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第17話 ー揺れる玉座ー ~王宮の軋轢と新たなる影~
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ルクレシアとの激戦と“甘美な種”の封印から数日、王宮はようやく表面上の平穏を取り戻したかに見えた。しかし、その裏で、深い亀裂が刻まれ始めていた。
王宮広間では緊急評議が開かれていた。玉座の上には双姫が並んで座り、その下で貴族や軍の幹部たちが声を荒げていた。
「ルクレシアを討ったとはいえ、あの種の被害は甚大だ! 王宮兵の三割が一時的に戦闘不能となったのだぞ!」
「共同統治など無理がある! 双姫の方針が一致していないから、あの女に付け入る隙を与えたのだ!」
リュミエルは冷徹な表情で反論した。「では、単独統治に戻せと? そんなことをすれば、再び内乱が起きるだけよ。」
対してカリーネは皮肉な笑みを浮かべる。「じゃあ姉さんはどうしたいの? 王国の使者であるレイジをもっと巻き込む? あの人、もう私たちの事情に深く入りすぎてるわ。」
場の空気が刺々しくなる。レイジは評議の末席で沈黙していたが、すでに多くの視線が自分に注がれていることを感じていた。王国の客人でありながら、ルクレシア討伐の立役者となったことで、彼はこの宮廷劇の重要な駒と見なされ始めていたのだ。
(……俺、また面倒ごとに巻き込まれるのか?)
評議が終わった後、リリアが肩をすくめて近づいてきた。「ねぇ、気づいてるでしょ? もうあなた、ただの客人じゃないわ。あの連中、あなたを利用する気よ。」
レイジは苦笑した。「そうだろうな……でも、放っておいたらもっとひどいことになる。」
その夜、リュミエルが密かにレイジの部屋を訪れた。月光に照らされた彼女の横顔は硬く、美しい彫像のようだった。
「レイジ……王宮は今、二つに割れようとしている。私たち双姫の共同統治を支持する派閥と、それに反対する旧貴族派。彼らは反和平派の残党と繋がっている可能性が高い。」
レイジは息を呑んだ。「まだ繋がってるのか?」
「ルクレシアは死んだ。だが……あの女の思想は残っている。甘美な種の影響も完全には消えていない。王宮内で未だに衝動を抑えられず、快楽に溺れる者が後を絶たないの。」
リュミエルの声は淡々としていたが、深い疲弊が滲んでいた。ルクレシアの残した爪痕は、肉体だけでなく精神をも蝕んでいたのだ。
そこにカリーネが入ってきた。彼女は肩を竦め、冗談めかして言った。「結局、ルクレシアは死んでも王宮を乱してるってわけね。あーあ、せっかく平和が戻ったと思ったのに。」
レイジは二人を見比べた。「……次の手は?」
リュミエルはきっぱりと言った。「旧貴族派を炙り出す。そして、彼らの背後にいる者を討つ。」
「その背後って?」
「……“影の王”よ。」
重苦しい沈黙が落ちる。王宮の奥深く、淫魔族の中でも存在が噂されるだけの影の支配者。その名が初めて口にされた瞬間、レイジの背筋に寒気が走った。
翌日から、レイジとリリアは親衛隊と共に旧貴族派の調査に動いた。地下倉庫、密会の場、香の漂う密室──そこにはまだ甘美な種の残滓が蔓延っていた。兵士たちが互いを求め合い、貴族が快楽の虜となり、秘密裏に怪しげな儀式が行われている場面にも遭遇した。
「これは……ただの政治抗争じゃないわね。」リリアが吐き捨てる。「完全に宗教じみてる。」
調査の途中、旧劇場で見つかったものと同じ魔法陣の刻印が地下室の壁に描かれているのを発見した。ルクレシアの残党がまだ生きて活動している証拠だった。
「こいつら、まだ終わってなかったか……!」
数日後、再び評議が開かれた。旧貴族派の代表が双姫に詰め寄る。「共同統治は無能の証! 影の王の力を借りるべきだ!」
広間が騒然となる。リュミエルは即座に立ち上がった。「影の王など幻想! 我ら淫魔族が頼るべきは自らの力のみ!」
その瞬間、広間の扉が破られた。赤黒い霧が流れ込み、謎の影が立っていた。人型だが、その輪郭は揺らめき、ルクレシアの魔力を思わせる甘美な気配を放っている。
「……初めまして。我こそが“影の王”の使徒。」
広間が凍り付いた。リュミエルが剣を抜き、カリーネが笑みを消した。「来たわね……!」
レイジは深く息を吸い込み、剣を構えた。
(また面倒な戦いが始まるな……だが、やるしかない。)
こうして、ルクレシアの残した混沌は、新たな脅威として姿を現したのだった。
王宮広間では緊急評議が開かれていた。玉座の上には双姫が並んで座り、その下で貴族や軍の幹部たちが声を荒げていた。
「ルクレシアを討ったとはいえ、あの種の被害は甚大だ! 王宮兵の三割が一時的に戦闘不能となったのだぞ!」
「共同統治など無理がある! 双姫の方針が一致していないから、あの女に付け入る隙を与えたのだ!」
リュミエルは冷徹な表情で反論した。「では、単独統治に戻せと? そんなことをすれば、再び内乱が起きるだけよ。」
対してカリーネは皮肉な笑みを浮かべる。「じゃあ姉さんはどうしたいの? 王国の使者であるレイジをもっと巻き込む? あの人、もう私たちの事情に深く入りすぎてるわ。」
場の空気が刺々しくなる。レイジは評議の末席で沈黙していたが、すでに多くの視線が自分に注がれていることを感じていた。王国の客人でありながら、ルクレシア討伐の立役者となったことで、彼はこの宮廷劇の重要な駒と見なされ始めていたのだ。
(……俺、また面倒ごとに巻き込まれるのか?)
