置き去りの恋

善奈美

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紫綺&忍編

08 善良な振りをした危険生物(紫綺視点)

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 俺達四人は、食卓テーブルの椅子に腰掛けた。立ち話で済む簡単なものではない。
 
「全ての原因は俺にあると思うんだよね」
 
 貴羅はポツリと呟くように言った。
 
 貴羅は高校生になると手がつけられないほど荒れたらしい。学校側も秋保の金の力で押さえつけ、退学にはならなかった。金の力だけではないだろう。貴羅の学力は学年でトップを取るほどのものだった。素行が悪くなっても成績は下がらなかったと言うから恐れ入る。
 
「大学に行くつもりもなかったし、秋保と関わり合い続ける気持ちも毛頭なかった」
 
 親に逆らい、学校側からも大学に行くよう勧められたが、首を縦に振ることはなかった。貴羅が進んだ道は料理人の道。其れは一族からの決別をも意味していた。
 
「専門を卒業して日本を出たんだ。まさか、俺がしでかした行いが、暁に向くなんて考えもしないでね」
 
 暁が素行の悪い者達に襲われるようになったのが小学校高学年になった頃。男の子でありながら、かなりの身長があった。そして、その相貌。貴羅を写したかのような容姿。襲われ始めた暁だったが、もともと要領がよく、素行の悪い者達の癖を簡単に見抜いた。暁に敵わないと判断した奴等は本人ではなくその周り。つまり、友人に矛先を向けたのだという。呆れる。本人不在の間に、まだ年端もいかない弟を襲っただけではなく、友人を狙った行為が。
 
「俺に友人はいなかった。作る気もなかったし。作ったところで、ロクでもないことが起こると分かっていたから」
 
 暁は淡々と言った。だが、唯一友と呼べたのが、一番近くに居た忍君だったのだ。忍君を狙った奴等はその愛らしい容姿に、有り得ない行動をとった。
 
「数人の奴等に取り押さえられてレイプされた。輪姦されたんだ」
 
 当時、忍君は中学一年生。十三歳になったばかりだった。だが、その当時、忍君は病んでいたのだと暁は言った。
 
「両親が離婚した後で、家庭の事情だから詳しくは言えないけど、忍は荒れていて当時のことをはっきりと覚えていないんだ。ただ、自分の身に何が起こったのかは理解していたみたいで」
 
 暁は見つけ出した忍君の様子に怒りを抑えられなかった。其処にいた明らかに年上の相手を打ちのめしたと言うから、相当な強さだったんだろう。
 
「貴羅は日本に居なかったしな。流石に目を瞑るにはやる事がえげつなかった。ただ、警察に知らせるのは忍のためにもならない。父親には正直に話して、警察沙汰にはしなかった。その後、俺が別口で制裁したんだ」
 
 飛弾野さんがそう言った。忍君は今でも可愛らしい顔立ちだ。身長はここ数年で伸びたんだろうな。暁までとはいかないが、ユキ君より少し低いくらいだ。
 
「言わせてもらっていいか?」
 
 俺は三人を見据えた。
 
「その事件の後、アカに纏わりついていたって言っただろう?」
 
 暁は素直に頷いた。まあ、否定する必要もないからな。
 
「其奴等、襲った後から忍君狙いで、付け狙ってたんじゃないか?」
 
 三人は目を見開いた。
 
「アカの次がキョウ君。その二人を使って難を逃れてて、二人には特定の恋人が出来た。一人になった忍君を手に入れようと動いたと考えたほうが自然だ」
 
 最初は確かに貴羅や暁に対する恨みだったのかもしれない。だが、襲った後から意味合いが変わったんだ。二人に制裁されたとしても、生まれた執着心が其れを上回った。
 
「数人で所有する愛玩動物にでもしようと考えたんだと思うが」
 
 俺がスパッと言うと、三人はあからさまに眉間に皺を寄せ睨んできた。
 
「ハッキリ言うね」
 
 貴羅が不機嫌に言葉を漏らした。
 
「濁したところで何も変わらないだろう。問題は当時、怯えもしていなかった忍君が怯えたと言う事だ。前と同じ事を味わったら、精神的におかしくなる」
「その頭でよく、無能なフリ出来たよね」
 
