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紫綺&忍編
09 目の前の現実と諦め(紫綺視点)
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結局、何だかんだと押し切られ、忍の側にいることになった。まあ、あんな姿を見た後じゃ、断ることも憚られたこともあるが。
次の日に暁が登校する前に三人で春名家に向かい、暁が遼さんに説明をした。もともと、事情を知っている遼さんは、俺に深々と頭を下げた。そんなことをしてもらう謂れはない。こちらの方が多大にお世話になってるんだ。
「実は明日から、長期の出張が入ってね」
遼さんは表情を曇らせた。普段は出張などないのだが、たまたま、行かなくてはならない事態になったのだと言われた。
「こんな事になったし、キャンセルも考えてるんだ」
大切な一人息子。その息子が大変な目にあったのに出張など、そう思ったらしい。
「丁度いいよ」
暁がいきなりそんな事を言い出した。三人で目を見開いたのは言うまでもない。
「シィ兄の所に忍を預からせてもらえない?」
何を言い出すんだ?
「振りでも、それなりに見えないと意味がないんだ。忍の相手はシィ兄で、俺達の兄弟で、強いんだって事を見せ付ける必要があるから」
強いの部分は内緒の方向にはならないのか?
「兄さんを簡単に去なせるんだから、大抵の奴には勝てるしね」
あれは貴羅が本気で殴り掛かって来たから、反射的に体が動いただけだ。どうこうするつもりなんか、これっぽっちもなかったんだ。
「出張って、どれくらい?」
「それが、思ったより長くてね。半月程度なんだよ。向こうの状況次第でまた、変わってくるんだけどね」
忍の瞳が不安気に揺れた。呼び方だけど、君呼びは駄目だと言われた。真実味がないから、呼び捨てにするように、三人に強制された。まあ、分からなくないけど。
「忍。不安なのは分かるけど、シィ兄のマンションで寝起きして。この人、攻撃さえしなかったら安全だから」
おい、攻撃って。それに安全って。俺はそんなに危険人物に見えるのか? それに、引っ越したばかりで客用の布団なんてものはないし、勿論、ベッドすらないぞ。
「俺は学校あるから駄目だけど、兄さん使いなよ。あの人、仕事は一生ものだって言ってはいるけど、結構、適当だから。どうせ、一部屋空いてるんだし、この際、忍用に整えてよ」
暁。強引すぎる。確かに、あの部屋は物置になるのが落ちだとは思っていたが。
「預かっていただけるなら、安心して出掛けられます」
そんなに、瞳を潤ませて頼まれると、断れないだろう。最近、こんなのばかりだな。諦めて流されろって事か。
半月ともなると学校の教科書などは全部持っていかなくてはならない。忍は真面目な生徒なんだな。教科書持ち帰ってるなんて。必要な身の回り品。消耗品はこちらで買い揃える事にした。今日は昨日の事もあり、忍は学校を休む事になった。顔がまだ腫れているし。ショックが強かったのか、起きてから一言も喋ろうとしない。下手したら、学校を数日休む事になるかもしれない。
少し大きめの旅行バッグに服や下着、制服を詰めた。遼さんも荷物を持って、今日来た道を引き返す。一応、俺の住んでいるマンションの部屋を確認したいそうだ。まず、貴羅を訪ねた。こうなる事は知らないから。
「あれ? なんで戻ってきたの?」
驚くのも無理ないけど。遼さんが説明をしている間、忍は俺の服の裾を握り締めたまま、終始俯いていた。
「大丈夫か?」
驚いたように肩を揺らした忍は俺を見上げた。顔色が悪いな。一瞬躊躇いを見せ、小さく頷いた。
貴羅を伴い五階にエレベーターで上がる。部屋に入り、忍が使う予定の何もない部屋を遼さんに見せた。クローゼットは壁にはめ込まれているし、必要なものといえばベッドと机くらいだろう。六畳の板の間の部屋は、ガランとしていて、少し寂しい印象を見せる。
四人でマンションを出て、貴羅の運転する軽自動車で大型のショッピングセンターへ向かった。貴羅、軽自動車か。似合わない。本当なら忍は置いていきたかったが、一人にするのは俺も含めて不安だった。必要な物を物色し、会計時に遼さんと少し揉めた。金を出してくれると言ったが、もともとは俺が住むマンションに置かれる物だ。だから、必要ないと告げた。
