オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第61話 ー欲望の体内ー

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 血と吐瀉に濡れた床の上で、三人は荒い息を吐いていた。視界は霞み、耳には絶え間ない囁きが流れ込む。立ち上がろうとする意思はあっても、筋肉は言うことを聞かず、ただ痙攣を繰り返すだけだった。

 レイジは剣を支えにしようと手を伸ばしたが、刃は床に溶け込むように沈み込んでいた。引き抜こうとしても動かず、代わりに刃の影が彼の腕に絡みつき、脈動を伝えてきた。
 「……剣まで……喰われるのか……」
 掠れた声を漏らすと同時に、胸が激しく脈打ち、再び血が口から逆流した。

 セレーナは膝を抱えて震えていた。目から流れた血が顎を伝い、衣を赤黒く染めている。彼女の耳元には、カリーネの幻影が寄り添っていた。
 「もういいのよ……誓いなんて、誰も望んでいない。あなたはただ抱かれて眠ればいい……」
 甘美な声が繰り返し囁かれる。セレーナは「違う」と口にしようとした。だが言葉は霧に呑まれ、代わりに喉の奥から嗚咽が漏れた。心の奥で、誓いを捨てたいと願う自分が芽生えてしまうのを、必死に否定することしかできなかった。

 影の女王は背にのしかかる父の幻影を振り払おうとしていた。だが両腕は無数の手に縛られ、首を後ろから抱かれる。
 「戻れ……お前の居場所はここだ。孤独でいる必要はない」
 その言葉は幼き日の自分が何度も夢見たもの。耳に入るたびに胸の奥の氷が砕け、熱に変わる。冷酷さを保とうとしても、涙が頬を伝って止まらなかった。
 「……私は……そんなものに……」
 抗おうとする声は震え、やがて嗚咽に変わっていった。

 神殿全体が脈動を増した。壁が鼓動し、床が呼吸を繰り返し、天井から滴る黒い液体が三人の体に落ちた。液体は血のようであり、乳のようでもあった。滴が皮膚に触れた瞬間、痺れる快感が神経を走り、抗おうとする意思を削いでいった。

 レイジの瞳に再びリリィナの幻影が映る。
 「お兄ちゃん……どうして私を助けてくれなかったの?」
 その声は胸を貫き、罪悪感を鋭く抉る。彼は叫びたくても喉から血が上がり、声にならなかった。リリィナの幻影は優しく抱き寄せ、耳元で囁いた。
 「もういいの。私と一緒に眠って……」
 温かさに体が震え、剣を握る指先から力が抜けていく。

 セレーナの視界には、王宮の広間が映っていた。かつて誓いを立てた場所。だがそこには誰もいない。玉座に座るべき王も、支えるべき民も消え失せ、広間全体が闇に包まれていた。
 「……誓いが……意味を失って……」
 彼女の胸に冷たい空洞が広がった。カリーネの幻影がその空洞を抱き締め、囁いた。
 「私が埋めてあげる……だからもう、背負わなくていいの」
 セレーナの手から符が滑り落ち、床に消えた。

 影の女王は自らの父の幻影に完全に抱き込まれていた。彼女の闇糸は消え失せ、背を支えるのは幻影の腕だけだった。
 「私は……孤独じゃなかった……?」
 唇から漏れた言葉は、自分でも信じられない弱さを孕んでいた。父の幻影は頷き、さらに強く抱き締めた。

 その瞬間、三人の体から光が抜け落ちた。誓約の輝きが奪われ、魂そのものが吸い取られていく感覚。

 《汝ラノ欲望……我ガ胎内ニ溶ケル……》

 娼王の声が響いた。耳ではなく、心臓の奥に刻まれる声。
 レイジは必死に目を開けたが、視界に映るのは闇に抱かれる仲間の姿。セレーナも影の女王も、すでに心を失いかけていた。

