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序章2
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太陽が真上に登りきる前にレレは町外れの鉱山に到着した。
予定ではもう少し早く来るはずだったのだが、準備に手間取ってしまい遅れてしまった。
今朝と違い弁当は二人分だけで、他には薬やその素材などがリュックサックに詰められており、両手には複雑な刻印が施された鉄製のプレートの付いた手袋が嵌められている。
鉱山では危険な場面に遭遇する確率が高い。
坑道の崩落などもそのうちの一つだが、それよりもよっぽどモンスターと遭遇する確率の方がが高い。
鉱山で働く以上、モンスターに対する自衛の手段は必須となる。
レレも仕事や「趣味」で、鉱山や森林などモンスターとの遭遇リスクが高い場所へ足を運ぶため、それらと戦うためにある程度の技術と知識は身に着けている。
鉱山入口の管理棟で学者達の行き先を尋ねると、入山者名簿から第七鉱路奥の、掘削中の新道の横から偶然発見された、深い洞窟の方に行っている事が分かった。
(うーん、随分遠くだなあ……)
薄々そんな予感はしていたが、かなり面倒な仕事になる可能性がある。
二週間もかけてこんな辺鄙な場所まで来るのだから、浅い層で簡単に採れるような物が目的であるはずが無い。
深層に行く程モンスターとの遭遇確率は上昇するが、今回のように調査が進んでいない自然生成の洞窟となると、個体そのものの危険性も跳ね上がる。
(用心して薬も多めに持ってきて良かった)
義理とはいえ、娘に御遣いをさせるには危険過ぎる場所ではないかと思うのだが、最早これがレレにとっては日常だった。
(やっぱり鉱山の中って蒸し暑くて苦手……ちゃちゃっとお弁当届けて、水浴びにでも行きたいな)
鉱山に入ってまだ数分だが、既に額には汗が滲み始めていた。
第七鉱路奥最奥にある簡易魔力障壁を抜けて、新道を経由し、洞窟へと侵入する。モンスター除けの障壁の外に出たため、ここからは気が抜けない。
わずかな物音にも頭上の耳がピクリと反応する。
岩垂氷から水が滴り落ちる音、小型の洞穴生物が這いまわる音、それらが蹴り飛ばした小石が転がる音……。
レレは普通の人間には聞き取れないらしい、僅かな音や匂いに対しても敏感で、モンスターなどの接近を事前に察知する事が可能だ。
また暗闇でも良く目が利くため、ランタンを持っているとはいえ死角が多く、不安定な足場の中でも、しっかりとした足取りで進んでいく。
そしていくつか大きなガレ場を越えた先で、ピタリとその足を止めた。
(何かいる……!)
暗闇の先から接近する、フラフラとはためく音を聞き逃さなかった。
鼻から辺りの空気を大きく吸い込んで、ガスなどが漏れ出ていない事を確認する。
ランタンを足元に置いて、その上に手をかざす。
『耀け、炎の弐番』
ランタンに向かって、そっとお願いするように詠唱すると、ランタンはごうと燃え上がり、一帯をくまなく照らした。
目の前に現れたのは、この地域の洞窟で多く生息している蝙蝠型のモンスター、クロウバットの群れだった。目が退化している代わりに、口から発する超音波の反射によって暗闇でも自由に飛び回る事が可能な厄介な相手だ。
レレは夜目が利くが、暗闇で蝙蝠に挑むような真似は流石にしない。
羽音に素早く反応できたおかげで、ランタンに魔法を施し、敵の優位性を一つ潰すことが出来た。
(数は四……まずは一体を確実に仕留める……!)
そう考えていた矢先、先頭の一体が他の個体と連携せずに、その大きな鉤爪を開いてレレへと襲い掛かってきた。
(よし……!)
