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第7話 ー発情バジリスクの縄張りをゆけ、しぶしぶ調査隊ー
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森での魅了スライム採取任務を終えてからというもの、レイジは淫魔寮の一室で泥のように眠った。スキル『性感耐性+1』を得たとはいえ、その代償は大きく、翌朝の目覚めは遅く、体のあちこちがこわばっていた。
だが、リリアは容赦ない。朝食のフルーツヨーグルトをぺろりと平らげながら、満面の笑みで告げた。
「さあ、次の任務、決まったわよ。次は“発情バジリスクの縄張り調査”よ♪」
「名前の時点で嫌な予感しかしないんだが……!」
レイジは食パンを喉につまらせてむせた。
「だって、スライムのときも結局触られたし、ぬるぬるだったし……バジリスクなんて、もっとヤバいんじゃ……」
「まあまあ、発情してるけど、理性は残ってる個体だし。あと、今回はちゃんと“性欲抑制マント”支給されるから大丈夫よ?」
大丈夫という言葉にまったく信頼を抱けないまま、レイジは装備を整え、ふたたび街外れの冒険者ギルドへと向かった。
任務の内容はこうだった。
『北の山間部に生息する希少魔獣“バジリスク(交尾期)”の生態記録および縄張り分布図の作成。報酬:スキルポイント+2、ギルドランク昇格に影響。』
ギルド受付嬢の説明によると、交尾期に入ったバジリスクは極端に警戒心が強まり、特定の場所を縄張りとして支配する傾向があるらしい。その行動パターンを把握することは、他の冒険者の安全のためにも重要だという。
「ようするに、発情した恐竜にストーカーしろってことだな……」
装備を整えたレイジとリリアは、ギルド支給の地図を片手に北の山岳地帯へと向かった。道中、リリアは軽口を叩きつつ、身体を柔らかく動かして準備体操をしている。
「この任務、実は“発情波耐性”ってスキル獲得のチャンスでもあるのよ」
「また変なスキル名が出てきたな……」
「あると便利なのよ。たとえば淫気の濃いダンジョンとかでも、冷静でいられるようになるし」
そうこう言っているうちに、山の斜面へと差し掛かった。草木は濃く、空気には湿り気があり、どこかぬめった甘い匂いが漂っている。
「気配、感じる……」
リリアがそっと指を口元に当て、耳を澄ます。レイジも集中する。
――カサ、カサカサッ。
細かく地面を這う音。視線を向けると、樹の陰からゆっくりと現れたのは、全長3メートルほどの大きな爬虫類。だがその体表は鱗ではなく、うっすらと艶めく半透明の粘膜に包まれており、まるで艶やかなゼリーのような妖しさを纏っていた。
「これが……バジリスク……?」
大きな赤い瞳がこちらを捉えた瞬間、視界がぼやける。
『状態異常:軽度発情/視覚フェロモン(強)』
脳内に警告表示が走る。
「ちょっ、もう!? 見ただけでこれかよ!!」
レイジは慌てて支給された“性欲抑制マント”を頭から被った。すると、脳を痺れさせるような視線の力がいくらか和らぐ。
「私は先に行って周辺の縄張り境界を確認するわ。レイジはあのバジリスクを尾行して行動パターンを記録して。無理に接触しないでね!」
リリアがすばやく身を翻して森の奥へと消える。
「おい! 俺一人で尾行とか無理があるだろ……っ!」
とはいえ、任務は遂行しなければならない。レイジはそっと木陰からバジリスクを追跡し始めた。
バジリスクは、とある岩場へと向かい、地面をくねるようにのたうち、甘い粘液をそこかしこに残していく。
『発情フェロモンの痕跡検出:濃度65%』
(うわ、マーキングか……)
レイジはこっそりとその様子をスキャンし、手持ちのマップに記録を付け加えていった。
しばらくすると、バジリスクが突然動きを止め、こちらを振り返る。目が合った瞬間、再び発情波が飛んでくる。
『状態異常:中度発情』
「まずい……!」
足がふらつく。脳の奥が痺れたようになり、立っているだけで汗が流れてくる。
そこへ、リリアの声が飛んできた。
「レイジ、魔力抑制スモーク使って!」
バッグの中から小さな瓶を取り出し、地面に叩きつけると、白い煙が広がった。視界が遮られたことで、バジリスクはしばらく辺りを見回してから去っていった。
「……助かった……」
その場にへたり込みながら、レイジは息を吐いた。
こうして危機一髪で任務は完了した。帰還後、ギルドに提出された生態マップは高評価を受け、スキルポイントとともに、次の任務への推薦状までついてきた。
だが、その推薦状に書かれていたのは――
