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第2話 ー淫魔訓練試合開始ー
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薄暗い石造りの階段を下りていくと、鼻をくすぐるような芳香がレイジの感覚を刺した。
ムスクと花蜜、そしてほのかに漂うスパイスの香り。人工的な香水ではなく、天然の香りが複雑に混ざり合ったその空気に、思わずむせそうになる。明かりは少なく、壁に取り付けられた青白い魔導ランプが、淡く揺れる光を放っていた。
どこか湿気を含んだ空気が、地下に広がる独特の雰囲気を増幅している。まるで巨大なサウナか、秘密クラブのような錯覚を覚える空間だった。
「ここが訓練場……なのか?」
レイジは呆然と呟く。
広がる空間は想像以上に広かった。中央には円形のマットが敷かれ、その周囲を取り囲むようにして観覧席らしき階段状のスペースが並んでいる。壁には艶やかな紫の布がかけられ、魔法文字が織り込まれていた。あちこちから熱を帯びた視線のような気配を感じるのは、訓練場に漂う魔力の残滓か、それとも……。
「わぁ、懐かしい匂い……昔ここで初めてイかされたの、私だったのよね」
軽やかに言ったのは、隣を歩くエルフの少女・リリアだった。相変わらずの軽装で、上半身には透ける布、下は薄手のスリットスカート。背後から歩くレイジとしては、視線のやり場に困ることこの上ない。
「お前、よくそんな格好で歩けるな……寒くないのか」
「え? ううん、逆にこれでちょうど良いくらい。ほら、この服って、魔力循環に最適化されてるから。あと、あの人と戦うには少しでも肌を出しておいたほうが有利なの」
「“あの人”?」
リリアの指さす先、マットの中央に立っていたのは一人の女性だった。
腰まである金髪を高く束ね、鋭い眼差しをこちらに向けている。その姿勢はまるで戦士のように毅然としていたが、着ている服はどう見ても戦闘向きではない。露出の多い革製のボンデージスーツのような装備で、網タイツにピンヒールまで履いている。
「お初にお目にかかります、新人さん。私はソナ。淫魔種と人間のハーフで、ここでは訓練官を務めています。今日は“擬似戦闘”であなたの実力を確認させていただきますね」
微笑みながらそう言うソナの声音には、明確な挑発の色が含まれていた。
「ちょ、擬似戦闘って……本気の戦いじゃないのか?」
「ええ、でも本気で“快感”を奪い合うのよ。負けた方が先に絶頂したら終了。それだけ。単純でしょ?」
レイジは思わず額に手をやった。
この世界に来てから、だいぶ狂った価値観に慣れつつあったが、それでもまだこうした真面目な顔で“絶頂したら負け”などと言われると、脳が処理を拒否する。
「準備ができたら始めましょうか。……ああ、脱がなくてもいいわよ。そっちのスキル、服の上からでも十分効くらしいから」
「いや、なんのスキル前提だよ俺……」
訓練場の空気が変わった。円形マットの魔法陣が淡く輝き、床から微細な振動が伝わってくる。
観覧席にリリアが腰掛け、ニヤニヤとした表情でこちらを見ていた。何も知らない子羊を闘技場に送り込む羊飼いのような目だった。
「開始!!!」
その合図とともに、ソナが一歩踏み出す。その動き一つで、空気が熱を帯びた。
まるでそこにいるだけで媚薬を撒いているかのような錯覚。レイジは一歩後ずさる。視界の端に、小さなウィンドウが浮かび上がる。
『敵スキル:色香風(レベル4)発動中』
くそ、近づいただけでこれか。視線を外し、息を整える。頭に浮かぶのはAV編集時に鍛えられた“冷静さ”だ。今こそ、あの膨大なサンプル動画をカットした日々が生きる。
「ふふっ、あらあら。耐えるのも悪くないけど、受け入れるともっと気持ちいいわよ?」
ソナは床に手をつき、まるで四足獣のような姿勢で近づいてくる。革の装束が軋み、網タイツ越しの肌が光る。レイジの足元に魔法陣が浮かび上がると、突然、床がヌルヌルとした感触を持ち始めた。
「うわっ……なんだこれ! 滑る!」
『敵スキル:淫靡な足技(レベル2)により床属性変化。行動ペナルティ+20%』
レイジは体勢を崩し、尻もちをついた。その瞬間、ソナが上からのしかかる。
「ほら、もう体が反応してる。素直になって……全部見せて?」
吐息が耳元をくすぐり、視界が滲む。だが、レイジはここで折れなかった。
「……見切った」
レイジの指先が光り、反撃のスキルが発動する。
『スキル:絶頂反射(レベル1)起動。敵の快感波を逆流させ、精神干渉へ転換』
ソナの体がピクリと震える。
「なっ!な、に……これ……まさか、返された……!? ああっ……!」
彼女の腰が跳ね、太ももが震えた。観覧席でリリアが立ち上がる。
「イったの!? まさか、初戦で絶頂させた!?」
ソナの体がマットに崩れ落ちた。顔を紅潮させ、唇から小さな喘ぎ声が漏れる。
『勝利! 絶頂干渉成功。報酬:媚薬の葉×1、ギルドポイント+100』
息を整えながら立ち上がったレイジは、空中のウィンドウを睨んだ。
「やってやったぜ……」
観客の誰かが拍手を始め、それが波のように広がっていく。リリアが駆け寄り、満面の笑みを浮かべた。
「すごい! 初陣でソナを落とすなんて、伝説級だよレイジ!」
「いや、俺……なんか、誇らしいような、恥ずかしいような……」
