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第2章

第13話 反逆の王国騎士

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「みんな入ったかな? じゃ、紹介するね。こちらが都市サレアに駐留している王国騎士の一人、クリス・フォールン卿よ」

 メアが紹介してきた人は、まさかの王国騎士で貴族だ。
 そんな人が協力をするとは思えない。もしかしたらヴェルニの差し金かもしれないと思ったノアは、剣を引き抜いてクリスに切先を向けた。

「な、何をするの!? クリスさんに剣を向けないで!」
「本当に協力者なのか? ヴェルニの差し金じゃないか?」

 切先を向けながらジリジリと距離を詰める。
 未だにフードを被っているので顔は見えないが、どこか余裕ある雰囲気を醸し出しているが、油断を誘う気だろう。ノアは目に力を入れていつでも斬り殺せる態勢を取り続けている。

「そう思うのも無理はない。だが、今は信じてくれとしか言えないかな」

 鼻先数センチまでに迫っている剣に怯えることなく、クリスは優しく包み込むかのような声で「僕は味方です」と話かけてくる。

「堕落しきっている王国騎士の言葉など信じられるか!」
「ま、待って! クリスさんもこの国を変えたいの! そのために王国騎士でありながらヴェルニを倒すために協力してくれるんだよ!」

 メアの言葉にステラとリルが同調し、一度話を聞きましょうと言ってきた。
 一人で先走り過ぎたかと思ったノアだが、王国騎士のこれまでの行いを思い出すと信じられないのも無理はない。

「剣を下ろして。話を聞きましょう」
「ステラが言うのなら下げるよ」

 騎士であるからにはステラには逆らえない。
 鞘に剣を入れ、数歩後ろにノアは下がることにした。

「さ、これで話せるわね。クリスさんはどうして私達に協力をしてくれるの?」

 ステラが話かけると、クリスがフードを取って素顔を晒した。
 耳の長さまである金色の髪と、切れ長の目が印象的な美男子だ。泥臭いノアとは違い、高尚な貴族のオーラを放っている。

「これで少しは信用してくれるかな? ステラ様、お初にお目にかかります。クリス・フォールンと申します」

 ステラに前で跪いて挨拶をしている。
 その姿を見たリルが静かに口を開き、話しかけようとしていた。

「やはり私の知っているクリス・フォールンね。でもあれほどヴェルニやこの国の体制を心酔していたのに、どういう心変わりなの?」
「さすがはリルさんですね。手痛いお言葉だ。確かに僕は国王陛下の方針が正しいと思っていましたが、都市サレアの惨状を見て間違っていると思ったのです」

 確かにクリスが言う通り、ヴェルニがいる場所以外はスラム街といっても過言ではない状況だ。痩せ細り、今にも死にそうな住民がいる。
 既に亡くなっている子供もいるだろう。その現状を見て考えを変えたということだが、すぐには信じられない。

「ヴェルニはここで何をしたの? 聞いた話しか知らなくて」
「外には情報が出ないようにしているからね。僕が知っている情報はメアちゃんと同じのが多いね」
「多いってことは違うのもあるの?」
「はい。今日に限り、ヴェルニが国王に呼ばれて首都にいるので建物の警備が手薄になっているのです」

 まさかヴェルニがいないとは思てもいなかった。
 ここにいないのなら、危険を冒して侵入する必要はないのではないだろうか。

「いないのなら侵入することなくないか?」
「それは違いますよ。ヴェルニがいないといことは、メアちゃんのお母さんや洗脳されているルナちゃんを助けれれるということですよ」

 そうだ。
 ヴェルニがいないからメアの母親やルナを助けれる。すぐにその答えに辿り着かなければならないのに浮かばなかった。
 自身の思慮の浅さを恥じていると、ステラが「チャンスじゃない!」と声を上げたのである。

「ステラちゃん声が大きいよ!」
「あっ! ごめんなさい!」

 両手を口に当てて覆っている。
 確かにステラが言う通りチャンスだ。ヴェルニがいなければ警備も薄くなるだろう。その隙に侵入して救い出すのが最善だが、分からないことが一つある。

「メアの母親はどこにいるんだ?」
「そうよ! メアのお母さんの居場所は知っているの?」
「そこが重要でしたね。もちろん知っています。ヴェルニが住む建物内の地下五階に監禁されているようです」

 まさかの地下だった。
 しかしなぜ監禁をするのだろうか。何か意味があるとは思えないが。

「さて、私が知っているのはこれくらいです。これからどうしますか?」

 クリスはノア達にこれからの行動を委ねて壁に寄りかかっている。

「そうね。まだ日も出ているし暗くなるまで待機しましょうか」
「待機って結構時間あるけど、何をすればいいの?」

 待機とメアは言うが、何もしないまま時間が過ぎるのを待つのは苦痛だ。
 ノアは何かしらすることがあればとメアに話しかけることにしたが、返ってきたのは衝撃的な言葉だった。

「あまり離れなければ、この辺りを見てもいいよ」
「王国騎士とかにいるのがバレない?」
「この辺りにはいないから平気だよ。それに、王国騎士がいるのはヴェルニが住んでいる建物周辺だけだから」

 まさかの返答だった。
 確かに都市サレアに入った時に誰もいないのがおかしいし、住人に見られていたはずなのに通報すらされていない。それがこの周辺に王国騎士がいない証明だったのかとノアは思うことにした。

「そうなのか。なら、この辺りを見てくるよ。村以外は初めてだからさ」

 そう言いながら外に出ようとした瞬間、ステラが一緒に行くと言い出した。

「私もノア君と一緒に行くね。リルさんはクリス君と積もる話でもしててね!」
「そ、そんな姫様ぁ! 私も!」
「ダメだよー。じゃ、行ってきまーす」

 ステラに引っ張られる形でノアは外に行くことになった。
 気ままに見たかったと心の中で呟くが、楽しそうに踊る背中を見て二人で見るのも悪くないかと考え直すノアであった。
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