彼と兄と過ごした日々 〜蒼亞の願い〜

アマリリス

文字の大きさ
15 / 36
第一章 忍冬

十五 恐るべし亀酒

しおりを挟む
 蒼亞達四人は、白龍殿の宴会場へ行き中を覗いた。既に宗主達は酒が入り、顔がほんのり赤みを帯びている。賑やかに酒を酌み交わし、まだ何も異変は起きてない様子だ。兄と彼は、一番奥の席で観玄と清玄に掴まっていた。
 玄史がぼそっと尋ねる。
「蒼亞、どうやって二人を連れ出すのだ?」
「私が兄上に事情を話すから、三人は志ぃ兄ちゃんから酒を遠ざけるんだ」
 壱黄は不安そうに言う。
「その前に辿り着けるかな…」
「あ、盛虎様と正虎まさとら様と目が合ったっ」 
 海虎はまずいと咄嗟に柱に隠れる。
「取り敢えず行こう」
 四人は素早く席の間を通り抜け、目的地へと向かう。だが、壱黄は黄理に掴まり頭をなでられ、海虎は盛虎に掴まり酒を勧められ、側で正虎が苦笑いする。蒼亞も父と祖父に掴まるも「志ぃ兄ちゃんに亀酒を呑ましたら大変な事になるそうです」早口で告げると「わかった」父と祖父は頷き察してくれた。玄史が先に到着して彼の隣に座り、蒼亞は観玄と清玄に会釈して兄の隣に座る。
「どうしたのだ?」
 蒼亞は声を静めて言う。
「兄上、朱翔様達が今直ぐ兄上達を黄怜殿に連れて来るようにと」
 兄はぼそっと言う。
「何故」
「志ぃ兄ちゃんが亀酒を呑んでいるからです」
「…わかった」
 流石我が兄、蒼亞は安堵して玄史に目配せする。
 がしかし…。

