オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第67話 ー失われし命を抱いてー

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 蒼い光に導かれるように、大陸の縁を越えた二人は、崩壊の奔流からようやく逃れた。振り返れば、かつて無限に広がると思えた大地が、轟音と共に奈落へ沈んでいく。裂けた空はやがて閉じ、燃え上がる大陸の姿を呑み込んだ。

 ただ――静寂が残った。

 セレーナは荒い息を整え、血に濡れた胸に手を当てた。そこにはまだ、焼けるような痛みと共に、温もりが残っていた。レイジの魂の残滓が触れているのを、確かに感じられたからだ。

 影の女王は岩陰に腰を下ろし、深い吐息を洩らした。
 「……我らだけが、生き延びたか」
 彼女の声は低く震え、冷徹さを装ってはいたが、その奥には深い痛みが滲んでいた。

 セレーナはうなずき、視線を伏せた。
 「……そうね。カリーネも、リリィナも……そして、レイジも……もうここにはいない」

 沈黙が二人を包んだ。荒れ果てた大陸の風が吹き抜け、かつての仲間たちの声を運ぶかのようだった。

 セレーナの脳裏には、リリィナの笑顔が浮かんだ。明るく、無邪気で、時に小悪魔のように周囲を翻弄した妹姫。だがその奔放さの裏には、姉を、仲間を、そしてレイジを守りたいという強い想いがあった。
 「……リリィナ……あなたが最後に残した勇気が、今も私を支えているわ」

 影の女王は静かに目を閉じ、別の面影を思い出していた。
 「……カリーネ……あの外交官は、愚かに見えて、誰よりも強かった」
 彼女は苦笑した。
 「最後まで、自分を取引材料にするとは……あれほどの交渉は、我らにはできぬ」

 セレーナは涙を流し、肩を震わせた。
 「彼女が命を賭けなければ、私たちは今ここにいない……。レイジも……」

 レイジ。
 その名を口にした瞬間、胸が裂かれるように痛んだ。

 彼はいつも不器用で、冗談めかして空気を軽くしようとするのに、いざという時は必ず最前線に立ち、仲間を守る。その姿が何度も脳裏に蘇る。
 「……あの人が……いなければ、私はとっくに……」

 影の女王は目を開き、遠い空を見つめた。
 「愚か者め……。お前がいなければ、我は未だ孤独に囚われていた。だが……もういない」

 言葉が途切れ、二人の頬を涙が伝った。

 だが、その時、また風が吹いた。温かな風が彼女たちの髪を撫で、涙を拭うように流れていった。

 セレーナはその風に微笑みかけた。
 「……レイジ、見ているのね。私たちはまだ歩き続ける……あなたの誓いを、この胸に抱いて」

 影の女王もまた、かすかに唇を吊り上げた。
 「……ああ、愚か者。お前の魂が残っているのならば、我らは決して倒れぬ」

 未知の大陸は、静寂の中に広がっていた。
 その地で二人は、失われた仲間を思い、涙を流し、そして誓いを新たにする。

 ――悲しみは消えない。だがその悲しみこそが、彼らを未来へ導く灯火となるのだった。

 崩壊の轟音が遠ざかり、辺りは静寂を取り戻していた。だがその静寂は癒しではなく、仲間を失った現実を突きつける重苦しい静けさだった。

 セレーナは膝を抱え、肩を震わせていた。涙は止まらず、頬を伝い落ちるたびに、胸の奥の痛みを呼び覚ます。
 「……どうして、こんなにも……みんなを失わなければならなかったの……」

 影の女王は黙って彼女の隣に腰を下ろした。普段の冷徹な瞳は揺らぎ、まるで自らも泣いているかのように影を帯びていた。
 「……それが、我らの選んだ戦いの結末だ。だが――無駄死にではない」

 セレーナは顔を上げ、涙に濡れた瞳で彼女を見た。
 「……無駄じゃない、って言えるの? リリィナも、カリーネも……そしてレイジも……! みんな命を落として……私たち二人だけが生き残った。どうして……」

