置き去りの恋

善奈美

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紫綺&忍編

03 絶対領域(紫綺視点)

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 何故か、俺まで夜食をご馳走になった。その辺で食べるものより断然美味しい。その後、リビングの長椅子やらローテーブルやらを端に寄せて、雑魚寝だ! て、これまた何故か俺まで付き合う羽目になった。
 
 その段になって俺は初めて正確に其々の名前を知った。
 
 貴羅の恋人で、この中で一番年下の成瀬 響也。俺の中では最強設定で定着しつつある。友達にはキョウと呼ばれているらしい。だから、貴羅以外はキョウと呼んでいたのかと納得。
 
 暁の横にちょこんといる、綺麗な顔した子の名前は我妻 雪兎。驚いたが暁の恋人。同じくらいの身長であるにも関わらず、こじんまりして見える。キョウ君とは幼馴染みだと言う。友達や両親からもユキと呼ばれることが多いらしい。
 
「しき、だろ?だからさ、シィちゃんだよ」
 
 俺の意見は訊かないのか?
 
「貴羅さんはそれでもいいと思うけど、僕達が呼ぶのには問題があるんじゃない?」
「仮にも年上だよね」
 
 ユキ君とアカがそんな反論をした。暁だけど、皆んなにはアカと呼ばれているようだ。なので、俺もそう呼ぶように言われた。分かるけどね。
 
「それに、その呼び方、忍が小学生まで呼ばれていた愛称だよ」
「そう言えばそうだね」
 
 アカの言葉に同意したのは貴羅。ちなみに、貴羅に関しては、適当に呼んでいいよ、とのことだった。兄と呼ぶのは抵抗がある。お互いにね。だから、貴羅さんと通常は呼ばせてもらうことにした。心の中では専ら、呼び捨てだけど。
 
「忍って、そんなあだ名だったのかよ」
「でも、春名君にピッタリだよ」
 
 ところで、忍って誰?
 
「色々あって、今それで呼ぶとすごい顔するから注意して」
 
 色々って。……掘り下げないほうが無難な気がする……。
 
「分かった! シィ兄だ!」
「あのさ。如何してそれに拘るの?」
「何となく」
 
 この際、呼び方はどうでもいい。もっと、ツンケンされると思ってた。いや、キョウ君とユキ君のおかげか。
 
「ねぇ、しきって、何ういう字書くの?」
「紫で綺麗の綺」
「じゃあ、ユカリちゃん?」
 
 待ってくれ。それはいろんな意味でダメージが強い。
 
「響也、その呼び方はアウトだわ。傷口に塩を塗りつけてるようなものだしね」
 
 その通りです。
 
「如何してだよ?」
「此奴ね。俺と暁とは別の意味で、苦労してんのよ」
 
 アカが目を見開いた。しかし、アカって言いにくい。心の中では呼び捨てにしよう。そうしよう。
 
「馬鹿男。女の子が欲しかったんだってさ。阿保くさ」
 
 確かに、阿保くさい。それを一言で言い切った貴羅は更に凄い。
 
「何なの? そのくだらない理由って。あの莫迦達は後先考えないの? 学習能力皆無な訳?」
 
 暁も負けてないわけね。あの莫迦兄達と段違いの頭の造りだわ。
 
「玩具か何かと勘違いしてんじゃねぇの? 命の感覚あるように感じねぇ」
 
 キョウ君も負けてないね。
 
「育ててもらってない貴羅さんと暁がまともに見えるね」
 
 ユキ君もね。
 
「じゃあ、放って置かれたの?」
 
 暁の問い掛けに、緩く首を振る。俺は少なくとも母親にはそれなりに構ってもらえた。
 
「母が……」
「馬鹿男と一緒にいるのは理解出来ないけどね。そこそこ、まともな部分もあるの?」
 
 貴羅の辛辣な言葉。本来なら反論するだろう。でも、この二人には出来ない。そう言うだけの理由がある。俺の母親は内縁の妻だ。戸籍上は氷室の娘が母親の欄に名前がある。普通に考えて、異常な家族構成。
 
「所詮は内縁の妻だからね」
 
 小さく呟くようにしか言えなかった。
 
「でも、男に生まれて良かったな」
 
 キョウ君の言葉に、俺は目を見開いた。理由が分からない。
 
「如何してそう言えるの?」
 
 暁の言葉に賛同する。
 
「命を物くらいにしか思ってねぇならさ。もし、女に生まれてて、貴羅さんが相続放棄に会社を継がないってなった場合。確実に政略結婚じゃねぇ?」
 
 はい?
 
「何だっけ? 秋保と氷室? だっけ? どっちの血も引いてるのは貴羅さんだけだよな。そういう状態で、どちらかが女児に恵まれた場合さ、戸籍弄ってでも、結婚させて合併を目論むんじゃね?」
 
 血の気が引いた。あの氷室の馬鹿兄と結婚なんて、絶対御免被りたい。
 
「ああ……。有り得るね。利己的だし」
 
 貴羅が納得したように息を吐き出してる。もしもの話でも、聞きたくなかった。考えもしなかったけど。
 
「改めて思うけど、関わり合うのはごめんだよ。相続権放棄して正解」
 
 暁はウンザリしているみたいだな。 
 
「で、本当に相続権放棄したいの?」
 
 貴羅がいきなりそんな事を訊いてきた。勿論だ。それに、会社には辞表を提出している。受理されるかは分からないけど。秋保だけじゃなく、氷室とも縁を切りたい。
 
「そのつもりだ」
「本気なら、工藤さんに連絡してみようか?」
 
 俺が連絡すれば対応してくれる、そう言った。確かに、工藤さんならどうにかしてくれるだろう。でも、本当に手を貸してくれるのか?
 
「響也の人を見る目は確か。その響也がまともに見えるって言ったんだよ。俺達を正確に見抜くんだから、間違えないしね」
 
 貴羅が俺に視線を向けた。
 
「兄さんも物好き」
「それに、あの莫迦共をどん底に引きずり落とせる」
 
 え? 面っと黒い部分が見えたんだけど。
 
「マトモなのがいない状態で、会社維持は難しい。如何するのか、見ものだね」
 
 喉の奥で笑ってるのが、怖い感じだ。
 
「そういう事。それは楽しいかもね。まあ、どうでもいいけど」
 
 暁も何気に怖い。
 
「それについては、二人で話し合ってくんねぇ? それより、呼び方だよ」
 
 まあ、それもどうでもいいのでは。
 
「じゃあ、シィ兄で」
 
 暁、面倒になっただろう。それに、確実にさっきとは表情が違う。
 
「俺達の側に来る気なら、それなりに覚悟を決めてよね」
 
 暁の顔が怖い。無駄に綺麗なだけに。俺、もしかして、ここに来たのは間違いだったのか? 
 
 
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