「玄史ぃ、お前は偉いなぁ。妹思いのいい兄ちゃんだ。俺がいい子いい子してやるよ、おいで」

 まずい。
 玄史は彼に頭をなでられ、苦笑いで蒼亞に助けを求め目で訴えていた。
「あっ兄上、志ぃ兄ちゃん…酔ってるんですか?」
 兄は彼の腰に手を回し引き寄せる。
「おいで志瑞也、酔っているのか?」
「んー 少しだけだよぉアハハ」
 彼はとろんとした目つきで兄に凭れた。
「観玄様、清玄様、私達はそろそろ下がらせていただきます。この続きは是非北宮で、朱音しゅおん様と玄音くろね様にも宜しくお伝え下さい」
「おお、分かった蒼万。必ずじゃぞフハハハ」
「葵のことは案ずるな、今日はゆっくり休みなさい。志瑞也もなハハハ」
「観玄様も清玄様も、おやふみなふぁーい…」
 彼は言いながら欠伸をし、頭を下げて机に額を付けた。ところが、頭を上げることなく目の前の酒瓶に手を伸ばす。気づいた玄史がさっと酒瓶を取り彼から遠ざけた。「ん?」逃げた酒瓶を不思議そうに彼は見つめる。玄史が酒瓶を更にずらすと、彼は机に頬をつけながら縁に沿って酒瓶を追う。その動きに、蒼亞と玄史は顔を引き攣らせた。
 額が「コツン」とお猪口にぶつかり「ん?」今度はお猪口で遊びはじめる。玄史は酒瓶を耳元で振って残量を確認し、今の内にと急ぎ口をつけ逆さに持ち上げた。流石玄武家、これは玄史にしかできない。先に着いたのが壱黄や海虎なら、今頃彼に酒を呑まれていただろう。二人はまだ身内に掴まり、愛想笑いしながらこちらの様子を見ている。玄史が酒を呑み干し「ご馳走様でした」と瓶を掲げ、観玄と清玄は呑みっぷりに当然と、お猪口を共に掲げ顎を上げ呑み干した。玄史は口元を袖で拭い、静かに彼の前に空瓶を置く。「ん?」彼は突然現れた酒瓶を取って頭を上げ、嬉しそうにお猪口に注ぐが一滴もでず「あれ?」空瓶を覗き込み、口を尖らし残念そうに鼻息をつく。蒼亞と玄史はほっとし、冷や汗を垂らしながら頷き合う。しかし、今度は兄の酒瓶に手を伸ばしだした。蒼亞は慌てて酒瓶を取って机の下に隠すも、彼も同時にさっと机の下を覗く。俊敏な彼の動きに焦り、再び酒瓶を机の上に戻す。まるで獣と追いかけっこしている気分だ。彼が机の下で「あれれー?」と酒瓶を探している隙に、玄史が顔で「私に渡せ」と机の上から手を伸ばした。
「志瑞也、帰るぞ」
 すっと兄が立ち上がる。
「んー?」
 彼の目線が机の下から兄へと移り、微笑んで両手を伸ばす。
「うん!」
 一連の出来事に、観玄と清玄は楽しそうに笑う。恐らく、五年前も彼はこうだったのだろう。兄は観玄と清玄に過去も含め今回も助けてもらい、お礼がしたかったのだ。酒好きへのお礼は楽しく共に酒を酌み交わすこと。酒のつまみに彼を酔わせ、おまけに蒼亞と玄史の喜劇も観れて、二人は十分に味わえたと満足そうだ。蒼亞と玄史は難を乗り切ったと、安堵の表情で肩の力を抜く。
