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第5話 ー今日も不本意でハーレムに拾われるー
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高く投げられたハンドタオルが、柔らかな放物線を描いて落ちてくる。
レイジはそれを無意識のうちにキャッチすると、バスローブを乱したままの状態で思わずよろけた。乾いた布地が顔にかかり、漂う香りに鼻孔がくすぐられる。淡いバニラの匂い、その奥に微かに感じる花の香りが、彼女たちの“日常”を象徴していた。
足元には、訓練用に敷かれたふかふかの絨毯が広がっていた。薄紅色の糸で織られたそれは、魔導繊維と呼ばれる特殊な素材で編まれており、転倒時の衝撃を軽減し、ついでに興奮度を緩和するという“便利すぎる副作用”を持っていた。
天井からは球状の妖精灯が吊るされ、淡く揺らぐ光を空間に落としている。光の粒が舞い降りるように広がり、空気全体がぼんやりと温かい。
そこは淫魔寮の二階、特訓室と呼ばれる特殊空間だった。朝のうちから濃厚な甘い空気に包まれ、どこかしら湿度の高いその部屋は、訓練というより誘惑の実験室のような雰囲気に満ちていた。
レイジの隣で、エルフのリリアが明るく笑う。
「よくがんばったわ、レイジ♪」
声をかけてきたのは、先ほどまで魔導球を用いてレイジと心拍を同調させていたリリアだった。その小柄な体からは想像できないほどのエネルギーが満ちていて、彼女の存在がこの寮の中心にあるのだと感じさせる。
そしてリリアの隣には、小さな体で大きく手を振るコロンの姿があった。彼女はピンクの髪を跳ねさせながら、胸元に刻まれた淡いルーンのような魔導刺青を誇らしげに指差す。
「これで、わたしたち、もっと深くなれるね!」
そのタトゥーからは淡い光が放たれ、レイジの腕に繋がる光の帯がひとすじ、空間を走った。
光の結界が展開され、空間の中心に浮かび上がる魔法陣がふたたび明滅を繰り返す。まるで呼吸しているかのように、陣は膨張と収縮を繰り返していた。
だが、レイジの目にはその様子が“ただのコスプレ同人イベント”の演出にしか見えなかった。
「……これ、ただのコミュニケーションスキルだよな?」
そう呟いたレイジの頭に、ふいに冷たい汗が流れ落ちる。
この空間で行われるすべての訓練が、ギルドでは正式な「第三階級性能力試験」として認定されている。性格適合度、心理共有値、肉体共鳴率──それらはスキルレベルと並列で評価され、ギルド内ランクや昇級にも大きく影響するという。
つまり、レイジの現在地は「セクシャルコミュニケーション訓練」の最前線だった。
訓練の進行に合わせて、部屋の一角に設置された魔導端末が淡く点滅する。操作卓には記録係として割り当てられた淫魔系書記官の女性が座っており、レイジの一挙一動に対して逐一メモを取っていた。
彼女は細身で、眼鏡の奥の瞳は冷ややかだ。
「現在までの累計感度変動、反応係数の標準値を三十三ポイント上回っています。リンク状態は安定。メンタル干渉は許容範囲内」
「なあ、それ全部公表されるんだよな……?」
「もちろんです。なお、ギルドランキングにも反映されます。今週の“絶頂者ランク”ではすでに六位相当です」
「そんなランキング誰が得すんだよ!!」
レイジはがっくりと肩を落とす。もはや羞恥心を通り越して、自己存在の再定義が必要な段階に達していた。
そのとき、部屋の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、褐色の肌に金の刺青を持つ少女──ミュネだった。彼女はリリアとは対照的に、無駄な動きをせず、静かに空間を滑るように歩いてくる。
「……追加訓練、入るわよ」
「え、まだあんの……」
「最終項目。“本能干渉における理性維持テスト”。あなた、今日中にスキルランク上がるから、避けて通れないわ」
ミュネが手をかざすと、空間の中央に新たな光陣が展開された。床から伸びた柔らかな光の帯がレイジの足元を包み込み、抵抗する間もなく彼は宙へと浮かび上がる。
そして、今度の訓練は“触れない訓練”だった。
魔導フィールドによって、彼女たちの“気配”のみが肉体に接触する。音も匂いも、吐息さえも、全ては直接的にではなく精神に干渉する形で注ぎ込まれてくる。
まるで無数の見えない指が、神経をなぞるようにレイジの身体を刺激してくるのだった。
息が詰まる。
思考がまとまらない。言葉を発しようとしても舌が動かない。
「くっ……こいつは、やばい……ッ!!」
ミュネが冷静に観察を続ける中、リリアはケラケラと笑いながら隅の魔導端末を操作していた。
「はい、快感波レベル七十三! 過去最高だよレイジ!」
「誇るなあああああ!!」
すべてが終わったのは、それからさらに三十分後だった。
床に倒れ込んだレイジは、しばらくのあいだ何も考えられなかった。
天井を見上げると、魔導ランプの光が揺らいでいる。それが涙にじんだ視界に映って、どこか懐かしい星空のように見えた。
……日本の夜空が恋しい。
その瞬間、部屋の上部に設置されたランクボードが更新された。
『新スキル取得:快感多重処理(Lv1)』
『称号取得:“困惑系ハーレム極端リリーダー”』
