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紫綺&忍編
04 悪魔と小悪魔(紫綺視点)
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どうやら、あのまま眠ってしまったみたいだ。夢だったのかと一瞬脳裏を掠めたが、視界に入ってきた光景に夢ではなかったのだと小さく息を吐き出した。
昨夜はキョウ君の隣にあった貴羅の姿がない。窓から差し込む陽射しに、夜が明けてさほど経っていないと分かる。そして、微かにコーヒーの香りが漂ってくる。三人を起こさないようにゆっくりと立ち上がり、香りを辿る。
キッチンには貴羅の姿。俺の気配に気が付いたのか、顔を上げる。
「起こした?」
「いや。ただ単に目が覚めただけだ」
他人と雑魚寝など、高校の時の修学旅行以来だ。新鮮と言えば新鮮だが、面子が有り得ない。
「信じられないって感じだね?」
「当たり前だろう。門前払される覚悟で来たから」
貴羅は淹れたてのコーヒーをカップに注いで食卓テーブルの上に置いた。座れと言っているようだ。素直に席に着くと、差し出されたコーヒーを一言礼を言って口に運んだ。この豆、高い。
「響也とユキに出会わなかったら、門前払だっただろうね」
俺の前の席に着いた貴羅が溜め息共にそんなことを言った。あの二人か。独特の雰囲気を持ってる感じだ。見た目や仕草は確かにあの歳の子そのものだ。屈託なくて、あからさまで、でも、少しひねてる部分がある。
「響也は最初俺を見た時、警戒心むき出しにしてさ」
昨日見た笑みとは違う。思い出して、つい出た笑みだ。
「暁にもそうだったみたいだね。まあ、ぶっちゃけ、手懐けられた感じかな。居心地が良いんだよね」
そんな感じだった。あの子の雰囲気なのか、隣にいても良い気にさせられる。言葉使いには吃驚だが、そんな事が気にならない、不思議な感覚をもつ。
「最初はね。少しの間だけ側に居てくれたら良いって思ってたんだよね」
その顔に映ったのは諦めの表情。憂いを滲ませている。
「でもね。気が付いた時には遅かった。離れて行かれて、初めて自覚したんだよ。必要だってね」
一回り以上、歳が離れている。だから、自分のエゴで振り回したくなかった、そう、呟くように言った。
「何もかも、諦めてた。親はあんな状態だし、俺自身も普通じゃないしね。だから、暁だけは何とかしてやりたかった。まだ、未成年でいくらでも吸収出来る余地があるからね」
寂し気な顔。きっと、普段は見せないものだろう。
「会社を辞めて、やりたい事でもあるの?」
いきなり振られた話。俺は一瞬、何を答えて良いのか分からなかった。ゆっくり言葉を理解して頷く。
「コンピューター関係の仕事がしたかったんだ。でも……」
「ああ、馬鹿男?」
「一応、扶養されている身だったし、押し切られて」
進んだ大学では経済学を専攻せざる得なかった。普通に使う分には操作出来るが、プログラム関係の職に就きたかったんだ。
「あれ? 誰かその仕事してたような気がするんだけど……。誰だっただろう?」
貴羅が突然、首を傾げた。そんな都合よく、知り合いにコンピューター関連の仕事をしている人間などいる筈がない。
「忍の父親だよ」
いきなりかけられた声に、俺は神経が逆立った。
「ああ。そうだった。起きちゃったの?」
貴羅は驚きもしないんだな。やっぱり、俺とは違う。いきなり俺の隣に立っていた暁。
「トイレに起きただけ。そうしたら、二人で話してるから」
うん。そういうところは普通なんだな。ある意味、安心した。この二人、人間離れしたとこあるし。
「兄さんが普通に話してるなんて意外。それも、身内のようなそうでないような人と」
「あ……。そうだね。此奴、なんか秋保らしくない感じ?」
「どうして疑問系なの?」
「ハッキリ分からないからかなぁ?」
俺に言わせたら、あんた等も秋保らしくないよ。勿論、氷室の方もだ。
「今日、工藤さんに、会うの?」
「連絡してみてかな? 日曜日だしね」
「じゃあ、店は休むの?」
「んー? そうなるね」
それはあまりにも申し訳なさ過ぎる!
「大丈夫だから。この人、店は道楽だし」
「酷いなぁ。一生の仕事だと思ってるのに」
「何言ってるの? 家賃収入だけで生きてけるでしょ」
家賃収入?