 兄は彼を横に抱え上げ、二人に会釈して立ち去る。蒼亞と玄史も二人に会釈し、再び席の間を通り抜け父と祖父に目で頷き合う。「壱黄、海虎、そろそろ眠るぞ!」わざと声をかけ、宗主達は「早く寝なさい」と笑い、子供扱いで二人を解放した。四人は揃って兄夫婦を追いかけるも直ぐに追いつく。いつもは無駄なく歩く兄が、揺籠のように一歩、一歩、ゆっくり、ゆっくり、彼を運び歩いていた。殿内とは違い、外は冷んやりと少し肌寒い。彼は心地良さそうに、兄の胸に頭を凭れ微笑んでいる。四人は兄夫婦の後ろから、静かに後をついた。
「兄上、志ぃ兄ちゃんは大丈夫ですか?」
 兄が吐息のように答える。
「さぁ…」
 え?
 珍しく兄が曖昧な返事をした。
「蒼万ぁ…」
「何だ」
「キスして…」
 蒼亞と壱黄は目を見開くも、即座に知らない海虎と玄史に振り向き口に人差し指を立て「今は何も言うな」と訴え、二人は察して頷き黙る。
「今は駄目だ…」
 蒼亞と壱黄はほっとする。
「何でだよぉー 蒼万ぁ…キスしたい」
 再び蒼亞と壱黄は目を見開く。
「…ここは白龍殿だ」
「へへへ、そっか。わかった…」
 どうやら、彼はまだまともなようだ。間に合って良かったと、四人は任務の成功を心で祝う。会話もなく五人の足音だけが、芝生の上で籠るように鳴る。白龍殿を出て暫くすると、一際足音が響き渡り、真っ暗な深い闇の奥から木材の焦げた臭いがわずかに鼻を突いた。
「蒼万、下ろして…」
「…わかった」
 兄は足を止め彼を下ろす。
 彼はふらふらと金龍殿の焦げ跡に行き、地べたに座り両膝を抱え、兄も彼の側に行き静かに黙って座る。彼は幻影を眺めるように見上げ、しくしくと泣きだした。兄は何も言わず、彼を抱き寄せ背中を摩る。四人は見ているだけで、切なくなってきた。彼は立ち上がり、焼け残った庭園を散策しだす。笑いながら目を瞑って歩き、段差に躓く度に兄が支えると、兄の首に手を回して「蒼万ぁ、キスして…」ねだる。「ここは外の庭園だ」「へへへ、わかった…」兄は再び彼を横に抱え歩きだす。若草の香りがすると「蒼万、下ろして」表の庭園を散策し、今度はしゃがんで草を掻き分けたり木の幹に話しかけ、兄が近寄ると「蒼万ぁ、キスして…」「まだ外だ」「へへへ、わかった…」ふんわり笑う。
 ……彼は完全に酔っている。
 黄怜殿に着くまでこの流れは繰り返され、その内誰も数えなくなった。直ぐに到着するはずの黄怜殿までの距離は、遠く離れた場所のような感覚にさえなる。不思議にも慣れてくると、とても優しく、少し擽ったく、想いが通じ合ったばかりの者達の淡い恋心に聞こえてくる。彼は黄怜の記憶を再現しているのか、現に立ち寄る場所、そこでの行動は幼子のようだ。彼の記憶にはなくても懐かしさを彼は感じる。〝感情の共有〟時に彼の涙は、黄怜の涙。兄もそう思って、彼を止めないのかもしれない。蒼亞はそう考え、二人を見つめた。兄は黄怜殿門前で「よいかお前達、中に入ったら志瑞也に近づくな」低く言い「…はい」四人は現実に引き戻され凍りついた。

