オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第68話 ー帰還の凱歌ー

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 船は荒れた波を越え、数日の航路を進んだ。
 やがて遠くに見えたのは、馴染み深い王都の城壁と、朝日に輝く尖塔の影だった。長い戦いの果てに帰還したその光景を目にした瞬間、セレーナの胸は込み上げる涙でいっぱいになった。

 「……帰ってきたのね、私たち」

 声は震え、瞳には涙が滲んでいた。リリィナとカリーネ、そしてレイジ。彼らが命を賭して守った未来の先に、ようやく辿り着いたのだ。

 影の女王もまた、城壁を見上げていた。その表情には安堵と同時に、深い影が落ちていた。
 「……王都か。あの者たちが、我らをどう迎えるか……」

 港に船が近づくと、すでに人々が集まり始めていた。噂は伝わっていたのだろう。天凶を討ち果たし、生還した者がいる――その話は奇跡のように広がっていた。

 桟橋に降り立った瞬間、歓声が上がった。
 「おおっ、セレーナ殿下だ!」
 「影の女王まで……本当に生きていたのか!」
 「彼女たちが大陸を救ったのだ!」

 民衆の声は熱狂の渦となり、二人を飲み込んだ。花びらが舞い、子供たちが笑顔で手を振る。長き戦乱の影が払われた安堵と喜びが、王都全体を包み込んでいた。

 セレーナは胸に込み上げる思いを堪えきれず、笑みを浮かべながら涙を零した。
 「……こんなにも……人々は待っていてくれたのね」

 だが、隣に立つ影の女王の瞳は、鋭く冷えていた。
 「……喝采は甘美だが、毒にもなる。民は真実を知っているわけではない。彼らは、犠牲を知らぬまま、英雄を求めているだけだ」

 セレーナは一瞬だけ視線を落とした。リリィナの無邪気な笑顔、カリーネの最期の微笑み、そしてレイジの血に濡れた抱擁――そのすべてが胸を刺した。
 「……でも、それでもいい。人々は救われた。犠牲を背負うのは、生き残った私たちの役目だから」

 影の女王は彼女を見つめ、わずかに眉を寄せた。
 「お前は……強いな、セレーナ。だが、私は……この熱狂に立ち続けることに疑問を覚える」

 二人の会話を遮るように、王都の鐘が高らかに鳴り響いた。城門が開き、兵士たちが整列し、王族と高官が出迎えの場に姿を現した。

 「セレーナ殿下! そして……影の女王よ!」
 宰相が声を張り上げた。
 「天凶を討ち果たし、この世界を救った英雄たちよ! 王都へ凱旋せよ!」

 民衆の喝采はさらに高まり、二人の名が響き渡った。

 セレーナは震える唇で答えた。
 「……ええ、帰ってきました。仲間たちの犠牲と共に……」

 その言葉に民はさらに沸き立った。だが影の女王はわずかに俯き、冷たい眼差しで群衆を見つめていた。
 (……これは、真の姿ではない。犠牲を忘れた喝采は、虚飾に過ぎぬ……)

 それでも彼女は歩みを止めなかった。
 セレーナの隣に立ち、王都の中心へ向かって進む。

 ――こうして二人の凱旋は、王都に新たな物語の始まりを告げるのだった。

 王都の大通りは、まるで祭りのような熱狂に包まれていた。
 民衆は沿道を埋め尽くし、手には花束や旗を掲げ、声を枯らして二人の名を呼んでいた。

 「セレーナ殿下!」
 「影の女王さま!」
 「我らの英雄!」

 空からは花びらが舞い降り、鐘楼の鐘が鳴り響いた。長き恐怖と戦乱の時代を終わらせた二人は、もはや伝説の存在として讃えられていた。

 セレーナは馬車の上から民衆に微笑み、涙をこらえながら手を振った。その姿は気高く、王女としての威厳と慈愛を兼ね備えていた。
 「……みんな……私たちの帰りを待っていてくれたのね」
 その小さな呟きは歓声にかき消されたが、彼女の瞳には確かな誇りと決意が宿っていた。