鉤爪攻撃を引き付けてから体を最小限だけ捻る事で避け、右手を叩きつけるようにして反撃を繰り出す。
対するクロウバットも、その手の動きを音波の反射で感じ取り、翻ることで避ける。
──避けられる筈が、実際には切り裂かれた蝙蝠が、ぐしゃりと岩壁に激突して事切れる結果となった。
朝の配達時に僅かに見えていた、猫の耳と尾に纏う電気のようなものに加えて、二の腕の入れ墨も青白く光り、手袋から輝く爪が四本伸びている。
魔法で作られた爪は手首にかけての長さ程はあり、油断した敵の命を奪うには十分だった。
「まずは一匹」
クロウバットの知能は決して高くないが、一匹目と同じように向かってくる程馬鹿でも無く、残った三匹はレレを囲むように広がり、すぐさま一斉に襲い掛かってきた。
それに対してレレは避けるような素振りは無く、ただ大きく息を吸い込み、そして猛獣のような大声で叫んだ。
地面に転がっている小石が震える程の大声量によって、聴覚のみが頼りの蝙蝠達は完全に方向感覚を失った様子で、ぐるぐると明後日の方向へと飛んでいく。
当然その隙を見逃さず、近くの二匹をすぐに仕留める。
そして岩壁を素早く駆け上り、洞窟の天井付近にいる最後の一匹に向かって跳躍した。
硬い地面にも関わらず、ふわりと音もなく着地を決めたレレに一拍遅れて、既に絶命している塊が地面に落下した。
「ふうっ……」
蒸し暑い空間で激しく動き回ったせいで、汗は滲む程度では済まず、額から顎まで滴っている。
洞窟で遭遇するモンスターの中では比較的危険度が低いとされているクロウバットだが、やはり一人で複数体を相手にすると、それなりに疲労が溜まるものだ。
ランタンに付与した魔法を解除して、リュックから取り出した水筒で喉を潤す。
「……それで、ええっと、そちらにいるお二人が、うちの宿に宿泊中の学者先生であっていますか?」
レレが洞窟の奥のほうに視線を向けると、二人の男が姿を現した。
予定ではもう少し早く来るはずだったのだが、準備に手間取ってしまい遅れてしまった。
今朝と違い弁当は二人分だけで、他には薬やその素材などがリュックサックに詰められており、両手には複雑な刻印が施された鉄製のプレートの付いた手袋が嵌められている。
鉱山では危険な場面に遭遇する確率が高い。
坑道の崩落などもそのうちの一つだが、それよりもよっぽどモンスターと遭遇する確率の方がが高い。
鉱山で働く以上、モンスターに対する自衛の手段は必須となる。
レレも仕事や「趣味」で、鉱山や森林などモンスターとの遭遇リスクが高い場所へ足を運ぶため、それらと戦うためにある程度の技術と知識は身に着けている。
鉱山入口の管理棟で学者達の行き先を尋ねると、入山者名簿から第七鉱路奥の、掘削中の新道の横から偶然発見された、深い洞窟の方に行っている事が分かった。
(うーん、随分遠くだなあ……)
薄々そんな予感はしていたが、かなり面倒な仕事になる可能性がある。
二週間もかけてこんな辺鄙な場所まで来るのだから、浅い層で簡単に採れるような物が目的であるはずが無い。
深層に行く程モンスターとの遭遇確率は上昇するが、今回のように調査が進んでいない自然生成の洞窟となると、個体そのものの危険性も跳ね上がる。
(用心して薬も多めに持ってきて良かった)
義理とはいえ、娘に御遣いをさせるには危険過ぎる場所ではないかと思うのだが、最早これがレレにとっては日常だった。
(やっぱり鉱山の中って蒸し暑くて苦手……ちゃちゃっとお弁当届けて、水浴びにでも行きたいな)
鉱山に入ってまだ数分だが、既に額には汗が滲み始めていた。
第七鉱路奥最奥にある簡易魔力障壁を抜けて、新道を経由し、洞窟へと侵入する。モンスター除けの障壁の外に出たため、ここからは気が抜けない。
わずかな物音にも頭上の耳がピクリと反応する。
岩垂氷から水が滴り落ちる音、小型の洞穴生物が這いまわる音、それらが蹴り飛ばした小石が転がる音……。
レレは普通の人間には聞き取れないらしい、僅かな音や匂いに対しても敏感で、モンスターなどの接近を事前に察知する事が可能だ。
また暗闇でも良く目が利くため、ランタンを持っているとはいえ死角が多く、不安定な足場の中でも、しっかりとした足取りで進んでいく。
そしていくつか大きなガレ場を越えた先で、ピタリとその足を止めた。
(何かいる……!)