「ここの建物、兄さんの持ち物」
「あ……。今は違う」
「は? 何言ってるの?」
「響也の持ち物になった」
暁の顔がなんか面白い。
「うわ……。策略感じる」
「それもあるけどね。秋保対策?」
「何それ?」
「会社ヤバくて、俺名義のままだと問題があるでしょう。最悪、持ってかれる」
そういう事か。あの親ならやりかねない。暁名義にしても同じだからな。
「響也の両親に話て、納得してもらった。生活基盤を失ったらダメージ大きいし」
「いつの間に会ってるわけ?」
「そりゃ会うでしょう。攫うつもりだったし」
「それ、犯罪だから」
いや、二人の存在そのものが犯罪だ。これ、兄弟でする話か? 頭がいいのは調べて知ってたけど、レベルが違う。
「話は変わるけど、忍に話してみようか?」
暁がそんな事を訊いてきた。いきなり言われても。
「話しといて。近いうちに連れてくから」
「分かった」
なんか、俺を無視して話が進んでるんだが。まあ、口を挟めないっていうのが、本当のところだが。
「で、今は実家暮らし?」
貴羅の問い掛けに首を振った。今は住所不定、仮の無職だ。辞表を出したその足で、部屋のものは個人の倉庫を借りて移動させた。今、自宅の俺の部屋だった場所は空っぽだ。
「部屋を探してる。まあ、条件等があるから、なかなか」
なんで二人で考えた表情してるんだ。暁が不意に何処かへ消えた。数分で戻ってくると、食卓テーブルの上に鍵が一つ。
「どうせ、取り込む気でしょう。部屋、空いたんだし」
「よく分かってるね」
よく話が見えないんだが?
「ここのマンションに空きが出たんだよね。家賃は良心的だよ。駅からも近いし、コンビニとスーパーは近間にあるし。まだ、入居者募集出してないからね」
貴羅がいきなりそんな事を言い始めた。
「敷金礼金は身内って事で免除するよ。間取りはここと大差ないけど、一部屋少ない。リビングも若干狭い感じかな。部屋は5階だけど、エレベーターがあるから」
つまり、ここのマンションに住めと。
「覚悟してって、昨日言ったよね」
暁の顔が天使の顔した悪魔に見えた。
昨夜はキョウ君の隣にあった貴羅の姿がない。窓から差し込む陽射しに、夜が明けてさほど経っていないと分かる。そして、微かにコーヒーの香りが漂ってくる。三人を起こさないようにゆっくりと立ち上がり、香りを辿る。
キッチンには貴羅の姿。俺の気配に気が付いたのか、顔を上げる。
「起こした?」
「いや。ただ単に目が覚めただけだ」
他人と雑魚寝など、高校の時の修学旅行以来だ。新鮮と言えば新鮮だが、面子が有り得ない。
「信じられないって感じだね?」
「当たり前だろう。門前払される覚悟で来たから」
貴羅は淹れたてのコーヒーをカップに注いで食卓テーブルの上に置いた。座れと言っているようだ。素直に席に着くと、差し出されたコーヒーを一言礼を言って口に運んだ。この豆、高い。
「響也とユキに出会わなかったら、門前払だっただろうね」
俺の前の席に着いた貴羅が溜め息共にそんなことを言った。あの二人か。独特の雰囲気を持ってる感じだ。見た目や仕草は確かにあの歳の子そのものだ。屈託なくて、あからさまで、でも、少しひねてる部分がある。
「響也は最初俺を見た時、警戒心むき出しにしてさ」
昨日見た笑みとは違う。思い出して、つい出た笑みだ。
「暁にもそうだったみたいだね。まあ、ぶっちゃけ、手懐けられた感じかな。居心地が良いんだよね」
そんな感じだった。あの子の雰囲気なのか、隣にいても良い気にさせられる。言葉使いには吃驚だが、そんな事が気にならない、不思議な感覚をもつ。
「最初はね。少しの間だけ側に居てくれたら良いって思ってたんだよね」
その顔に映ったのは諦めの表情。憂いを滲ませている。
「でもね。気が付いた時には遅かった。離れて行かれて、初めて自覚したんだよ。必要だってね」
一回り以上、歳が離れている。だから、自分のエゴで振り回したくなかった、そう、呟くように言った。
「何もかも、諦めてた。親はあんな状態だし、俺自身も普通じゃないしね。だから、暁だけは何とかしてやりたかった。まだ、未成年でいくらでも吸収出来る余地があるからね」