 「……ちくしょう……このまま……呑まれるのか……」
 呻きは霧に呑まれ、返答はない。代わりに無数の腕が伸び、三人を優しく、しかし逃げ場のない力で抱き締めた。

 抱き締める腕の感触は、優しくも恐ろしかった。逃げようとすればするほど力を増し、抗わなければ抗わないで安らぎが深まっていく。甘美な矛盾が三人を絡め取り、心の奥底を溶かしにかかっていた。

 レイジは必死に目を見開いていた。だが視界には、何度も繰り返しリリィナの笑顔が浮かぶ。彼女は幼い日のままの姿で、両腕を伸ばし、抱き締めようと近づいてくる。
 「兄さん……もういいの……戦わなくていい……」
 その声は罪悪感を穿ち、胸の奥に突き刺さった。
 「俺は……守れなかった……だから……」
 言葉は喉で掠れ、血と共に吐き出された。リリィナの幻影は微笑んだまま、その血すら指先で掬い、唇に触れさせる。甘い仕草は、記憶の彼女ではなく、娼王の欲望そのものだった。

 セレーナの周囲は、王宮の幻影に覆われていた。だがそこに人の姿はなく、広間に響くのは彼女自身の声だけだった。
 「誓いとは……なんだったのかしら……」
 空虚な声が反響し、幻影のカリーネが彼女の肩を抱き寄せる。
 「意味なんて初めからなかった。あなたは背負わなくていい。ただ眠りなさい」
 セレーナは涙に濡れた瞳を閉じ、幻影に体を預けかけた。心の奥に残る誇りの灯火が、風前の灯のように揺らいでいた。

 影の女王は、自分の父の幻影に完全に抱かれていた。
 「お前は私の娘だ……愛している……」
 耳元に囁かれるたび、彼女の冷酷な仮面は崩れ、震える少女の面影が露わになる。
 「私は……愛されていたの……?」
 胸に込み上げる熱が、長い孤独の記憶を打ち砕く。涙が頬を伝い、腕を伸ばして父にすがりかけた。

 神殿の鼓動はさらに強まった。壁は胎動するように膨らみ、床は液体のように揺れ、天井から滴る黒い液体が三人の体を濡らす。液体は皮膚を焼き、同時に快感を与えた。痛みと悦楽が混ざり合い、神経は混乱して信念を蝕んでいく。

 《汝ラハ既ニ壊レ始メタ……個トシテノ色ハ消エ、欲望ノ母胎ニ還ル……》

 娼王の声が広間を震わせた。耳ではなく、心臓に直接届く声。三人の魂は否応なく揺さぶられた。

 レイジは幻影のリリィナを突き放そうとしたが、腕は動かず、逆に抱き締められた。胸の奥に芽生えた「楽になりたい」という弱さが、自分を縛っている。
 「俺は……まだ……」
 抗う言葉は弱く、幻影の温もりに吸い込まれていった。

 セレーナは王宮の玉座に座らされていた。だがその玉座は石ではなく、無数の腕で形作られている。彼女はその上に座らされ、まるで「欲望の女王」として祭り上げられていた。
 「……私が……女王に……?」
 幻影のカリーネが微笑み、「そう、あなたは抱かれるための女王なの」と囁いた。誓いは嘲笑のように崩れ去り、胸の奥に虚無が広がっていく。

 影の女王は父の幻影に抱かれながら、闇糸を取り戻そうと必死に指を動かした。しかし闇糸は現れず、代わりに自分の血が糸となって腕に絡みついた。
 「やめろ……これは……」
 否定の声は震え、父の幻影の抱擁に埋もれていく。

 神殿全体が唸りを上げ、無数の腕が広間を埋め尽くした。腕は三人の身体を抱き込み、骨を軋ませながら優しく締め付ける。抵抗する力はすでになく、ただ呻きと涙と血が混ざり合って滴り落ちるだけだった。

