置き去りの恋

善奈美

文字の大きさ
75 / 114
SS

18 望んで得られない場所(暁視点)

しおりを挟む
 雪兎の父親、陽月さんの運転する車で門を通り抜けた。立派な佇まいの日本家屋。庭も手入れが行き届いていて、美しく整えられていた。でも、俺はそれどころじゃなかった。もしかしたら、雪兎のそばを離れなくてはいけない。血族に縁遠い俺でも、親戚付き合いが大切なものであることくらいは分かってる。
 
 促されるまま歩き、雪兎の隣の座布団に座った。不思議な感覚だった。知らない筈なのに、知っているかのような感覚。本来なら、俺はここに足を踏み入れてはいけない存在なのに。
 
「暁、顔が怖いよ」
 
 雪兎の声に、無意識で無表情になっていたようだった。雪兎とキョウがそばに居てくれるようになって、柔らかくなった表情も強張る。絶望が心を占めて行く感覚。
 
 通されたのは応接間だと思う。おそらく、俺が居るから。まさに、招かれざる客。それが分からないほど子供じゃない。諦めることには慣れてるから。居心地いい場所は、尽く奪われてきたから、今更、驚いたりはしない。
 
 陽月さんと一緒に入ってきたのは白髪交じりの紳士。紳士、と言う言葉がよく似合う所作。その後ろに陽月さんよりも年上だろう男性二人と女性が一人。四人が並ぶとよく似ているから、兄弟だと思う。俺と雪兎の前に一列で腰を下ろした。俺の真ん前に腰を下ろしたのは白髪の紳士。多分、草壁家当主。
 
「初めまして。私は草壁 宗一郎です」
「初めまして。秋保 暁です」
 
 なんとなく、キョウと会う前の自分が顔を出す。気配で雪兎が息を呑んだのが分かった。これは防衛本能だ。不用意に心の内を見せてはいけない。
 
「なかなかだね。全然違う」
 
 そう口を出してきたのは宗一郎さんの右隣に座った人物。多分、兄弟の中で一番年上だろうな。
 
「何が言いたいのかも、漠然と分かってます」
「私達がどう思っていると?」
「雪兎の側を離れろってことですよね?」
 
 何度となく奪われた場所。その感覚は無意識に感じ取れるものだから。
 
「何故そう思う?」
「俺が秋保と氷室の一族だから。たとえ、はぐれ者でも」
 
 俺にははっきりとした居場所はない。兄さんが仮の場所を与えてくれているにすぎない。その場所も、安全な場所だとは言い切れない。
 
 諦めることには慣れてる。それが、生きてきた中で一番失いたくないと思っている場所でも。
 
「諦めることには慣れてますから」
 
 雪兎が俺を凝視してる。見なくても視線が突き刺さるから。雪兎は俺がいなくても生きていける。でも、俺はある意味、死ぬんだろうな。ただ生きているだけの屍になる。ゆっくり、立ち上がった。聞くまでもない。陽月さんは雪兎の気持ちを優先してくれるだろうけど、一族そのものを考えるなら、俺は単なる厄病神でしない。
 
「お邪魔しました」
 
 決定打を投げられる前に、身を引こう。雪兎の幸せを願って。
 
「暁!」
 
 あの時に諦めなければいけなかったんだ。
 
「さようなら、我妻」
 
 雪兎が驚愕に目を見開いた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...