「大丈夫。紫綺はこう見えてお金持ってるから」
貴羅は軽い口調で遼さんに説明する。いや、確かに持ってるけど、アルバイトでもしないと駄目かなとは考えてるんだ。まあ、忍のことが落ち着かないと、それも無理だと思うが。
とりあえず、布団一式と細々とした日用雑貨のみ手分けして持ち帰り、家具は後日配送だ。何日かは床に直に布団を敷くことになるが大丈夫だろう。
「忍。何かあったら遠慮なく電話してくるだよ。説明して戻ってくるから」
遼さんが忍の顔を覗き込んで、まるで小さい子にでも話しかけるように言った。忍はただ頷くだけだ。
「学校には父さんが連絡を入れておく。無理だと思ったら休むんだよ」
それにも小さく頷いた。参ったな。忍のことを考慮して警察沙汰にはしなかったが、間違いなのだろうか?
「よろしくお願いします。それと紫綺さん。専門の学校に行くことにしたのかい?」
「そのつもりです」
「時期的に中途半端だからね。時期が来たら私の方と会社側から、学校に説明させてもらうよ」
「どういう事ですか?」
会社側?
「私の勤めている会社に君の事を話したんだよ。数カ国語が話せるのは強みだよ。語学力に堪能な人材を探していたらしかったから、ちょうどいいと思ってね」
今のご時世、スキルアップをしたとしても、職につけるかは能力だけではなく、本人のやる気や人柄、後押ししてくれる存在が必要だ。今の俺に後押ししてくれる者など、ほぼ皆無だ。その申し出は素直に有り難かった。
遼さんを見送った後、とりあえず、貴羅の部屋に降りた。忍をリビングのソファーに座らせる。
「何ヶ国語話せるの?」
貴羅がそう、問い掛けてきた。
「英語とイタリア、フランス、スペインかな?」
「へぇ。そんなに話せるんだ」
「貴羅さんも話せるだろう?」
「そうだね。俺、海外暮らししてたしね」
この人の場合、違うだろう。聞いただけで覚えるんじゃないか? 魔王なんだから。
「でも、参ったね。これはしばらく、様子見ないと」
貴羅が何を言っているのか分かる。忍の様子がおかしいままだ。ショックだったのは分かる。最初に襲われた時は中学生で体も小さかっただろうし、力もなかっただろう。今は高校生で上背なら俺より低くはあるけどそれなりだ。力もその歳に見合うだけのものを持っている。数人で襲いかかられたっていうのもあるだろうが、それでもショックが大きいんだろう。
「ある程度、教えた方がいいか?」
俺の呟きに貴羅は目を瞬いた。
「何を?」
「護身術」
「でも、あれって効果あるって人と、ないって人がいるでしょう? 俺に言わせたら、基礎が出来てる紫綺だから効果があると思うんだけどね」
まあ、多少のセンスは必要だとは思うけど。ただ、何時でもそばに居られるってわけじゃないだろう? もう少し体が成長すれば、抵抗も容易になるだろう。問題は中途半端な年齢だからだ。暁のように要領がいいっていうなら話は別だろうが、忍はある意味素直そうだ。
「問題は危険意識だと思うんだよ。狙われているって意識が必要だ」
「それに対しては否定しないね」
完全に意識していないという意味じゃない。少なくとも、狙われているって意識はあったんだ。暁とキョウ君を利用していたんだから。
「一応、俺と尚広の方からも制裁はするよ。悪いけど、忍のために紫綺の事は利用させてもらう」
俺は頷いた。もう、いろんな意味で腹をくくるしかない。忍に視線を走らせ、そう、心の中で呟いた。
次の日に暁が登校する前に三人で春名家に向かい、暁が遼さんに説明をした。もともと、事情を知っている遼さんは、俺に深々と頭を下げた。そんなことをしてもらう謂れはない。こちらの方が多大にお世話になってるんだ。
「実は明日から、長期の出張が入ってね」
遼さんは表情を曇らせた。普段は出張などないのだが、たまたま、行かなくてはならない事態になったのだと言われた。
「こんな事になったし、キャンセルも考えてるんだ」
大切な一人息子。その息子が大変な目にあったのに出張など、そう思ったらしい。
「丁度いいよ」
暁がいきなりそんな事を言い出した。三人で目を見開いたのは言うまでもない。
「シィ兄の所に忍を預からせてもらえない?」
何を言い出すんだ?