 暁が不審気に見返す。
 
「無能だろう。親の言いなりで就職までしたんだからな」
「いや、其れはなんか違うぞ」
 
 飛弾野さんが開いた口が塞がらない顔をしている。失礼だな。俺は無能、だったんだよ。振りでもな。
 
「俺が近くにいる事で一時的に回避出来たとして、その後はどうするんだ?」
 
 根本的に解決しないと、意味がないだろうに。だが、暁の表情がおかしい。変な笑みを浮かべてるんだが。
 
「大丈夫。すぐ解決するから」
「は?」
「忍って本能で安全な場所を見付けて居座るから」
 
 安全な場所? 其れなら、最初から其処に居たらいいんじゃないのか?
 
「ああ。そうかもしれないね」
 
 貴羅までなんか知ってるのか?
 
「これだけ綺麗だったら、彼奴等、別の意味で近付かない気もするな」
 
 話が更に変な方向に向いてないか?
 
「ちょっと、参考までに訊きたいんどけどね」
 
 貴羅が頬杖をつきながら問い掛けてきた。何が訊きたいんだ?
 
「護身術以外に何か習ってた?」
 
 何が言いたいんだ?
 
「いやねぇ。護身術だけでは説明出来ない体の動きをしてたからね」
 
 此奴、やっぱり侮れない。
 
「まあ、ね」
「何と何?」
 
 言わないと駄目なのか? 三人で凝視するのは止めてくれないか。俺は観念したように息を吐き出した。実はあまり言いたくないんだ。
 
「……合気道と柔道と空手と」
「は? まだある訳?」
「剣道もやったな。まあ、他も色々と」
「何、その、なんでもありな感じ」
 
 やりたくてやったものもあれば、やらされたものもある。合気道は爺さんにやらされたしな。
 
「実力は?」
「段有りなら有段。それ以外はそれなりに」
 
 何なんだ? その沈黙は。
 
「無能って意味、分かってるわけ? その分だと他の習い事もしてたんじゃないの?」
「まあ、知識関係もそれなりに」
 
 頭に知識を蓄えても、体に技術を叩き込んでも、使わなかったらただの飾りだろう。俺のは単なる趣味だしな。
 
「護身術、習う必要なかったんじゃないの?」
 
 貴羅が、呆れたように言った。
 
「いや、護身術を習ったおかげで、手加減出来るようになった」
 
 本当に習ってよかった。勝手に体が動くからな。相手の力を利用出来るようになったおかげで、怪我を負わせないで済むようになった。
 
「……此奴、お前より危険人物じゃないか?」
 
 飛弾野さんが貴羅に視線を向けてそう言った。失礼だな。俺は善良な一般人だ。断じて、要注意人物じゃない。
 
「俺と暁は単なる我流の喧嘩だからね。基本なんてなっちゃいないし」
「俺の兄達って、危険人物過ぎじゃないの?」
 
 暁、貴羅と一緒にしないでくれないか? 俺は素行が悪くなったり、荒れたりは一切してない。ごくごく普通の高校生として高校を卒業して、当たり前のように大学を卒業した、普通の人間だ。
 
「これは、忍が離れなくなるな」
 
 飛弾野さん、何嬉しそうに言ってるんだ?
 
「俺から小父さんに話しておくよ。今回のことも電話で話したから、心配していたし」
 
 何を言うんだ?
 
「この際、忍を恋人にしたら?」
 
 貴羅、何言い出すんだ。確かに性別に対するこだわりはない方だが。
 
「そうなってくれると、俺的には楽になるな」
 
 飛弾野さんまで何言い出す。俺、やっぱり選択を間違えた気がする。此処に来るべきじゃなかったんじゃないだろうか……。今更後悔しても、本当に今更、なのだが。
 
 
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