 一方で、同じ馬車に立つ影の女王の瞳は冷ややかだった。彼女は群衆を見渡しながらも、心の奥で違和感を募らせていた。
 (……愚か者どもの笑顔。彼らは知らぬのだ。リリィナの無邪気な死も、カリーネの誇り高き犠牲も、そしてレイジが魂を燃やして娼王を抱き潰したことも……)

 群衆の声は甘美な歌のように響く。だが影の女王にとって、それはむしろ耳障りだった。
 (……これが「英雄」と呼ばれることの代償か。真実は忘れ去られ、犠牲は見えぬまま……ただ栄光だけが飾られる)

 馬車は王城前の広場に辿り着いた。そこには王が待ち構えており、玉座から降りて二人を出迎えた。

 「よくぞ帰った、セレーナ。そなたは真に王女としての責務を果たした。そして……影の女王よ。そなたの名は、我が国の歴史に永遠に刻まれるだろう」

 その声に、広場の民は一層の歓声を上げた。

 セレーナは涙を拭い、深く頭を下げた。
 「この勝利は、私たちだけのものではありません。多くの犠牲の上にあります。どうか、彼らの名も……忘れないでください」

 彼女の言葉に、一瞬だけ歓声が静まり、やがて大きな拍手が沸き起こった。だがその反応は、影の女王には空虚に響いた。
 (……忘れないで? そんな言葉で、本当に人々の記憶に残るものか? 時が経てば、愚か者たちの犠牲は霞み、ただ伝説の英雄として我らの名だけが残るのだ……)

 群衆は花を投げ、子供たちが無邪気に笑顔を向ける。その視線の中に「救ってくれてありがとう」という純粋な信頼が込められていたことは、彼女も理解していた。
 だが同時に、その純粋さこそが恐ろしかった。

 影の女王は内心で呟いた。
 (……私は、この光の中に立ち続ける存在ではない。闇を背負い、犠牲を覚えているのは、私でなければならぬ。……この民衆の前に立つ資格など、私には……)

 彼女の横顔を見たセレーナは、その微かな陰りに気づいた。

 (……あなた……去ろうとしているのね)

 だがセレーナは何も言わなかった。ただ静かに隣に立ち続けた。影の女王の心を見抜きながらも、その時が来るまで待つ覚悟を決めていた。

 王都の鐘が鳴り響き、凱旋の儀は続いていった。
 だが、影の女王の胸には、誰にも言えぬ葛藤が深く刻まれていた。

 王城の大広間には、かつてないほどの熱気と歓喜が満ちていた。
 長きにわたる戦乱と恐怖から解放された民と貴族たちは、命懸けで戻った二人を讃えようと、今宵の宴を盛大に催した。

 金の燭台に火が灯され、豪華な食卓が並ぶ。楽師たちが奏でる調べは軽やかに響き、色とりどりの衣を纏った人々が笑顔で杯を掲げていた。

 セレーナは高座に立ち、王族としての威厳を保ちながら人々に向かって言葉を紡いだ。
 「……私たちがこうして生きて帰ることができたのは、仲間の犠牲と、皆が信じて待ち続けてくれたからです。この王国は、もう恐怖に怯える必要はありません。新しい未来を共に築きましょう」

 その言葉に、人々は歓声を上げ、杯を打ち鳴らした。
 「セレーナ殿下、万歳!」
 「王国に永遠の繁栄を!」

 だが、影の女王はその光景を冷ややかに見つめていた。
 豪華な料理も、煌びやかな衣装も、彼女の瞳にはただ虚しく映った。

 (……この光の中に、リリィナはいるか? カリーネの声は届いているか? レイジの魂は、ここで笑えるか……?)

 彼女の胸の奥に湧き上がるのは、強い違和感だった。
 人々が彼女を「英雄」と呼ぶたびに、その言葉が刃のように胸を抉った。
 (……私は英雄などではない。ただの生き残りだ。犠牲を背負ったまま、こうして立っているだけ……)

 宴が進むほどに、彼女の孤独は深まっていった。民の笑顔を前に、彼女の心には暗い影が広がるばかりだった。

 セレーナは隣に立つ影の女王の表情を横目で捉えた。
 (……あなたは今、この場にいながら、どこか遠いところにいる……。人々の喝采を浴びても、決して喜んではいない……)