「振りでも、それなりに見えないと意味がないんだ。忍の相手はシィ兄で、俺達の兄弟で、強いんだって事を見せ付ける必要があるから」
強いの部分は内緒の方向にはならないのか?
「兄さんを簡単に去なせるんだから、大抵の奴には勝てるしね」
あれは貴羅が本気で殴り掛かって来たから、反射的に体が動いただけだ。どうこうするつもりなんか、これっぽっちもなかったんだ。
「出張って、どれくらい?」
「それが、思ったより長くてね。半月程度なんだよ。向こうの状況次第でまた、変わってくるんだけどね」
忍の瞳が不安気に揺れた。呼び方だけど、君呼びは駄目だと言われた。真実味がないから、呼び捨てにするように、三人に強制された。まあ、分からなくないけど。
「忍。不安なのは分かるけど、シィ兄のマンションで寝起きして。この人、攻撃さえしなかったら安全だから」
おい、攻撃って。それに安全って。俺はそんなに危険人物に見えるのか? それに、引っ越したばかりで客用の布団なんてものはないし、勿論、ベッドすらないぞ。
「俺は学校あるから駄目だけど、兄さん使いなよ。あの人、仕事は一生ものだって言ってはいるけど、結構、適当だから。どうせ、一部屋空いてるんだし、この際、忍用に整えてよ」
暁。強引すぎる。確かに、あの部屋は物置になるのが落ちだとは思っていたが。
「預かっていただけるなら、安心して出掛けられます」
そんなに、瞳を潤ませて頼まれると、断れないだろう。最近、こんなのばかりだな。諦めて流されろって事か。
半月ともなると学校の教科書などは全部持っていかなくてはならない。忍は真面目な生徒なんだな。教科書持ち帰ってるなんて。必要な身の回り品。消耗品はこちらで買い揃える事にした。今日は昨日の事もあり、忍は学校を休む事になった。顔がまだ腫れているし。ショックが強かったのか、起きてから一言も喋ろうとしない。下手したら、学校を数日休む事になるかもしれない。
少し大きめの旅行バッグに服や下着、制服を詰めた。遼さんも荷物を持って、今日来た道を引き返す。一応、俺の住んでいるマンションの部屋を確認したいそうだ。まず、貴羅を訪ねた。こうなる事は知らないから。
「あれ? なんで戻ってきたの?」
驚くのも無理ないけど。遼さんが説明をしている間、忍は俺の服の裾を握り締めたまま、終始俯いていた。
「大丈夫か?」
驚いたように肩を揺らした忍は俺を見上げた。顔色が悪いな。一瞬躊躇いを見せ、小さく頷いた。
貴羅を伴い五階にエレベーターで上がる。部屋に入り、忍が使う予定の何もない部屋を遼さんに見せた。クローゼットは壁にはめ込まれているし、必要なものといえばベッドと机くらいだろう。六畳の板の間の部屋は、ガランとしていて、少し寂しい印象を見せる。
四人でマンションを出て、貴羅の運転する軽自動車で大型のショッピングセンターへ向かった。貴羅、軽自動車か。似合わない。本当なら忍は置いていきたかったが、一人にするのは俺も含めて不安だった。必要な物を物色し、会計時に遼さんと少し揉めた。金を出してくれると言ったが、もともとは俺が住むマンションに置かれる物だ。だから、必要ないと告げた。
「大丈夫。紫綺はこう見えてお金持ってるから」