『次回任務候補:魔道学院 実地訓練課程(性的耐性および対魔力行動訓練)』
「……おい、また変なとこ行くのか俺……」
レイジのため息は、淫魔寮の中庭に深く吸い込まれていった。
だが、リリアは容赦ない。朝食のフルーツヨーグルトをぺろりと平らげながら、満面の笑みで告げた。
「さあ、次の任務、決まったわよ。次は“発情バジリスクの縄張り調査”よ♪」
「名前の時点で嫌な予感しかしないんだが……!」
レイジは食パンを喉につまらせてむせた。
「だって、スライムのときも結局触られたし、ぬるぬるだったし……バジリスクなんて、もっとヤバいんじゃ……」
「まあまあ、発情してるけど、理性は残ってる個体だし。あと、今回はちゃんと“性欲抑制マント”支給されるから大丈夫よ?」
大丈夫という言葉にまったく信頼を抱けないまま、レイジは装備を整え、ふたたび街外れの冒険者ギルドへと向かった。
任務の内容はこうだった。
『北の山間部に生息する希少魔獣“バジリスク(交尾期)”の生態記録および縄張り分布図の作成。報酬:スキルポイント+2、ギルドランク昇格に影響。』
ギルド受付嬢の説明によると、交尾期に入ったバジリスクは極端に警戒心が強まり、特定の場所を縄張りとして支配する傾向があるらしい。その行動パターンを把握することは、他の冒険者の安全のためにも重要だという。
「ようするに、発情した恐竜にストーカーしろってことだな……」
装備を整えたレイジとリリアは、ギルド支給の地図を片手に北の山岳地帯へと向かった。道中、リリアは軽口を叩きつつ、身体を柔らかく動かして準備体操をしている。
「この任務、実は“発情波耐性”ってスキル獲得のチャンスでもあるのよ」
「また変なスキル名が出てきたな……」
「あると便利なのよ。たとえば淫気の濃いダンジョンとかでも、冷静でいられるようになるし」
そうこう言っているうちに、山の斜面へと差し掛かった。草木は濃く、空気には湿り気があり、どこかぬめった甘い匂いが漂っている。
「気配、感じる……」
リリアがそっと指を口元に当て、耳を澄ます。レイジも集中する。
――カサ、カサカサッ。
細かく地面を這う音。視線を向けると、樹の陰からゆっくりと現れたのは、全長3メートルほどの大きな爬虫類。だがその体表は鱗ではなく、うっすらと艶めく半透明の粘膜に包まれており、まるで艶やかなゼリーのような妖しさを纏っていた。
「これが……バジリスク……?」
大きな赤い瞳がこちらを捉えた瞬間、視界がぼやける。
『状態異常:軽度発情/視覚フェロモン(強)』
脳内に警告表示が走る。
「ちょっ、もう!? 見ただけでこれかよ!!」
レイジは慌てて支給された“性欲抑制マント”を頭から被った。すると、脳を痺れさせるような視線の力がいくらか和らぐ。
「私は先に行って周辺の縄張り境界を確認するわ。レイジはあのバジリスクを尾行して行動パターンを記録して。無理に接触しないでね!」
リリアがすばやく身を翻して森の奥へと消える。
「おい! 俺一人で尾行とか無理があるだろ……っ!」
とはいえ、任務は遂行しなければならない。レイジはそっと木陰からバジリスクを追跡し始めた。
バジリスクは、とある岩場へと向かい、地面をくねるようにのたうち、甘い粘液をそこかしこに残していく。
『発情フェロモンの痕跡検出:濃度65%』
(うわ、マーキングか……)
レイジはこっそりとその様子をスキャンし、手持ちのマップに記録を付け加えていった。
しばらくすると、バジリスクが突然動きを止め、こちらを振り返る。目が合った瞬間、再び発情波が飛んでくる。
『状態異常:中度発情』
「まずい……!」
足がふらつく。脳の奥が痺れたようになり、立っているだけで汗が流れてくる。
そこへ、リリアの声が飛んできた。
「レイジ、魔力抑制スモーク使って!」
バッグの中から小さな瓶を取り出し、地面に叩きつけると、白い煙が広がった。視界が遮られたことで、バジリスクはしばらく辺りを見回してから去っていった。
「……助かった……」
その場にへたり込みながら、レイジは息を吐いた。
こうして危機一髪で任務は完了した。帰還後、ギルドに提出された生態マップは高評価を受け、スキルポイントとともに、次の任務への推薦状までついてきた。
だが、その推薦状に書かれていたのは――
『次回任務候補:魔道学院 実地訓練課程(性的耐性および対魔力行動訓練)』
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レイジのため息は、淫魔寮の中庭に深く吸い込まれていった。
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