王女殿下の大罪騎士〜大罪人にされたので、第三王女の騎士になる〜

天羽睦月

文字の大きさ
16 / 39
第2章

第16話 銀氷のルナ

しおりを挟む
「がっふ……ぐぅぅぅ……」

 切り傷が焼けるように痛い。血が止まらず、地面に滴り落ちている。
 次第に視界がぼやけ始め、息が荒くなる。血が流れ過ぎているのが原因だろう。

「たったこれだけで瀕死とは、やはり大罪人はゴミだな」

 息が荒く、今にも倒れそうなノアに対して侮蔑を籠めた視線と共に”ゴミ„と言葉を発する。どれほど大罪人を下に見ているのだろうか。確かに犯罪を犯し大罪人とされたが、村や都市を守る要となっていることに違いはない。
 むしろ、近衛騎士や王国騎士よりも防衛に貢献している存在だ。

「ゴミ……じゃない……俺は……騎士だ……」

 地面に剣を刺して倒れる身体を支えるが、それすらも辛い状態だ。
 死ぬ――その言葉しか脳裏に浮かんでこない。今にも死にそうなノアに対して、マグナは剣を首筋に当てた。

「大罪人如きに時間を使いすぎた。さっさと死んでもらうぞ」

 格が違い過ぎる。
 少し戦って逃げようとしたのが間違いで、ステラ達と共に逃げるのが正解だったようだ。ノアは目的が果たせないことを悔やみながら、無事にステラ達が逃げ切れたことが嬉しかった。

「終わりにしよう。逃げた裏切りの王女を殺さなければならないからな」

 探して殺させるわけにはいかない。
 せっかく稼いだ時間が無駄になってしまうなら――することは一つしかない。
 痛みに耐え、剣を握り締めるノア。その顔は何かを決意したかのようだ。

「何だその顔は? 何をしようとしている?」
「俺はステラの騎士だ。なら、主のために最後まで抗うのは当然だろう!」

 叫びながら炎剣を発動し、首筋に当てられている剣を上部に弾く。
 その行為を予想をしていなかったマグナは、唖然としながら目を丸くしていたがそんなことは関係ない。今は畳みかけて少しでもダメージを負わせなければならない。

「お前が見下していた大罪人の最後の悪あがきを見ろ!」
「くっ! 大罪人風情が調子に乗るな!」

 白い炎を剣に纏わせたマグナは右腕に力を入れて勢いよく振り下ろしてくる。
 その攻撃を剣の腹で受け流し連続で斬りかかるが、最小限の動きで全て避けられてしまった。

「瀕死なお前の攻撃など当たるわけがない。速度もキレも全てが落ちているぞ」

 マグナの言う通りだ。出血が激しく、痛みに耐えられなくなってきている。
 いつ倒れてもおかしくない状態だ。顔を歪めつつノアは目の前にいるマグナを見据える。

「それでも……それでも俺は!」

 思い通りに動かない腕に力を入れて剣を握り締めた瞬間、目の前に何者かが勢いよく降り立った。前が見えないほどに立ち込める砂埃が晴れると、そこにはルナが剣を構えて立っている姿が目に入ってくる。

「ル、ルナ!? どうして!?」

 目の前の出来事が理解できない。
 助けてと言って姿を消したのに、どうして目の前に現れたのだろうか。装備などに変更はなく、村を出た時に会ったルナのままだ。

「お前はヴェルニの道具か。道具らしく命令があるまで大人しくしていろ」
「お、お兄チャんヲこロさセなイ」
「ど、どして俺を……洗脳されているはずじゃ!?」

 完全に解かれた分けではないようだが、片言で言葉を発しながらルナはマグナを見据えているように見える。

「逃げろルナ! お前が戦うことはない!」
「ダめダよ。お兄チャんはシンじゃダめ。ワタしがマもルよ」

 五年も会っていない妹に守られるなんて情けない。
 兄であるノアが守るはずなのに、ルナがマグナと戦おうとしている。
 悔しい。ただただ悔しい。謝る前に助けられ、守るとまで言われた。辛い思いしかさせていないのに、どうして守ってくれるのか分からない。

「銀氷か。確かお前は、洗脳を受けて生きる人形となっていたはずではないのか?」
「チがウ。ワタしノセんノうをメアチャんが解いてクれテいルわ。だから――私がお兄ちゃんを守るの!」