寂し気な顔。きっと、普段は見せないものだろう。
「会社を辞めて、やりたい事でもあるの?」
いきなり振られた話。俺は一瞬、何を答えて良いのか分からなかった。ゆっくり言葉を理解して頷く。
「コンピューター関係の仕事がしたかったんだ。でも……」
「ああ、馬鹿男?」
「一応、扶養されている身だったし、押し切られて」
進んだ大学では経済学を専攻せざる得なかった。普通に使う分には操作出来るが、プログラム関係の職に就きたかったんだ。
「あれ? 誰かその仕事してたような気がするんだけど……。誰だっただろう?」
貴羅が突然、首を傾げた。そんな都合よく、知り合いにコンピューター関連の仕事をしている人間などいる筈がない。
「忍の父親だよ」
いきなりかけられた声に、俺は神経が逆立った。
「ああ。そうだった。起きちゃったの?」
貴羅は驚きもしないんだな。やっぱり、俺とは違う。いきなり俺の隣に立っていた暁。
「トイレに起きただけ。そうしたら、二人で話してるから」
うん。そういうところは普通なんだな。ある意味、安心した。この二人、人間離れしたとこあるし。
「兄さんが普通に話してるなんて意外。それも、身内のようなそうでないような人と」
「あ……。そうだね。此奴、なんか秋保らしくない感じ?」
「どうして疑問系なの?」
「ハッキリ分からないからかなぁ?」
俺に言わせたら、あんた等も秋保らしくないよ。勿論、氷室の方もだ。
「今日、工藤さんに、会うの?」
「連絡してみてかな? 日曜日だしね」
「じゃあ、店は休むの?」
「んー? そうなるね」
それはあまりにも申し訳なさ過ぎる!
「大丈夫だから。この人、店は道楽だし」
「酷いなぁ。一生の仕事だと思ってるのに」
「何言ってるの? 家賃収入だけで生きてけるでしょ」
家賃収入?
「ここの建物、兄さんの持ち物」
「あ……。今は違う」
「は? 何言ってるの?」
「響也の持ち物になった」
暁の顔がなんか面白い。
「うわ……。策略感じる」
「それもあるけどね。秋保対策?」
「何それ?」
「会社ヤバくて、俺名義のままだと問題があるでしょう。最悪、持ってかれる」
そういう事か。あの親ならやりかねない。暁名義にしても同じだからな。
「響也の両親に話て、納得してもらった。生活基盤を失ったらダメージ大きいし」
「いつの間に会ってるわけ?」
「そりゃ会うでしょう。攫うつもりだったし」
「それ、犯罪だから」
いや、二人の存在そのものが犯罪だ。これ、兄弟でする話か? 頭がいいのは調べて知ってたけど、レベルが違う。
「話は変わるけど、忍に話してみようか?」
暁がそんな事を訊いてきた。いきなり言われても。
「話しといて。近いうちに連れてくから」
「分かった」
なんか、俺を無視して話が進んでるんだが。まあ、口を挟めないっていうのが、本当のところだが。
「で、今は実家暮らし?」
貴羅の問い掛けに首を振った。今は住所不定、仮の無職だ。辞表を出したその足で、部屋のものは個人の倉庫を借りて移動させた。今、自宅の俺の部屋だった場所は空っぽだ。
「部屋を探してる。まあ、条件等があるから、なかなか」
なんで二人で考えた表情してるんだ。暁が不意に何処かへ消えた。数分で戻ってくると、食卓テーブルの上に鍵が一つ。
「どうせ、取り込む気でしょう。部屋、空いたんだし」
「よく分かってるね」
よく話が見えないんだが?
「ここのマンションに空きが出たんだよね。家賃は良心的だよ。駅からも近いし、コンビニとスーパーは近間にあるし。まだ、入居者募集出してないからね」
貴羅がいきなりそんな事を言い始めた。
「敷金礼金は身内って事で免除するよ。間取りはここと大差ないけど、一部屋少ない。リビングも若干狭い感じかな。部屋は5階だけど、エレベーターがあるから」
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暁の顔が天使の顔した悪魔に見えた。
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