貴羅は軽い口調で遼さんに説明する。いや、確かに持ってるけど、アルバイトでもしないと駄目かなとは考えてるんだ。まあ、忍のことが落ち着かないと、それも無理だと思うが。
とりあえず、布団一式と細々とした日用雑貨のみ手分けして持ち帰り、家具は後日配送だ。何日かは床に直に布団を敷くことになるが大丈夫だろう。
「忍。何かあったら遠慮なく電話してくるだよ。説明して戻ってくるから」
遼さんが忍の顔を覗き込んで、まるで小さい子にでも話しかけるように言った。忍はただ頷くだけだ。
「学校には父さんが連絡を入れておく。無理だと思ったら休むんだよ」
それにも小さく頷いた。参ったな。忍のことを考慮して警察沙汰にはしなかったが、間違いなのだろうか?
「よろしくお願いします。それと紫綺さん。専門の学校に行くことにしたのかい?」
「そのつもりです」
「時期的に中途半端だからね。時期が来たら私の方と会社側から、学校に説明させてもらうよ」
「どういう事ですか?」
会社側?
「私の勤めている会社に君の事を話したんだよ。数カ国語が話せるのは強みだよ。語学力に堪能な人材を探していたらしかったから、ちょうどいいと思ってね」
今のご時世、スキルアップをしたとしても、職につけるかは能力だけではなく、本人のやる気や人柄、後押ししてくれる存在が必要だ。今の俺に後押ししてくれる者など、ほぼ皆無だ。その申し出は素直に有り難かった。
遼さんを見送った後、とりあえず、貴羅の部屋に降りた。忍をリビングのソファーに座らせる。
「何ヶ国語話せるの?」
貴羅がそう、問い掛けてきた。
「英語とイタリア、フランス、スペインかな?」
「へぇ。そんなに話せるんだ」
「貴羅さんも話せるだろう?」
「そうだね。俺、海外暮らししてたしね」
この人の場合、違うだろう。聞いただけで覚えるんじゃないか? 魔王なんだから。
「でも、参ったね。これはしばらく、様子見ないと」
貴羅が何を言っているのか分かる。忍の様子がおかしいままだ。ショックだったのは分かる。最初に襲われた時は中学生で体も小さかっただろうし、力もなかっただろう。今は高校生で上背なら俺より低くはあるけどそれなりだ。力もその歳に見合うだけのものを持っている。数人で襲いかかられたっていうのもあるだろうが、それでもショックが大きいんだろう。
「ある程度、教えた方がいいか?」
俺の呟きに貴羅は目を瞬いた。
「何を?」
「護身術」
「でも、あれって効果あるって人と、ないって人がいるでしょう? 俺に言わせたら、基礎が出来てる紫綺だから効果があると思うんだけどね」
まあ、多少のセンスは必要だとは思うけど。ただ、何時でもそばに居られるってわけじゃないだろう? もう少し体が成長すれば、抵抗も容易になるだろう。問題は中途半端な年齢だからだ。暁のように要領がいいっていうなら話は別だろうが、忍はある意味素直そうだ。
「問題は危険意識だと思うんだよ。狙われているって意識が必要だ」
「それに対しては否定しないね」
完全に意識していないという意味じゃない。少なくとも、狙われているって意識はあったんだ。暁とキョウ君を利用していたんだから。
「一応、俺と尚広の方からも制裁はするよ。悪いけど、忍のために紫綺の事は利用させてもらう」
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