置き去りの恋

善奈美

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52 ……悪戯するぞ? ■(響也視点)

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「trick or treat!」
 
 貴羅さんの店に押し掛けて一言。普通なら驚くだろう? でもな、この人の場合、驚かないのか通常運行だ。
 
「勇気あるよね。俺にお菓子をねだるなんて」
「……いや、出来れば食事で」
「遠慮しなくていいんだよ。作ってあげようか?」
 
 自分でねだっておいて、窮地に立った!
 
「……いや、本当に食事で」
「遠慮しなくていいんだよ。響也用に頑張って作ったんだから」
 
 頑張って作るってなんだ? 目の前に出されたパンプキン色の何か。よく見ると、あのカボチャのお化けの顔が見える。ってことは……。
 
「これ、食べ物かよ?」
「本当に失礼だよね」
「某カボチャのお化けの顔に見えんだけど?」
「そう、ハロウィン仕様」
「中は?」
「頭の蓋を開けてみなよ。美味しいから」
 
 本当かよ? カボチャのお化けの蓋開けて、プリンだったら逃げねぇと。そう思って恐る恐る蓋を開けたら、中から湯気が上がった。ん? 湯気? ジッと中身を確認したら、甘い匂いじゃなく(多少、甘い匂いはするけどよ)、美味しそうな匂い。
 
「シチュー? グラタン?」
「グラタン。まあ、このカボチャは食べられないからね」
 
 よく見ると、カボチャと中身の間に白い色が見える。ココット皿か? なるほど。このカボチャは飾りか。でもよ。料理人ってどうしてこう、装飾が上手いんだろう。このカボチャの顔だってさ、上手くできてんだよな。どう考えても、貴羅さんが掘ったんだよな?
 
「なあ、このカボチャの顔、貴羅さんが掘ったのか?」
 
 結構、大きなカボチャだよな。ハロウィン時期になると、スーパーとかでも、普通に売ってるから不思議だよな。しかも、食用じゃなくて観賞用。それ専用に作付けしてる農家もいるから、すげぇ経済効果を生み出してるイベントだよな。しかも、日本のイベントじゃなくて、海外のだけど。日本って儲け話になるものにはとことん飛びつくからさ。
 
「今日の朝、掘ったよ。響也用に一つしか作る予定じゃなかったしね。そのカボチャ、結構大きいでしょう。大変だったんだよ」
 
 いや、普通の量のグラタンが入るココット皿が入るからな。しかも、このグラタン、カボチャのグラタンだ。フォークでカボチャを刺して、頬張ってみる。このカボチャ、ホッコリしてて美味しい!
 
「美味しい?」
 
 素直に頷く。本当にお菓子以外なら美味しいんだよな。って、貴羅さんが外に視線を向けてる。咀嚼しながら、視線の先を辿ってみても、そこにはハロウィンの仮装をした人達が、ゾロゾロ駅に向かっている姿しか見えねぇ。貴羅さんが仮装に興味を持つなんて珍しい。基本的に、無関心だからな。関心あるようなフリはしてっけど。
 
「外に何かあるのか?」
「んー? 何もないよ。響也」
 
 何、改まって名前なんか呼ぶんだ?
 
「trick or treat」
 
 貴羅さんがいきなり、俺の耳元で素晴らしい発音を披露する。待て、甘い物は苦手なんだろう?!
 
「今日の夜は悪戯するから覚悟して」
「お菓子買ってくる……」
「ブーッ。時間切れ」
 
 この人の悪戯は確実にアダルトだ。背中を冷たい汗が伝った。
 
 
■おまけ■(空音視点)
 
「魔物並みの容姿」
 
 そう言ったナツこと、三浦 棗の言葉は正しいわ。しかも、私達の存在を目敏く見付けるし。侮れないわ、秋保 貴羅!
 
「いい、ナツは絶対に近付いちゃダメよ。あの人は魔王なんだから」
「でも、キョウちゃんは?」
「あの子は猛獣使いだから平気よ!」
 
 秋保三兄弟はまさに魔界の帝王よ! 特に長兄は私達、この界隈の腐仲間の間では有名人。その容姿、過去の逸話、頭脳。どれを取っても、人とは思えない能力の持ち主!
 
「でも、どうして、さっさと手を出さないの?!」
「クウ姉?」
「私達が手ぐすね引いて待ってるのよ。さっさとモノにしなさい!」
 
 ここで絶叫しても何もならないのは分かってる。若干、注目を集めてるのも気が付いてる。仮装してるし、響也には気が付かれてない筈よ! しかも、あの表情! 負けた気分になるわ! ムカつく!
 
 
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