評議が終わった後、リリアが肩をすくめて近づいてきた。「ねぇ、気づいてるでしょ? もうあなた、ただの客人じゃないわ。あの連中、あなたを利用する気よ。」
レイジは苦笑した。「そうだろうな……でも、放っておいたらもっとひどいことになる。」
その夜、リュミエルが密かにレイジの部屋を訪れた。月光に照らされた彼女の横顔は硬く、美しい彫像のようだった。
「レイジ……王宮は今、二つに割れようとしている。私たち双姫の共同統治を支持する派閥と、それに反対する旧貴族派。彼らは反和平派の残党と繋がっている可能性が高い。」
レイジは息を呑んだ。「まだ繋がってるのか?」
「ルクレシアは死んだ。だが……あの女の思想は残っている。甘美な種の影響も完全には消えていない。王宮内で未だに衝動を抑えられず、快楽に溺れる者が後を絶たないの。」
リュミエルの声は淡々としていたが、深い疲弊が滲んでいた。ルクレシアの残した爪痕は、肉体だけでなく精神をも蝕んでいたのだ。
そこにカリーネが入ってきた。彼女は肩を竦め、冗談めかして言った。「結局、ルクレシアは死んでも王宮を乱してるってわけね。あーあ、せっかく平和が戻ったと思ったのに。」
レイジは二人を見比べた。「……次の手は?」
リュミエルはきっぱりと言った。「旧貴族派を炙り出す。そして、彼らの背後にいる者を討つ。」
「その背後って?」
「……“影の王”よ。」
重苦しい沈黙が落ちる。王宮の奥深く、淫魔族の中でも存在が噂されるだけの影の支配者。その名が初めて口にされた瞬間、レイジの背筋に寒気が走った。
翌日から、レイジとリリアは親衛隊と共に旧貴族派の調査に動いた。地下倉庫、密会の場、香の漂う密室──そこにはまだ甘美な種の残滓が蔓延っていた。兵士たちが互いを求め合い、貴族が快楽の虜となり、秘密裏に怪しげな儀式が行われている場面にも遭遇した。
「これは……ただの政治抗争じゃないわね。」リリアが吐き捨てる。「完全に宗教じみてる。」
調査の途中、旧劇場で見つかったものと同じ魔法陣の刻印が地下室の壁に描かれているのを発見した。ルクレシアの残党がまだ生きて活動している証拠だった。
「こいつら、まだ終わってなかったか……!」
数日後、再び評議が開かれた。旧貴族派の代表が双姫に詰め寄る。「共同統治は無能の証! 影の王の力を借りるべきだ!」
広間が騒然となる。リュミエルは即座に立ち上がった。「影の王など幻想! 我ら淫魔族が頼るべきは自らの力のみ!」
その瞬間、広間の扉が破られた。赤黒い霧が流れ込み、謎の影が立っていた。人型だが、その輪郭は揺らめき、ルクレシアの魔力を思わせる甘美な気配を放っている。
「……初めまして。我こそが“影の王”の使徒。」
広間が凍り付いた。リュミエルが剣を抜き、カリーネが笑みを消した。「来たわね……!」
レイジは深く息を吸い込み、剣を構えた。
(また面倒な戦いが始まるな……だが、やるしかない。)
こうして、ルクレシアの残した混沌は、新たな脅威として姿を現したのだった。
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