 影の女王は視線を逸らさず、言葉を紡いだ。
 「リリィナの犠牲があったから、お前は心を砕かれずに済んだ。あの小悪魔のような妹が、最後まで笑って逝ったからこそ……お前は泣きながらも前を向けた」

 セレーナの唇が震えた。思い出すだけで胸が張り裂けそうだった。リリィナは最後の瞬間まで、自分を守ろうと笑い、声を上げていた。
 「……そうね……あの子は、泣かせないって……最後まで……」

 影の女王は続けた。
 「カリーネの命を賭した交渉があったから、我らは増殖する怪物を止められた。あれがなければ、娼王にたどり着くことすらできなかった」

 彼女の声には、珍しく尊敬の響きがあった。冷酷で、計算ばかりしてきた彼女でさえ、カリーネの行動には心を動かされたのだ。
 「……自らを差し出し、眼鏡を外し、笑みを浮かべて消えた。あの外交官こそ、真の戦士であった」

 セレーナは嗚咽を洩らした。
 「……カリーネの最後、忘れられない……。あの時の彼女の笑みが、焼き付いて離れないの」

 二人は互いに言葉を失い、ただ涙を流した。

 やがて影の女王が口を開いた。
 「そして――愚か者、レイジ。奴の命を賭した抱擁がなければ、娼王を倒すことは叶わなかった。あれほどの愚かさが、世界を救ったのだ」

 セレーナは胸を押さえ、涙の中で微笑んだ。
 「そう……あの人はいつだって愚かで……でも一番強かった。最後まで私たちを守り、未来を残してくれた……」

 沈黙が再び訪れた。だが先ほどとは違い、その沈黙は互いの心を支える静けさに変わっていた。

 セレーナは瞳を拭い、決意を込めた声で言った。
 「……だから、私たちは生きるの。彼らの死を、無駄にしないために」

 影の女王もうなずき、わずかに口角を上げた。
 「そうだ。悲しみは消えぬ。だが、我らが進むことでしか、その悲しみは意味を持たぬ」

 二人は空を仰いだ。
 未知の大陸の空には、まだ荒々しい赤が残っていたが、その奥にかすかな青が差し始めていた。

 ――仲間たちの犠牲を抱き、二人は未来へと歩みを進める。

夕闇が訪れる頃、二人はようやく崩壊の轟音から遠ざかった。未知の大陸の片隅に辿り着き、岩壁の陰に身を寄せる。周囲は静寂に包まれ、遠くでまだ崩壊の余波が響いていたが、ここには束の間の安らぎがあった。

 セレーナは膝を抱え、目を閉じた。疲労が全身を蝕んでいたが、それ以上に心が重かった。
 「……夜が来るのね。リリィナがいたら、きっと『怖いから一緒に寝て』なんて言って……私の手を握って離さなかったでしょうに」

 その声は震え、涙が滲んでいた。

 影の女王は隣で冷ややかに微笑んだ。
 「……あの小悪魔め。だが、その無邪気さが我らを救っていたのだ。笑って死にゆく姿は……忘れぬ」

 二人の沈黙を夜風が満たす。どこからか虫の羽音が響き、草木がざわめく。だが、その音すらも悲しみを強調するように寂しく響いた。

 やがてセレーナは手を胸に当て、もう一人の仲間を思い出した。
 「……カリーネ。あなたの眼鏡だけが、最後に残った……。どうしても、忘れられない」
 彼女の声は涙で震えていた。
 「最期の笑み、あれは強がりなんかじゃなかった。覚悟と誇りの笑みだった……。外交官として、誰よりも誠実に、この世界と向き合っていたのよね」