奇妙な達成感と疲労感の中で、レイジは思った。
この世界、狂ってる。
でも、ちょっと悪くないかな。
ムスクと花蜜、そしてほのかに漂うスパイスの香り。人工的な香水ではなく、天然の香りが複雑に混ざり合ったその空気に、思わずむせそうになる。明かりは少なく、壁に取り付けられた青白い魔導ランプが、淡く揺れる光を放っていた。
どこか湿気を含んだ空気が、地下に広がる独特の雰囲気を増幅している。まるで巨大なサウナか、秘密クラブのような錯覚を覚える空間だった。
「ここが訓練場……なのか?」
レイジは呆然と呟く。
広がる空間は想像以上に広かった。中央には円形のマットが敷かれ、その周囲を取り囲むようにして観覧席らしき階段状のスペースが並んでいる。壁には艶やかな紫の布がかけられ、魔法文字が織り込まれていた。あちこちから熱を帯びた視線のような気配を感じるのは、訓練場に漂う魔力の残滓か、それとも……。
「わぁ、懐かしい匂い……昔ここで初めてイかされたの、私だったのよね」
軽やかに言ったのは、隣を歩くエルフの少女・リリアだった。相変わらずの軽装で、上半身には透ける布、下は薄手のスリットスカート。背後から歩くレイジとしては、視線のやり場に困ることこの上ない。
「お前、よくそんな格好で歩けるな……寒くないのか」
「え? ううん、逆にこれでちょうど良いくらい。ほら、この服って、魔力循環に最適化されてるから。あと、あの人と戦うには少しでも肌を出しておいたほうが有利なの」
「“あの人”?」
リリアの指さす先、マットの中央に立っていたのは一人の女性だった。
腰まである金髪を高く束ね、鋭い眼差しをこちらに向けている。その姿勢はまるで戦士のように毅然としていたが、着ている服はどう見ても戦闘向きではない。露出の多い革製のボンデージスーツのような装備で、網タイツにピンヒールまで履いている。
「お初にお目にかかります、新人さん。私はソナ。淫魔種と人間のハーフで、ここでは訓練官を務めています。今日は“擬似戦闘”であなたの実力を確認させていただきますね」
微笑みながらそう言うソナの声音には、明確な挑発の色が含まれていた。
「ちょ、擬似戦闘って……本気の戦いじゃないのか?」
「ええ、でも本気で“快感”を奪い合うのよ。負けた方が先に絶頂したら終了。それだけ。単純でしょ?」
レイジは思わず額に手をやった。
この世界に来てから、だいぶ狂った価値観に慣れつつあったが、それでもまだこうした真面目な顔で“絶頂したら負け”などと言われると、脳が処理を拒否する。
「準備ができたら始めましょうか。……ああ、脱がなくてもいいわよ。そっちのスキル、服の上からでも十分効くらしいから」
「いや、なんのスキル前提だよ俺……」
訓練場の空気が変わった。円形マットの魔法陣が淡く輝き、床から微細な振動が伝わってくる。
観覧席にリリアが腰掛け、ニヤニヤとした表情でこちらを見ていた。何も知らない子羊を闘技場に送り込む羊飼いのような目だった。
「開始!!!」
その合図とともに、ソナが一歩踏み出す。その動き一つで、空気が熱を帯びた。
まるでそこにいるだけで媚薬を撒いているかのような錯覚。レイジは一歩後ずさる。視界の端に、小さなウィンドウが浮かび上がる。
『敵スキル:色香風(レベル4)発動中』
くそ、近づいただけでこれか。視線を外し、息を整える。頭に浮かぶのはAV編集時に鍛えられた“冷静さ”だ。今こそ、あの膨大なサンプル動画をカットした日々が生きる。
「ふふっ、あらあら。耐えるのも悪くないけど、受け入れるともっと気持ちいいわよ?」
ソナは床に手をつき、まるで四足獣のような姿勢で近づいてくる。革の装束が軋み、網タイツ越しの肌が光る。レイジの足元に魔法陣が浮かび上がると、突然、床がヌルヌルとした感触を持ち始めた。
「うわっ……なんだこれ! 滑る!」
『敵スキル:淫靡な足技(レベル2)により床属性変化。行動ペナルティ+20%』
レイジは体勢を崩し、尻もちをついた。その瞬間、ソナが上からのしかかる。
「ほら、もう体が反応してる。素直になって……全部見せて?」
吐息が耳元をくすぐり、視界が滲む。だが、レイジはここで折れなかった。
「……見切った」
レイジの指先が光り、反撃のスキルが発動する。
『スキル:絶頂反射(レベル1)起動。敵の快感波を逆流させ、精神干渉へ転換』
ソナの体がピクリと震える。
「なっ!な、に……これ……まさか、返された……!? ああっ……!」
彼女の腰が跳ね、太ももが震えた。観覧席でリリアが立ち上がる。
「イったの!? まさか、初戦で絶頂させた!?」
ソナの体がマットに崩れ落ちた。顔を紅潮させ、唇から小さな喘ぎ声が漏れる。
『勝利! 絶頂干渉成功。報酬:媚薬の葉×1、ギルドポイント+100』
息を整えながら立ち上がったレイジは、空中のウィンドウを睨んだ。
「やってやったぜ……」
観客の誰かが拍手を始め、それが波のように広がっていく。リリアが駆け寄り、満面の笑みを浮かべた。
「すごい! 初陣でソナを落とすなんて、伝説級だよレイジ!」
「いや、俺……なんか、誇らしいような、恥ずかしいような……」
奇妙な達成感と疲労感の中で、レイジは思った。
この世界、狂ってる。
でも、ちょっと悪くないかな。
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