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第15話 ー地下劇場の対決ー ~反和平派ルクレシアの罠と再戦~
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王宮の夜は、外界から隔絶された不気味な静けさに包まれていた。豪奢な装飾と香の匂いが漂う宮殿の奥、ひっそりと隠された地下通路を進む二つの影があった。レイジとリリアだ。前夜に得た情報を頼りに、反和平派の根城である旧劇場へと向かっている。
足音は抑えているはずなのに、やけに響いて聞こえる。レイジは緊張のせいか手汗で剣の柄を握る指が滑るのを感じていた。
「……ここだな。」
重厚な扉の前で足を止める。リリアが耳を寄せると、中から複数の声が聞こえた。笑い声とざわめきの中に、低くよく通る女の声が響く。
「ルクレシアね……間違いないわ。」
リリアが囁き、魔力で扉の隙間を探る。内部には十数名の影。その中央に立つ一際強い魔力の気配。サキュバス族の中でも異質な圧を持つ存在──反和平派の指導者、ルクレシアだ。
二人は扉を押し開け、舞台のような広間へと踏み込んだ。
そこは廃れた劇場を改造した集会所だった。剥がれ落ちた金箔の壁、埃の積もった椅子列。それでも舞台上には赤い絨毯が敷かれ、玉座のような椅子に座る女がいた。全身を黒革の装束で包み、艶やかな脚を組んで座るその女こそ、ルクレシアだった。
「まぁ……お客様? 王国の客人がわざわざここへ?」
彼女の赤い唇が弧を描く。後ろに控える反和平派のサキュバスたちが一斉に立ち上がり、魔力を放つ。
「ルクレシア。お前ら、何を企んでる。」
レイジの問いに、彼女は立ち上がり、ゆっくりと舞台を降りる。高いヒールの音が広間に響くたび、空気が粘つくように重くなる。
「企む? 王宮を堕とす。それだけよ。」
「王宮を……!?」
「双姫の統治などまやかし。淫魔族はもっと強く、もっと解き放たれるべき。私がそれを証明する。」
ルクレシアが指を鳴らすと、周囲のサキュバスたちが動いた。彼女たちの瞳は赤く光り、理性を奪う強烈な誘惑魔法がレイジたちを襲う。
『状態異常:精神干渉(強)』
「くっ……こいつら、本気だな!」
リリアが短杖を振り、防御結界を展開する。しかし、サキュバスたちの魔力は巧妙だった。甘い囁きが耳元で響き、肌を撫でられるような感覚が全身を包む。結界の内側にまで入り込んでくるような密度だ。
「王国の犬ごときが、この甘美に耐えられるかしら?」
ルクレシアが手を掲げると、舞台の天井から魔法陣が展開され、赤黒い光が降り注いだ。重圧がかかり、レイジの膝が震える。脳裏に快楽の幻覚が流れ込み、視界が揺らぐ。
(くそ……ここで……負けるか!)
魔道学院で鍛えた精神耐性が自動発動し、なんとか意識をつなぎとめる。リリアも詠唱を重ね、干渉を相殺する。
「リリア、突破口を!」
「わかってる!」
リリアが魔力の槍を放ち、広間の一角を爆ぜさせる。煙と混乱の中、レイジはルクレシアに向かって突進した。剣を振り下ろすが、ルクレシアは舞うような動きで躱し、彼の首筋に爪先をかける。
「面白いわ。あなた……壊し甲斐がある。」
その瞬間、彼女の魔力が直接レイジの神経を叩いた。視界が真っ白になり、意識が飛びかける。しかし、踏みとどまる。剣に魔力を集中させ、彼女の腕を弾き飛ばした。
「リリア! 今だ!」
リリアが投げた閃光弾が炸裂し、ルクレシアが一瞬怯む。その隙にレイジは距離を取り、リリアと合流した。
「撤退するわよ!」
「くそっ……!」
二人は煙幕を展開し、旧劇場を脱出した。背後でルクレシアの嘲笑が響く。
「逃げなさい……次はもっと楽しませてもらうわ。」
王宮に戻ったレイジとリリアはすぐに双姫へ報告した。ルクレシアの名を聞くと、リュミエルの表情が険しくなる。
「放置できないわ。すぐに討伐隊を編成する。」
カリーネは挑発的な笑みを浮かべた。「じゃあ、私たちも出るわ。あんな女、放っておけない。」
こうして王宮親衛隊と双姫、そしてレイジたちが再戦に向けて準備を整えた。精神干渉対策の護符、強化結界の調整、ルクレシアの魔力に対抗するための戦術が次々と決まっていく。
再び旧劇場。だが、今度は準備万端だ。結界が展開され、双姫が前に立つ。
「ルクレシア、ここで終わらせる。」
舞台に現れたルクレシアは愉快そうに笑った。「ようやく本気の舞台ね。」
戦いは激烈だった。双姫が繰り出す連携魔法、リリアの妨害術、そしてレイジの剣撃。ルクレシアはそれを快楽にも似た余裕で受け流し、反撃を繰り出す。その魔力は甘美でありながら、焼けるような痛みを伴う矛盾そのものだった。
「さあ、もっと見せて……あなたたちの限界を!」
最後の瞬間、レイジは全魔力を剣に込め、ルクレシアの防御結界を打ち砕いた。彼女がよろめき、双姫が同時に魔法陣を展開する。巨大な光が劇場を飲み込み、ルクレシアの姿が消えた。
静寂。レイジは剣を杖に立ち上がる。
「……終わったか?」
リュミエルが息を整えながら頷いた。「一時的に退けたわ。でも、終わりじゃない。」