 宰相が杯を掲げ、大声で言った。
 「この勝利はセレーナ殿下と、影の女王の功績にほかなりません! 彼女らの名は、千年の後まで王国の歴史に刻まれるでしょう!」

 再び歓声が響き、花びらが舞った。
 しかし、影の女王の心はそのたびに遠ざかっていった。
 (……千年の後? 戯言だ。千年経つ頃には、彼らの犠牲は霞み、私だけが「英雄」として飾られる。そんな栄誉など、呪いに等しい……)

 彼女は盃を口にしなかった。
 ただ黙して立ち、心の中でひとつの答えを固めていた。

 (……この王都に、私は不要だ。ここに残れば、私は「偽りの英雄」として持て囃され続けるだろう。だが私の心は、犠牲の記憶と共にある。ならば――私は闇に帰るべきだ)

 その瞳に浮かんだのは、決意の光。

 セレーナはそれを見逃さなかった。
 (やっぱり……。あなたは、この王都から去ろうとしているのね)

 だが、まだその時ではないと彼女は悟っていた。今はただ、人々の歓声を受けながらも、影の女王の孤独を胸に刻むしかなかった。

 宴の華やかさの中、影の女王は一人、心の中で静かに別れを決意していた。

 宴の余韻がまだ残る王城の回廊は、夜更けの静けさに包まれていた。
 豪奢な灯火が並び、磨き上げられた大理石の床には影が揺れている。昼間の喧噪や喝采が嘘のように、そこにはしんとした沈黙だけが支配していた。

 影の女王は一人、バルコニーに立ち、夜空を仰いでいた。
 彼女の瞳は深い闇を映し、その中には迷いと苦悩が漂っていた。遠くの街並みには灯が点々と輝き、人々の笑い声が微かに聞こえる。そのすべてが、彼女には自分から遠ざかる別世界のように思えた。

 「……やはり、私はここに居るべきではない」

 小さな声が夜風に消える。
 民衆の歓声、王の言葉、そして宰相の讃え。どれもが彼女の胸を冷たく締め付けていた。

 (英雄? 笑わせる。私はただ、生き延びただけだ。リリィナも、カリーネも、レイジも……命を賭したというのに。なぜ私が残された?)

 その問いは、幾度も心を苛んできた。答えは出ない。ただ、彼女には理解できた――このまま王都に残れば、犠牲は忘れ去られ、自分だけが「栄光」の象徴に祭り上げられてしまうのだ、と。

 影の女王は拳を握りしめ、低く呟いた。
 「……この地を去ろう。闇に戻り、忘れ去られる方がましだ」

 夜風が吹き抜け、黒い髪を揺らした。その瞬間、背後から静かな足音が響いた。

 「やっぱり……ここにいたのね」

 声の主はセレーナだった。薄い夜衣に身を包み、疲れを滲ませた顔で、それでも気丈に立っていた。

 影の女王は振り返らず、低く応じた。
 「……お前は、気づいていたのだろう。宴の最中から」

 セレーナはバルコニーへ歩み寄り、隣に並んだ。
 「ええ。あなたの瞳はずっと、この場所から遠くを見ていた。民衆の声を浴びても、少しも喜んでいなかった」

 影の女王は皮肉げに微笑んだ。
 「当然だ。彼らは真実を知らぬ。犠牲の名を叫ぶ者など一人もいない。英雄など、虚飾の偶像に過ぎぬ」

 セレーナは首を振った。
 「でも、その虚飾も必要なのよ。民は希望を求める。その象徴になれるのは、今や私たちだけ……」

 「お前だけでよい」
 影の女王は遮った。
 「私は闇に生きる者。光に晒されれば、やがて腐る。……それに、私は“影”だ。光の中に残る理由はない」

 その言葉には、深い孤独と自己否定が滲んでいた。

 セレーナは黙って彼女を見つめ、やがて静かに言った。
 「……あなたは去るつもりなのね」

 影の女王は答えなかった。ただ、夜空を見上げ、瞳に決意の色を宿した。

 バルコニーに吹く風は冷たかったが、その奥に、レイジの温もりを思わせる気配が混じっていた。二人の間に沈黙が流れ、その沈黙がすべてを物語っていた。

 ――影の女王は、この王都を去る覚悟を固めていた。
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