置き去りの恋

善奈美

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暁×雪兎編

09 絆■(雪兎視点)

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「……いきなり、それに、貴羅さんを知ってるの?」
 
 春名君は不審気にキョウを見据えた。キョウは一連の出来事を掻い摘んで話したんだ。勿論、僕が襲われたってところも、隠さず口にした。
 
「なるほどね。で、何で、訊きたいの。普通なら離れるんじゃない? そんな怖い思いしたらさ」
「離れる気がないから、訊いてんだよ」
 
 キョウはぶっきらぼうに言葉を吐き出した。僕はと言えば、息を呑んでるだけ。
 
「それ、アカの服だよね。最後までやられたの?」
「おまっ」
 
 あからさまな言葉に、僕は更に小さく身を縮こませた。この中で、一番身長があるのに、一番役に立ってない。
 
「でも、やられてないか。やられてたら、アカが黙ってないだろうし」
 
 あの場所を離れた後、アカが何をしたかなんて僕は知らない。当然、キョウも知らないんだ。 
 
「アカは自分から手を出すことはないんだ。大抵、向こうからだから」
 
 春名君はいきなり、話し出した。
 
「貴羅さんが居なくなって、アカが小学六年生になったくらいかな。絡まれるようになったんだ」
 
 小学高学年でも、男子の場合、身長が伸びない場合があるけど、アカはその時、かなり身長があったんだって。
 
「顔立ちも貴羅さんに似てたし、兄弟だってわかったんだと思う。最初はやられたい放題だった」
 
 でも、と春名君は言ったんだ。アカは要領が良かった。喧嘩も慣れれば単調な動きで、すぐにコツをつかんだんだって。
 
「多分、憂さを晴らしたかったんだと思う。売ってきた喧嘩は全部買ってた。しかも、打ちのめした後、必ず、口を噤むように強要することを忘れなかった」
 
 アカに勝てないと悟った彼等は、友達を標的にしたんだって。
 
「アカに友達なんていない。本人が作ろうとしなかったから。だから、俺が標的になったんだ」
 
 でも、彼等は僕の姿を見た瞬間、痛めつけるのではなく、別のことをしようとした。春名君は見た目がとっても愛らしい。フワフワの茶髪にクリッと大きな茶の瞳。今より幼かったら、もっと可愛かった筈……。
 
 僕の表情に、春名君は目を細めた。
 
「俺は、最後までやられたよ。しかも、輪姦されたし」
 
 僕はキョウと二人で絶句した。
 
「でもさ、その当時、俺もやけになってたし、何も感じなかったんだよね。でも、アカは違ったわけ。俺を滅茶苦茶にした奴等を制裁したみたい。その後かな、俺を遠ざけるようになったんだ。面倒だって言って」
 
 それ以降、喧嘩を売られても買うことはなくなったって。その代わり、しつこく言ってくる奴等には、言ってこられないように、とことん容赦なく打ちのめしたって。
 
「アカが喧嘩をしなくなって、少ししてから、貴羅さんと生活するようになったんだ」
 
 そして、高校生になり、キョウと同じクラスになった。
 
「驚いたんだよね。普通に成瀬と笑ってて。今まで、他人と笑い合うなんて、絶対なかったから」
 
 何より驚いたのは僕だって言ったんだ。
 
「アカはあの容姿だし、女も男も言い寄ってくるからさ。絶対、相手になんかしなかった」
 
 春名君は素直に悔しかったと、そう漏らした。ずっと一緒にいた春名君ではなく、アカが心を開いたのはキョウで、心の一番大切な部分を奪ったのは僕。
 
「羨ましかった。ただ、普通に接してる姿を見て、その中に入りたいって、本気で思った。でもさ、俺ではそれを与えられなかったんだよな」
 
 春名君はただ、寂しそうに笑った。そして、僕を凝視したんだ。
 
「アカが怖い?」
 
 いきなり質問されて、出てきたのは別の答え。
 
「僕は側にいたい。それだけ」
 
 僕は春名君を見詰めて、そう言葉を口にした。
 
 
■おまけ■(響也視点)
 
 ユキは元来た道を戻って行った。止めたんだけど、今、会わなかったら、失いそうだから、そう言って。
 
「心配ないよ。多分、アカがガッツリ、やったと思うし、後から、貴羅さんもなんかするだろうし」
 
 とりあえず、今日、手を出してくる奴はいない、って、本当に約束出来んのかよ!
 
「アカの恐ろしさを本当に知らないでしょう。もう、容赦ないから」
 
 見た目とのギャップが半端ないのは、想像だけど、想像出来る。想像したくねぇけど。
 
「で、さっき確認してた、母親って、我妻を放って置いてるわけ?」
「うんなわけあるか! あそこは、ユキを大切にしてんだけどさ、親父さんが単身赴任で、お袋さんが行ったり来たりしてんだよ」
 
 春名は、何か、思案してるみたいだった。いや、あんまり、関わりたくねぇんだったな、俺。
 
「それでさ。今回のテスト結果、見たよね」
 
 いきなり、話を変えられて、困惑すんだけど。
 
「見てないの!」
「俺、いっつも、ユキかアカが見てくれっから」
 
 自分で確認したことなんか、一度だってねぇよ。ま、今回も安定の八位だったみたいだけど。
 
「俺、今回、十二位だよ」
 
 春名の言葉に、俺、固まった。莫迦じゃないことが、まさか、証明されたっていうのかよ。イヤイヤ、自己申告だし、嘘かもしれねぇだろ!
 
「嘘だとか、考えてる?」
 
 見破られた! 背中を嫌な汗が流れて行った。
 
 
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