「称号、言いにくっ!」
レイジの叫びが、淫魔寮の廊下に響き渡った。
レイジはそれを無意識のうちにキャッチすると、バスローブを乱したままの状態で思わずよろけた。乾いた布地が顔にかかり、漂う香りに鼻孔がくすぐられる。淡いバニラの匂い、その奥に微かに感じる花の香りが、彼女たちの“日常”を象徴していた。
足元には、訓練用に敷かれたふかふかの絨毯が広がっていた。薄紅色の糸で織られたそれは、魔導繊維と呼ばれる特殊な素材で編まれており、転倒時の衝撃を軽減し、ついでに興奮度を緩和するという“便利すぎる副作用”を持っていた。
天井からは球状の妖精灯が吊るされ、淡く揺らぐ光を空間に落としている。光の粒が舞い降りるように広がり、空気全体がぼんやりと温かい。
そこは淫魔寮の二階、特訓室と呼ばれる特殊空間だった。朝のうちから濃厚な甘い空気に包まれ、どこかしら湿度の高いその部屋は、訓練というより誘惑の実験室のような雰囲気に満ちていた。
レイジの隣で、エルフのリリアが明るく笑う。
「よくがんばったわ、レイジ♪」
声をかけてきたのは、先ほどまで魔導球を用いてレイジと心拍を同調させていたリリアだった。その小柄な体からは想像できないほどのエネルギーが満ちていて、彼女の存在がこの寮の中心にあるのだと感じさせる。
そしてリリアの隣には、小さな体で大きく手を振るコロンの姿があった。彼女はピンクの髪を跳ねさせながら、胸元に刻まれた淡いルーンのような魔導刺青を誇らしげに指差す。
「これで、わたしたち、もっと深くなれるね!」
そのタトゥーからは淡い光が放たれ、レイジの腕に繋がる光の帯がひとすじ、空間を走った。
光の結界が展開され、空間の中心に浮かび上がる魔法陣がふたたび明滅を繰り返す。まるで呼吸しているかのように、陣は膨張と収縮を繰り返していた。
だが、レイジの目にはその様子が“ただのコスプレ同人イベント”の演出にしか見えなかった。
「……これ、ただのコミュニケーションスキルだよな?」
そう呟いたレイジの頭に、ふいに冷たい汗が流れ落ちる。
この空間で行われるすべての訓練が、ギルドでは正式な「第三階級性能力試験」として認定されている。性格適合度、心理共有値、肉体共鳴率──それらはスキルレベルと並列で評価され、ギルド内ランクや昇級にも大きく影響するという。
つまり、レイジの現在地は「セクシャルコミュニケーション訓練」の最前線だった。
訓練の進行に合わせて、部屋の一角に設置された魔導端末が淡く点滅する。操作卓には記録係として割り当てられた淫魔系書記官の女性が座っており、レイジの一挙一動に対して逐一メモを取っていた。
彼女は細身で、眼鏡の奥の瞳は冷ややかだ。
「現在までの累計感度変動、反応係数の標準値を三十三ポイント上回っています。リンク状態は安定。メンタル干渉は許容範囲内」
「なあ、それ全部公表されるんだよな……?」
「もちろんです。なお、ギルドランキングにも反映されます。今週の“絶頂者ランク”ではすでに六位相当です」
「そんなランキング誰が得すんだよ!!」
レイジはがっくりと肩を落とす。もはや羞恥心を通り越して、自己存在の再定義が必要な段階に達していた。
そのとき、部屋の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、褐色の肌に金の刺青を持つ少女──ミュネだった。彼女はリリアとは対照的に、無駄な動きをせず、静かに空間を滑るように歩いてくる。
「……追加訓練、入るわよ」
「え、まだあんの……」
「最終項目。“本能干渉における理性維持テスト”。あなた、今日中にスキルランク上がるから、避けて通れないわ」
ミュネが手をかざすと、空間の中央に新たな光陣が展開された。床から伸びた柔らかな光の帯がレイジの足元を包み込み、抵抗する間もなく彼は宙へと浮かび上がる。
そして、今度の訓練は“触れない訓練”だった。
魔導フィールドによって、彼女たちの“気配”のみが肉体に接触する。音も匂いも、吐息さえも、全ては直接的にではなく精神に干渉する形で注ぎ込まれてくる。
まるで無数の見えない指が、神経をなぞるようにレイジの身体を刺激してくるのだった。
息が詰まる。
思考がまとまらない。言葉を発しようとしても舌が動かない。
「くっ……こいつは、やばい……ッ!!」
ミュネが冷静に観察を続ける中、リリアはケラケラと笑いながら隅の魔導端末を操作していた。
「はい、快感波レベル七十三! 過去最高だよレイジ!」
「誇るなあああああ!!」
すべてが終わったのは、それからさらに三十分後だった。
床に倒れ込んだレイジは、しばらくのあいだ何も考えられなかった。
天井を見上げると、魔導ランプの光が揺らいでいる。それが涙にじんだ視界に映って、どこか懐かしい星空のように見えた。
……日本の夜空が恋しい。
その瞬間、部屋の上部に設置されたランクボードが更新された。
『新スキル取得:快感多重処理(Lv1)』
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「称号、言いにくっ!」
レイジの叫びが、淫魔寮の廊下に響き渡った。
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