 ギーバタン…

「ん? 蒼万、帰ってきたのかぁ?」
 彼は扉の音に反応した。
「…まだだ」
「ここはどーこだ? 風呂か? アハハ」
 彼は兄の衿元に手を忍ばせる。
「蒼万ぁ」
「…何だ」
「キスして…」
「……」
 兄は甘える彼を見つめ顔を近づける。既に海虎と玄史は、言葉の意味を知っている。そして、兄が我慢していることも。いよいよか、逃げだしたい気持ちと見たい気持ちが混ざり合い、四人はごくりと生唾を飲んだ。

「今するのはやめろ」

 既の所で現れたのは腕を組んだ仁王立ちの朱翔と、側に立ち並ぶ兄の仲間達だった。まるで闇夜に敵の屋敷に忍び込み、襲撃を狙って待ち伏せしていたかのようだ。
「お前達遅かったな、心配したぞ」
 四人はどう伝えてよいものかと、朱翔に苦笑いする。
 彼は首を傾げる。
「あれ? 朱翔か?」
「そうだ、まだ私が分かる状態なんだな」
「どうしたんだ朱翔、柊虎は?」
 朱翔は皮肉混じりに言う。
「はいはい、お前の大好きな柊虎もここにいるよ」
 朱翔の隣で柊虎が嬉しそうに微笑む。
「志瑞也大丈夫か?ハハハ」
「柊虎だー、アハハ」
 体を横に揺らして喜ぶ彼に、朱翔は呆れて白目を剥く。
「何だ朱翔やきもちか? 拗ねるなよぉー はいはい、朱翔も大好きだよ」
 彼の返しに朱翔は苛つきを見せるも、彼は気にせず指折り数えて言う。
「もちろんー 磨虎もー 黄虎もー 玄弥もー みーんな大好きさアハハハハ」
 彼だけがとても上機嫌だ。
「でもさ、聞いてくれよぉー 俺でも嫌いな奴がいるんだぞっ、知ってるか蒼万?」
「ふっ、誰だ?」
 彼は兄の片方の前髪を引っ張って口元に手を翳し、真剣な眼差しで耳打ちする。
「…っ」
「アハハハハハ」
 兄は楽しそうに笑う。
 朱翔は目を据わらせて言う。
「蒼万、誰がどう見ても酔っているのは分かる。お前から見てどういう状態なんだ?」
 彼は口を尖らせ独り言を話しながら、兄の頬を指で小突き鼻を摘み、前髪を指に絡め解いて遊び、挙句には、兄の衿元を摘んで覗き「うおっ」恥ずかしそうに顔を隠し、指の間からわざとらしく兄を見て「いい子だな、よしよし」と頭をなでた。蒼亞達四人は、吹き出す笑いを必死に堪える。
 兄は彼に頬を小突かれながら真顔で言う。
「恐らくニ合は呑んでいる」
「ニ合も⁉︎」
 仲間達は一斉に驚く。
 彼に鼻を摘まれ、兄は少し籠った声で言う。
「私が口づけすれば直ぐに発情する」
 朱翔は険しい顔で言う。
「ってことは、はぁ…既に制御できない状態じゃないか」
 彼が兄の衿元を覗く。
「うおっ」
「だからねだられてもしていない。外だと思わせれば我慢できるが、下ろして自殿だと気づけば、直ぐに私に迫る可能性がある…」
「いい子だな、よしよし」
 彼が兄の頭をなでた。
「…今は?」
「まだわかっていない」
 朱翔は安堵して言う。
「ならまだ下ろすなよ」
「わかった」
 彼が兄の頬を小突き唇に触れる。
「蒼万ぁ、キスして…」
「帰ってからだ」
「へへへ、わかった…」
 実に、彼の酔い方は面白い。
「ぷっ…クックッ、ハハハハハハハ」
 ずっと見てきた四人は耐えきれず吹きだす。
 彼が気づく。
「あれー? 蒼亞と壱黄だ、それに海虎と玄史もいる! 蒼万下ろして」
「駄目だ」
「何でだよっ、下せよ!」
 彼がきっと睨む。
「志瑞也、愛している」
 兄が甘く見つめる。
「蒼万ぁ…俺も愛してる、キスして…」
「ここは外だ」
「へへへ、わかった…」
 再び彼は兄で遊びだす。
 四人は口を塞ぎ笑いを堪える。だが、それは兄の仲間達も同じだった。既に朱翔以外は皆、口を塞ぎ笑いを堪えていた。
 朱翔は真顔で言う。
「蒼万、面白過ぎだろ…ぷっ」
「ハハハハハハハ」
 全員が吹き出し手を叩いて大爆笑する。
 彼は左右に振り向き見渡す。
「あれ? 皆いる、どうしたんだ?」
「お前に会いに来た」
 彼は瞳をきらきらさせる。
「本当か? 嬉しいなぁ、蒼万下ろして」
「駄目だ」
「何でだよっ、俺皆と話すんだから下せよ!」
 彼はきっと睨む。
「志瑞也、好きだ」
 兄が甘く見つめる。
「蒼万ぁ…俺も好き、キスして…」
「皆見ているぞ」
「へへへ、わかった…」
 この後は、言うまでもない。
 全員がお腹を抱えて笑う。
 磨虎が苦しそうに屈みながら言う。
「蒼万っ、お前志瑞也で遊んでいるだろ! ハハハハ」
 柊虎は涙を拭いながら言う。
「もしや、この志瑞也が見たくて亀酒を呑ませたのか?」
 兄は黙って微笑む。
 好奇心旺盛の朱翔が爆弾を落とす。
「蒼万この際だ、志瑞也を下せよ」