暗闇の先から接近する、フラフラとはためく音を聞き逃さなかった。
鼻から辺りの空気を大きく吸い込んで、ガスなどが漏れ出ていない事を確認する。
ランタンを足元に置いて、その上に手をかざす。
『耀け、炎の弐番』
ランタンに向かって、そっとお願いするように詠唱すると、ランタンはごうと燃え上がり、一帯をくまなく照らした。
目の前に現れたのは、この地域の洞窟で多く生息している蝙蝠型のモンスター、クロウバットの群れだった。目が退化している代わりに、口から発する超音波の反射によって暗闇でも自由に飛び回る事が可能な厄介な相手だ。
レレは夜目が利くが、暗闇で蝙蝠に挑むような真似は流石にしない。
羽音に素早く反応できたおかげで、ランタンに魔法を施し、敵の優位性を一つ潰すことが出来た。
(数は四……まずは一体を確実に仕留める……!)
そう考えていた矢先、先頭の一体が他の個体と連携せずに、その大きな鉤爪を開いてレレへと襲い掛かってきた。
(よし……!)
鉤爪攻撃を引き付けてから体を最小限だけ捻る事で避け、右手を叩きつけるようにして反撃を繰り出す。
対するクロウバットも、その手の動きを音波の反射で感じ取り、翻ることで避ける。
──避けられる筈が、実際には切り裂かれた蝙蝠が、ぐしゃりと岩壁に激突して事切れる結果となった。
朝の配達時に僅かに見えていた、猫の耳と尾に纏う電気のようなものに加えて、二の腕の入れ墨も青白く光り、手袋から輝く爪が四本伸びている。
魔法で作られた爪は手首にかけての長さ程はあり、油断した敵の命を奪うには十分だった。
「まずは一匹」
クロウバットの知能は決して高くないが、一匹目と同じように向かってくる程馬鹿でも無く、残った三匹はレレを囲むように広がり、すぐさま一斉に襲い掛かってきた。
それに対してレレは避けるような素振りは無く、ただ大きく息を吸い込み、そして猛獣のような大声で叫んだ。
地面に転がっている小石が震える程の大声量によって、聴覚のみが頼りの蝙蝠達は完全に方向感覚を失った様子で、ぐるぐると明後日の方向へと飛んでいく。
当然その隙を見逃さず、近くの二匹をすぐに仕留める。
そして岩壁を素早く駆け上り、洞窟の天井付近にいる最後の一匹に向かって跳躍した。
硬い地面にも関わらず、ふわりと音もなく着地を決めたレレに一拍遅れて、既に絶命している塊が地面に落下した。
「ふうっ……」
蒸し暑い空間で激しく動き回ったせいで、汗は滲む程度では済まず、額から顎まで滴っている。
洞窟で遭遇するモンスターの中では比較的危険度が低いとされているクロウバットだが、やはり一人で複数体を相手にすると、それなりに疲労が溜まるものだ。
ランタンに付与した魔法を解除して、リュックから取り出した水筒で喉を潤す。
「……それで、ええっと、そちらにいるお二人が、うちの宿に宿泊中の学者先生であっていますか?」
レレが洞窟の奥のほうに視線を向けると、二人の男が姿を現した。
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