 《欲望ハ甘美……抗エヌ者ハ抱カレ、抗ウ者モ抱カレル……》

 その言葉が響いた瞬間、三人の瞳から同時に血が流れ出した。

 神殿の空気は重苦しさを超え、濃厚な液体のように三人を包み込んでいた。呼吸をするたびに胸の奥に冷たい粘液が流れ込み、肺を満たし、吐き出すこともできない。喉が痙攣し、全身が熱に震え、血と唾液が交じり合って流れ落ちた。

 レイジは必死に剣を握りしめていた。だがその刃はいつの間にか形を失い、液状の影となって腕に絡みついていた。剣は彼の意志ではなく、娼王の鼓動に合わせて脈打ち、骨を砕くように指を締め付けてくる。
 「ぐっ……あ、ああ……」
 呻き声は弱々しく、吐息と共に血が飛び散った。リリィナの幻影は彼の背後に回り込み、首を抱いて囁いた。
 「兄さん……もう抗わなくていい。あなたは抱かれて眠るためにここに来たの」
 理性が必死に否定しても、心の奥から「そうかもしれない」という甘い諦念が滲み出してくる。

 セレーナは王宮の玉座に縛り付けられていた。足首から腰、胸へと無数の腕が絡みつき、彼女を「女王」として飾り立てる。玉座の周囲には民衆の幻影がひれ伏していたが、その顔はすべて歪み、抱擁を乞う者たちのものだった。
 「……やめて……私は……」
 か細い声を漏らしたとき、幻影のカリーネが背後から抱き寄せた。
 「あなたの誓いは重荷だった。ここで解放されなさい」
 頬に触れる手は温かく、涙を拭う仕草があまりにも自然で、セレーナの胸に残っていた灯火がかき消されかけた。

 影の女王はさらに深く父の幻影に絡め取られていた。闇糸は完全に消え失せ、代わりに彼女自身の血が糸となって全身を縛っていた。
 「お前は孤独ではない。戻ってこい」
 その囁きに、彼女の瞳から涙があふれ、震える声が漏れた。
 「……私は……娘……?」
 冷酷に生きてきた誇りが崩れ、幼き日の少女が再び顔を覗かせる。抱擁の温もりはあまりにも甘美で、抗う理由が見つからなくなっていった。

 神殿全体が胎動し、壁や床から無数の腕が伸びて三人を同時に引き寄せた。腕は彼らの身体を撫で、血を吸い、涙を舐め、吐瀉をも甘露のように受け取った。
 《抗ウナ……汝ラハ一ツニ溶ケヨ……》

 その声に従うように、三人の輪郭が歪み始めた。血と汗が混ざり合い、影が重なり、個々の存在が曖昧になっていく。
 レイジの鼓動とセレーナの鼓動が重なり、影の女王の脈動と同調する。三人の心臓が同じリズムを刻まされ、意識が混ざり合いそうになった。

 「やめろ……俺は俺だ……!」
 レイジが叫んだが、その声はセレーナの唇からも漏れ、影の女王の喉からも響いた。三人の声が一つに重なり、個性が消えかけていた。

 セレーナは必死に首を振った。だが視界にはレイジの記憶が流れ込み、リリィナの笑顔が瞳に焼き付いた。彼女の心に他人の罪悪感が流れ込み、自我が揺らいだ。
 「……これは……私の記憶じゃ……」

 影の女王もまた、セレーナの誓いを心に感じていた。彼女の中に存在しないはずの「国を背負う責任」が流れ込み、理性が崩れかけた。
 「……私が……女王に……?」

 レイジの中には影の女王の孤独が流れ込み、彼女が父を求めて泣き叫ぶ幼い記憶を追体験させられた。心臓が引き裂かれるように痛み、涙が勝手に溢れた。
 「……こんな……苦しいものを……」