 影の女王は静かにうなずいた。
 「……あの瞬間、我は理解した。命を賭して交渉するとは、ああいうことなのだと。眼鏡一つが残ったのは、彼女が生きていた証だ」

 セレーナは涙を拭き、夜空を仰いだ。空にはまだ赤が残り、ところどころに黒い裂け目が揺らめいていた。それでも星々が顔を覗かせ始め、光が僅かに希望を照らしていた。

 「……レイジ。あなたも見ているの?」
 その問いは夜空に溶け、答えは返らない。だが風が優しく頬を撫で、涙を乾かしていった。

 影の女王もまた、静かに瞼を閉じた。
 「愚か者……。お前は命を賭して娼王を抱き潰した。神をも抱いた王を、ただの男が抱き潰したのだ。あの愚かさが……世界を救った」

 その言葉に、セレーナは嗚咽を洩らした。
 「そうね……最後まで、あなたらしかった……。でも……どうして私たちを残して逝ってしまったの……」

 涙が夜の大地に滴り落ちる。

 しばらく二人は言葉を失い、ただ仲間たちの面影を胸に抱いていた。炎に照らされた笑み、眼鏡を外した誇り高い姿、そして血に塗れてなお微笑む最後の抱擁――その全てが、彼女たちの心に焼き付いて離れなかった。

 夜空に一つの流星が走った。
 セレーナはそれを見つめ、静かに囁いた。
 「……ありがとう、みんな。私たちは……生き抜いてみせる」

 影の女王も瞳を細め、呟いた。
 「愚か者たちの犠牲を、必ず未来に刻む……」

 ――未知の大陸の夜は冷たく、寂しかった。だが、その夜を越えてこそ、誓いは新たに輝きを増していくのだった。

 長い夜が明けていった。
 赤黒く染まっていた空は次第に薄れ、東の地平から淡い黄金の光が差し込み始めた。荒れ果てた大陸を照らすその光は、悲しみに沈んだ二人の心を、わずかにでも温めるようだった。

 セレーナは目を開き、涙に濡れた頬を拭った。
 「……夜が明けたのね」
 その声は掠れていたが、確かな力を帯びていた。

 影の女王もまた、瞼を開き、冷たい瞳を朝日に向けた。
 「……我らは、生き残った。愚か者たちが命を捧げてくれたおかげでな」

 二人は立ち上がり、足元を見渡した。夜の間に潮が満ち、かつての崩壊した大地の断片は海へと沈み、そこに新しい水路が生まれていた。沖合には、奇跡のように流れ着いた一艘の古びた船が揺れていた。

 セレーナは驚きの声を漏らした。
 「……船が……? どうして……」

 影の女王は目を細め、風の流れを感じ取った。
 「……あの愚か者だ。魂が残っているのだろう。最後まで、我らを導くつもりらしい」

 セレーナは胸に手を当て、涙を堪えながら微笑んだ。
 「……レイジ……ありがとう」

 二人は崩れゆく大陸の縁を下り、荒れた海岸線に降り立った。波は荒々しく岩を打ち、黒い泡を吹き上げていた。だが船の周囲だけは不思議と穏やかで、まるで二人を迎え入れるために静まっているかのようだった。

 影の女王が船に足をかけると、木材はきしんだが沈むことはなかった。
 「……この船で、王都まで戻れる保証はない。だが……進むしかないな」

 セレーナもうなずき、甲板に足を踏み入れた。
 「ええ。帰らなければ……みんなの犠牲は、本当に消えてしまう」

 二人は力を合わせて帆を上げた。風は背を押すように吹き、船はきしみながらもゆっくりと進み始めた。未知の大陸を背に、王国への航路へと向かって。

 セレーナは海を見つめ、胸に手を当てた。
 「……リリィナ、カリーネ、そしてレイジ……必ず王都に帰って、あなたたちの名を刻むわ」

 影の女王もまた、風に髪をなびかせながら呟いた。
 「愚か者たちの物語を……決して忘れさせはせぬ。王都の者どもに、強く刻んでやろう」

 船は朝日に照らされ、波間を進んでいく。背後では、大陸が最後の轟音と共に沈み、海原に消えていった。

 セレーナは振り返り、涙を流しながらその光景を見送った。
 「……さようなら。私たちの戦場。そして……」

 風が吹き抜け、頬を撫でた。温かな風――レイジの気配が確かにそこにあった。

 影の女王も目を閉じ、その風を受け入れた。
 「……愚か者。お前の魂はまだ我らと共にある」

 船は進み続けた。
 王都へ、誓いを継ぐ場所へ。
 仲間の死を抱きしめながら、二人は未来へと舵を切った。

 ――こうして彼女たちは、大陸を脱し、王国へ帰還するための航路へと旅立ったのであった。
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