 は?
 ───四人は爆風で笑いが吹き飛ぶ。

「良いのか?」
 朱翔はにんまりと頷く。
「どうなるか見てみたい」
「…始まったら私は気にしないぞ」
「わかっているさ、門は目の前だ。直ぐに帰るよ」
 兄は扉までの距離を見て頷く。
 四人は瞬時に走り、扉の閂を外し怯える。

「志瑞也、帰ってきた。下すぞ」
「うん、ありがと…」
 足先から丁寧に彼は下ろしてもらい、誰もいないのを確認しているのか、自殿かを確認しているのか、辺りを見渡す素振りをする。微笑んで振り返るなり、兄の首に手を回す。
「蒼万ぁ、キスして…」
「皆が見ているぞ」
 彼は兄の唇に指で触れながら迷う。
「うーん、でも…俺蒼万とキスしたい、蒼万はしたくないのか…?」
 甘くねだる彼の腰に、兄は両腕を回し引き寄せる。
「私はいつでも構わない」
 兄は躊躇いなく唇を重ねた。
「ちゅっ、んっ……ちゅっ、はぁ、はぁ…」
「どうしてほしい?」
 彼の雰囲気が一変、瞳は恍惚に兄を見つめる。
「蒼万触って…いっぱい、キスして…ちゅ、んっ… はぁ、甘い…もっとほしい」
 二人の絡み合う姿は、声だけでなく視覚的にも刺激が強かった。彼は腰をくねらせ、兄に絡みつき下半身を擦り合わせる。「蒼万ぁ…好き…」彼は兄の帯を外して上衣を開き、現れた肉体美を食い入るように見つめた。荒い呼吸で目を潤ませ、指で胸の肌を掴んで弾き、艶めかしい手つきで脇腹、腹部となで回し「ちゅっ…ん…」淫らに皮膚に吸いつく。兄が荒々しく彼の帯を剥ぎ取り、衣の中に片手を入れると「あっ、熱いっ…」彼は甘く嬌声を上げる。衣の皺が突っ張って動く度、彼はお尻を突きだす。兄の手は徐々に下半身へと進み、欲情の塊を弄りぐっと握った。「はあぅ…っ」仰け反る彼の腰を腕で支え「ふっ可愛い奴よ」兄は愉悦の笑みを浮かべた。
「ああっ…蒼万! 気持ちいい…もっと擦って、はぁ、蒼万ぁ…!」
 床板越しの時と違い、直で届く彼の声は早い段階で四人の鼓膜を突き刺す。更には脳内までもが刺激を受け、昨夜の感覚が一気に呼び起こされた。身体は意志に反し、下腹部に重圧が伸し掛かる。