 神殿の胎内は、三人を一つの存在に溶かそうとしていた。個の欲望も罪も誓いも孤独も、すべてを解体し、一つの「抱かれる魂」として再構築するために。

 《欲望ハ孤独ヲ呑ミ……孤独ハ誓イヲ呑ム……全テハ母胎ニ還ル……》

 三人の身体は重なり合い、血と汗と涙と吐瀉が混ざり、輪郭を失いかけていた。

 ――ここで抗えなければ、彼らは三人としての存在を完全に失い、娼王の胎内に吸収されるだろう。

 広間を埋め尽くす腕は、もう「数える」ことなどできなかった。一本一本が異なる皮膚を持ち、老人の皺、赤子の柔らかさ、恋人の温もり、母の優しさ――その全てが同時に三人を撫で、抱き締め、体温と鼓動を奪い取っていった。

 レイジは剣を握ろうとした。だが、すでにその刃は形を失い、手の中でぬるりとした臓腑のようなものに変わっていた。握るたびに心臓を掴まれるような痛みが走り、同時に甘い快感が背骨を駆け上がる。
 「……っ……ぐ、ああ……!」
 吐血と共に声が漏れ、視界が赤黒く滲んだ。リリィナの幻影が微笑み、腕を絡めて囁く。
 「兄さん……あなたの痛みは私が全部抱く。だからもう、委ねて……」
 胸の奥で「抗う理由」を探そうとしても、指先が幻影に触れるたびに思考は麻痺し、力は抜けていった。

 セレーナは玉座の上に固定され、民衆の幻影に讃えられていた。無数の声が「女王よ」「抱かれよ」と唱和し、彼女を讃える歌が広間に満ちていく。
 「私は……違う……これは誓いじゃない……」
 涙で濡れた頬を幻影のカリーネが優しく拭った。
 「誓いなんて必要ない。あなたは王国に縛られるべきじゃなかった。ここで眠れば、誰も責めない」
 カリーネの瞳は温かく、あまりにも自然だった。セレーナは必死に拒もうとしたが、背後からの抱擁に包まれるたびに、胸の奥の炎がひとつ、またひとつと消えていった。

 影の女王はすでに父の幻影の胸に沈んでいた。
 「私は……孤独じゃなかったの……?」
 震える声で問うと、幻影は頷き、頭を撫でた。
 「そうだ……お前は愛されていた。戻ってこい」
 その言葉は幼き日から望んでいた唯一の救い。涙が滝のように頬を伝い、全身から力が抜けていく。冷酷さは崩れ落ち、ただ抱かれる少女に還っていった。

 神殿全体の脈動は頂点に達した。
 壁が呼吸し、床が波打ち、天井から黒い液体が豪雨のように降り注ぐ。三人の身体はその液体に濡れ、血と汗と涙と混ざり合い、溶けるように床へ沈んでいった。

 《抗ウナ……抗ウ者モ結局抱カレル……欲望ハ全テヲ同化スル……》

 娼王の声が骨の芯を揺さぶり、魂を震わせる。三人の身体は輪郭を失い始め、血肉が溶けて影と混ざり合い、互いの境界が曖昧になっていく。

 レイジはセレーナの記憶を、セレーナは影の女王の孤独を、影の女王はレイジの罪悪感を――互いに流し合い、もはや誰の心なのか分からなくなっていた。

 「俺は……誰だ……?」
 レイジの声が広間に響いた。だが同じ言葉をセレーナも影の女王も口にしていた。三人の声が完全に重なり、一つの存在に近づいていた。

 瞳からは血が流れ、口からは血と吐瀉が溢れ、全身は震えながらも、心は甘い安らぎに包まれていく。

 セレーナがかすれた声で呟いた。
 「もう……抵抗できない……」

 影の女王もまた、嗚咽を漏らした。
 「私は……抱かれても……いいのかもしれない……」

 レイジの唇からも、同じ言葉が零れた。
 「……終わりか……」

 広間の腕が三人を同時に包み込み、胸の奥まで抱き締めた。

 《裸ノ誓約ノ者タチヨ……汝ラハ母胎ニ還ル運命……》

 その宣告と共に、三人は完全に意識を奪われた。

 ――もはや、抗う理由すら見つからない。
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