堂君はうれしそうに笑った。

 そしてうつむいたあと顔を上げた藤堂君は、いつものふてぶてしい顔ではなくちょっと不安そうに小声で聞いてきた。
「あのさ、俺達ってケンカしてるわけじゃないよな?」

 そのときわたしは、ああよかったと一番に思った。
 藤堂君も今回のことをケンカだとは思っていなかったんだって。

「ケンカじゃないよ、勝負だもん」
 そう答えると、藤堂君は一瞬目を見開いてわたしを見つめ、またうれしそうに笑った。
「そうだよな。まあがんばれよ」

「言われなくったってがんばってるよ! 負けないからね!」

 まだ雨は降り続いているけれど、胸のつかえが下りたわたしはすっきりした気分でから傘小僧を肩に乗せ自転車のペダルを踏みこんだのだった。

 
 後日、から傘小僧たちはめでたく藤堂君の背中を離れ、昇降口の傘立てや第二校舎へ行く渡り廊下、体育館とつながっている通路に居場所を移した。

「不思議とさぁ、雨が降ってる中に思い切って飛び出していくと、小降りになるんだよな」
「わかる。意外とぬれないもんだよな」
 M高生たちのそんな会話が聞こえてくると、から傘小僧たちががんばっているんだなと思って口元がニヤついてしまう。
 
 突然の雨でもM高生たちがぬれないようにと下駄をはいた一本足でぴょんぴょん飛び回るから傘小僧たちは、毎日とても楽しそうだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後の旋律~君と僕の秘密の放課後~

七転び八起き
BL
高校生の柏木いぶきは、放課後に偶然聴いた美しいピアノの音に導かれ、音楽室で一人ピアノを弾く唯川悟史と出会う。「ピアノを習いたい」というまっすぐな言葉をきっかけに、悟史はいぶきにピアノを教え始める。 ピアノと悟史への憧れを抱くいぶき。過去に何かを抱え、人前で弾けなくなっていた悟史。週に二回のレッスンを重ねるうちに、二人の距離は少しずつ縮まっていく。 夏に響く二人の音。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

月弥総合病院

御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...