 目を見開きルナは剣を引き抜いた。
 途中からハッキリと言葉を喋れているので、洗脳が解けたようだ。メアを誰かが説得して解いてくれたのだろう。

「でもね、今はあんたの相手をしている暇はないの。逃げさせてもらうわ」

 そう言葉を発し、ルナに右手を掴まれた。
 一体何をするつもりなのだろうか。マグナが逃がすことを許すとは思えないノアは、内心ヒヤヒヤとしていた。

「国王に仇なす敵を、わざわざ逃がすと思うか!」
「あなたの意志なんて関係ない! お兄ちゃんを助けるために逃げるの!」

 ルナは目の前に氷の壁を出現させ、姿を見えなくした。

「少し気持ち悪くなると思うけど、我慢してね」
「え? どういうことぉおおおああああ!」

 言葉を発し終える前に、ノアは抱えられながら空に急上昇した。
 重力によって身体が強く押される。気を抜いたら気絶してしまいそうな感覚に耐えるしかない。

「ごめんねお兄ちゃん! 今は耐えて!」
「そ、そんなこと言われても!」

 空を飛ぶというよりは高く飛んで地面に落ちるという感じだ。
 落ちる際に胃の中のモノが押されて口から出そうになる。ただただ気持ち悪い。
ルナはよく平気だなと思い顔を見ると、少し辛そうにしているようだ。

「ルナは平気なのか?」
「どういうこと?」
「落ちる時に気持ち悪くならないのかなって思ってさ」
「ああ、そっちね。当然気持ち悪いわよ。全然慣れないわ」

 どうやらルナも慣れていないようだ。
 もう少し低く飛べばいいのにと思うと、背後からマグナが追ってくる姿が見えた。

「あ、あいつが追って来てるぞ!」
「本当にしつこい男だわ!」

 マグナのことを昔から知っているかのような言い方だ。
 その時、ノアはマグナがルナのことを銀氷と呼んでいることを思い出した。あれは俗にいう異名だろう。
 多大な功績を上げた王国騎士に付けられる別名のはずだ。ルナはこの五年の間に、それほどの功績を上げていたということになる。

「そうか。俺が村で大罪人として腐っている間に、ルナは活躍していたんだな」
「活躍だなんてしていないわ。ただ虐殺をしていたり、攻めて来る敵国と戦っていただけよ。活躍とは程遠いわ」
「そ、そうだったな。ごめん」
「お兄ちゃんが謝ることないわよ。悪いのはオーレリア王国の国王やその指示に従っている人達。お兄ちゃんはそれを正すために騎士になったんでしょ?」

 そうだ。ステラの言葉に賛同して騎士になった。
 洗脳されていたルナの功績を活躍と思うなんて馬鹿すぎる。ノアは自身の頭部を力強く殴打し、ごめんと謝った。

「急に謝るなんてどうしたの?」
「洗脳して得た活躍に嫉妬しちまってさ、兄失格だなと思って」

 その言葉を聞いたルナは地面に降り立って、軽くノアの頭部を叩いたのである。

「謝ることはないわ。洗脳されていたとはいえ、そのおかげで力を手に入れたわ。悪いことばかりじゃないし、この異名はお兄ちゃん達の力になれるはず。私はそこが嬉しい。それにお兄ちゃんも強くなれる! だから、失格だなんて思うことない!」
「ルナ……」

 五年ぶりに会えた妹に慰められてしまった。
 かなり人生経験を得ているようだ。妹に抜かれたけど、すぐに追い抜くために頑張らなければならないといけない。ノアは強くなったルナを見て鼓舞されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら
ファンタジー
千年の時を孤独に生き、魔法を極めた大魔女。 彼女は唯一の弟子に裏切られ、命を落とした――はずだった。 次に目覚めると、そこは辺境伯家の屋敷。 彼女は、魔力コアが欠損した「落ちこぼれ」の幼女、エルシア(6歳)に転生していた。 「魔力がすぐに切れる? なら、無駄を削ぎ落とせばいいじゃない」 エルシアは前世の膨大な知識を駆使し、省エネ魔法を開発。 サボり魔だが凄腕の騎士を共犯者に仕立て上げ、密かに特訓を開始する。 すべては、今世で初めて知った「家族の温かさ」を守るため。 そして、迫りくる魔物の脅威と、かつての弟子がばら撒いた悪意に立ち向かうため。 「おねえちゃん、すごい!」 可愛い弟デイルと、拾った謎の**黒猫に懐かれながら、最弱の令嬢による最強の領地防衛戦が幕を開ける!

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...