ルクレシアの残滓のような笑い声が広間にこだました。「また会いましょう……」
こうして再戦は幕を閉じたが、戦いの火種は消えていなかった。
レイジは剣を見つめ、固く誓う。
(次は……必ず終わらせる。)
足音は抑えているはずなのに、やけに響いて聞こえる。レイジは緊張のせいか手汗で剣の柄を握る指が滑るのを感じていた。
「……ここだな。」
重厚な扉の前で足を止める。リリアが耳を寄せると、中から複数の声が聞こえた。笑い声とざわめきの中に、低くよく通る女の声が響く。
「ルクレシアね……間違いないわ。」
リリアが囁き、魔力で扉の隙間を探る。内部には十数名の影。その中央に立つ一際強い魔力の気配。サキュバス族の中でも異質な圧を持つ存在──反和平派の指導者、ルクレシアだ。
二人は扉を押し開け、舞台のような広間へと踏み込んだ。
そこは廃れた劇場を改造した集会所だった。剥がれ落ちた金箔の壁、埃の積もった椅子列。それでも舞台上には赤い絨毯が敷かれ、玉座のような椅子に座る女がいた。全身を黒革の装束で包み、艶やかな脚を組んで座るその女こそ、ルクレシアだった。
「まぁ……お客様? 王国の客人がわざわざここへ?」
彼女の赤い唇が弧を描く。後ろに控える反和平派のサキュバスたちが一斉に立ち上がり、魔力を放つ。
「ルクレシア。お前ら、何を企んでる。」
レイジの問いに、彼女は立ち上がり、ゆっくりと舞台を降りる。高いヒールの音が広間に響くたび、空気が粘つくように重くなる。
「企む? 王宮を堕とす。それだけよ。」
「王宮を……!?」
「双姫の統治などまやかし。淫魔族はもっと強く、もっと解き放たれるべき。私がそれを証明する。」
ルクレシアが指を鳴らすと、周囲のサキュバスたちが動いた。彼女たちの瞳は赤く光り、理性を奪う強烈な誘惑魔法がレイジたちを襲う。
『状態異常:精神干渉(強)』
「くっ……こいつら、本気だな!」
リリアが短杖を振り、防御結界を展開する。しかし、サキュバスたちの魔力は巧妙だった。甘い囁きが耳元で響き、肌を撫でられるような感覚が全身を包む。結界の内側にまで入り込んでくるような密度だ。
「王国の犬ごときが、この甘美に耐えられるかしら?」
ルクレシアが手を掲げると、舞台の天井から魔法陣が展開され、赤黒い光が降り注いだ。重圧がかかり、レイジの膝が震える。脳裏に快楽の幻覚が流れ込み、視界が揺らぐ。
(くそ……ここで……負けるか!)
魔道学院で鍛えた精神耐性が自動発動し、なんとか意識をつなぎとめる。リリアも詠唱を重ね、干渉を相殺する。
「リリア、突破口を!」
「わかってる!」
リリアが魔力の槍を放ち、広間の一角を爆ぜさせる。煙と混乱の中、レイジはルクレシアに向かって突進した。剣を振り下ろすが、ルクレシアは舞うような動きで躱し、彼の首筋に爪先をかける。
「面白いわ。あなた……壊し甲斐がある。」
その瞬間、彼女の魔力が直接レイジの神経を叩いた。視界が真っ白になり、意識が飛びかける。しかし、踏みとどまる。剣に魔力を集中させ、彼女の腕を弾き飛ばした。
「リリア! 今だ!」
リリアが投げた閃光弾が炸裂し、ルクレシアが一瞬怯む。その隙にレイジは距離を取り、リリアと合流した。
「撤退するわよ!」
「くそっ……!」
二人は煙幕を展開し、旧劇場を脱出した。背後でルクレシアの嘲笑が響く。
「逃げなさい……次はもっと楽しませてもらうわ。」
王宮に戻ったレイジとリリアはすぐに双姫へ報告した。ルクレシアの名を聞くと、リュミエルの表情が険しくなる。
「放置できないわ。すぐに討伐隊を編成する。」
カリーネは挑発的な笑みを浮かべた。「じゃあ、私たちも出るわ。あんな女、放っておけない。」
こうして王宮親衛隊と双姫、そしてレイジたちが再戦に向けて準備を整えた。精神干渉対策の護符、強化結界の調整、ルクレシアの魔力に対抗するための戦術が次々と決まっていく。
再び旧劇場。だが、今度は準備万端だ。結界が展開され、双姫が前に立つ。
「ルクレシア、ここで終わらせる。」
舞台に現れたルクレシアは愉快そうに笑った。「ようやく本気の舞台ね。」
戦いは激烈だった。双姫が繰り出す連携魔法、リリアの妨害術、そしてレイジの剣撃。ルクレシアはそれを快楽にも似た余裕で受け流し、反撃を繰り出す。その魔力は甘美でありながら、焼けるような痛みを伴う矛盾そのものだった。
「さあ、もっと見せて……あなたたちの限界を!」
最後の瞬間、レイジは全魔力を剣に込め、ルクレシアの防御結界を打ち砕いた。彼女がよろめき、双姫が同時に魔法陣を展開する。巨大な光が劇場を飲み込み、ルクレシアの姿が消えた。
静寂。レイジは剣を杖に立ち上がる。
「……終わったか?」
リュミエルが息を整えながら頷いた。「一時的に退けたわ。でも、終わりじゃない。」
ルクレシアの残滓のような笑い声が広間にこだました。「また会いましょう……」
こうして再戦は幕を閉じたが、戦いの火種は消えていなかった。
レイジは剣を見つめ、固く誓う。
(次は……必ず終わらせる。)
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