 バン!

 蒼亞は動ける内にと、目の前の扉を力強く開けて飛び出した。だが三人が出て来ず「くそっ」戻って扉を開け「壱黄っ、海虎っ、玄史っ」固まる三人の衣を掴み引き摺り出した。三人を外に放り投げた後、蒼亞は扉を閉めてしゃがみ込み、疼く身体をなんとか鎮めた。
「はぁ、はぁ、みっ皆大丈夫か⁉︎ 朱翔様は一体何を考えてるんだ‼︎」
 ……。
 三人の返事がなく、蒼亞は立ち上がり顔を覗く。壱黄は涙目で「そ、蒼亞…」唇を震わせ、玄史は「た…助かった…」そうは見えない、海虎は「うっ…強烈だ…」苦しそうに目を瞑る。三人共股間を押さえ蹲り、とても立ち上がれる状態ではない。やはり、血のお陰で蒼亞はある程度耐えられるのだ。三人を救うには爆弾男に頼るしかない、しかし大人達は誰一人出てこない。もしや、完全に煽られ中で倒れているのか。だが再び中に戻る気力は、蒼亞にはなかった。

 バン‼︎

「皆早く出ろ!」
 バチッ バチバチッ
 朱翔が扉が開け、黄虎、柊虎、磨虎が勢いよく飛び出してきた。
「玄弥もういいぞ‼︎」
「はっはい!」
 最後に義兄が出ると、朱翔は「バン‼︎」扉を強く閉めて額の汗を拭い、仲間達を見渡す。
「ふぅー 磨虎っ、鼻血が出てるぞ! ったく…」
「兄上これを」
「あっあぁ…」
 柊虎は冷静に兄磨虎に手拭いを渡す。
 朱翔が一呼吸置いて言う。
「な? 私の言った通りだったろ?ハハハ」
「はい朱翔さん、でもかなり危なかったですよ」
 義兄は肩で呼吸しながら顔中の汗を拭う。
 柊虎は顎に手を添えて言う。
「やはり以前より増していたな」
 黄虎は腕を組み目を丸くする。
「私は初めて聞くが、防いでいてあれとはな…」
「志瑞也の腰の動きは相変わらず凄いなっハハハ」
 磨虎は興奮しながら鼻を押さえた。
 蒼亞は急ぎ駆け寄る。
「朱翔様っ、三人が!」
「わかった。また痛い思いさせてしまったな」
 大人達は急ぎ三人に駆け寄り、黄虎は「ち…父上…」壱黄の状態に顔を青褪める。磨虎は鼻血を止めるのに専念し、柊虎は「すまなかった」海虎の背中に手を添える。玄史は義兄に体を支えられ、礼を言おうとするが「あ…あり…」と話せず、義兄は地面を見て「ん、蟻がいるのか?」繋がらない会話をしていた。朱翔の笛で三人は疼きを抑えてもらい、全員で安堵する中、磨虎の鼻血も同時に止まった。
 朱翔は口元から笛を離す。
「もう大丈夫だろ?」
 三人と磨虎が朱翔に礼を言った後、蒼亞は大人達の状態に疑問を感じ尋ねる。
「朱翔様達は何ともないんですか?」
「何とかなハハハ」
「なっ、何故ですか?」
 朱翔は腰に手をあて、人差し指を立てて言う。
「蒼亞、さっき話していただろ? あれは恐らく神力・・だって。今それを確かめたんだ」
「だからあんな事言ったんですね?」
 朱翔はにんまりと言う。
「そうだ。やはりあの声には神力が込められていた」
 扉が開いた時に聞こえた亀裂音、もしやと蒼亞は気づく。
「霊力で結界を張ったんですか⁉︎」
「そうだ。この中で一番霊力が高いのは玄弥だ」
 言いながら、朱翔は義兄の肩に手を置く。
「だが玄弥の強い結界でも直ぐに亀裂が入ってな、私達は玄弥に霊力を送って頑張ってみたんだが、お前達の言う通り蒼万の名にはかなりの神力が込められていた。名を呼ぶ度に結界が崩されそうだったよ、なあ玄弥?」
「はい、すごく手が痺れましたよ」
 義兄は両手をぶらぶらと振る。
 柊虎が朱翔に尋ねる。
「他には何か気づいたか?」
 朱翔は得意げに片眉を上げる。
「まあそれは後からな、別に警戒しなくて大丈夫さ。獣が番を強く呼んでいるだけだ」
「わかった」全員が頷く。
 朱翔は四人の頭を一人ずつなでる。
「お前達ありがとうな、お前達のお陰であの声の謎が解けたよ。二度も悪かったな」
 四人は顔を横に振って微笑む。
「しかしお前達よくあれを耐えたな、私が迎えに行かなかったら骨抜きにされていたんじゃないか? 感謝するんだぞハハハハ」
 断じて笑い事ではないが、事実そうなのだから何も言えない。恩を売っているのか、ならばこの男は先程の検証をいつから考えていたのか、せめて指令で行かせた後なのだと四人は思うことにした。今回はこの男に、教わり、気づかされ、泳がされ、叱られ、そして、救われた。
「はい。兄上や志ぃ兄ちゃんの事、色々教えていただきありがとうございます」
 蒼亞は微笑んで頭を下げた。
 朱翔はにやつきながら笛で頭を掻く。
「それにしても、志瑞也のあの酔い方は…ぷっ」
「ハハハハハハハ!」
 再び全員が吹きだす。
 蒼亞が笑いながら言う。
「朱翔様、実は白龍殿からここに来るまでずっと繰り返していたんです」
 壱黄は苦しそうに腹を抱える。
「しっしかも途中、伯父上は木に隠れているつもりだと思いますが、蒼万様が近づくと『うわっ』て驚いて騒いだり『星を数えるから手伝って』とか、ぷっ…クククッ」
 海虎は頷いて言う。
「蒼万様が一緒に数えだした時は、流石にいつ帰れるのか心配しました」
「知らない鼻唄まで歌っていました」
 玄史は首を傾げて笑う。
「蒼万はあんなに悪戯されて、よく顔色一つ変えないな?」
「兄上、蒼万はあの志瑞也が可愛くて堪らないのですよ」
 磨虎と柊虎は笑いながら顔を横に振る。
 義兄は涙を拭い尋ねる。
「しかもずっとぶつぶつ何か言ってましたよ。朱翔さん聞こえましたか?」
「クククッ、あれはずっと蒼万に話かけていたんだ。『俺の話聞いてるか』って頬小突いて、『ちゃんと聞けよ』って鼻摘んで、『無視するなよ』って髪弄って、『返事しろよ、じゃないと見ちゃうぞ』って覗いてたんだ。それで蒼万が視線を向けたら『いい子だな、よしよし』だ」
「ハハハハハハハ!」
 黄虎が言う。
「では朱翔、嫌いな奴は誰だったのだ?」
「ふっ、蟻だ」
 彼は髪を喰われた事を、未だ根に持っているのか。
「ハハハハハハハ‼︎」
 全員で大笑いする。
「な? お前達、見ているだけで面白いだろ?」
「はい」
 四人は笑いながら返事した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

処理中です...