置き去りの恋

善奈美

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51 日の出よりも……。(暁視点)

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 覚悟していなかったわけじゃないけど、まさか、本当に来るなんて。
 
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
 
 とりあえず、新年の挨拶は口にする。雪兎の両親のところでお正月を過ごしてるから、親戚の誰かは来るとは思ってたけど。
 
「大叔母様達、聖月伯父さん、おめでとうございます」
 
 雪兎は安定の癒しだよね。
 
「普通、押しかけてきますか?」
 
 やや剣呑なのは陽月さん。和香さんは何も言わずに微笑んでたりする。大叔母さん二人は訪問着。一緒に来た聖月さんも和装。ちなみに俺達は普通の私服。
 
「陽月ちゃん。私達、暁ちゃんにお年玉を渡しに来たのよ、ねぇ、櫻子さん」
「そうよね。薫子さん」
 
 俺は櫻子の曾孫で……。
 
「ああ、紫綺と同じことは考えないように。大叔母さん二人は三人が曾孫だと思ってるからな」
 
 先手を打たれた。二人からと手渡されたのは一枚の封筒。なんの変哲もない、縦長の白い封筒。筆でお年玉と達筆な文字が目に入る。どう見ても、ありえないくらい薄い。とてつもなくペラッペラなんだけど……。
 
「雪兎には私と風月、詩月からだ」
 
 聖月さんにそう言われて雪兎が受け取ったのは普通のポチ袋が三袋。
 
「それと父からだ」
 
 そう言われて雪兎だけかと思ったら、俺にも渡された。こっちは普通にポチ袋。
 
「あまり甘やかさないでください」
 
 陽月さんが呆れ気味に嘆息。
 
「毎年のことだ。従兄弟達も雪兎には渡す気みたいだったぞ」
「だから、正月に行かないんですよ。慌ただしいとは別で。こう、お金やら物やらを買い与えられたら、雪兎に良くない」
「雪兎は愚かではないだろう?」
 
 陽月さんが口を噤んだ。雪兎は確かにたくさん買い与えられてるみたいだけど、それをひけらかしたりは絶対にしない。
 
「後は御節だ」
 
 聖月さんはそう言いながら、御節を和香さんに手渡していた。和香さんは少し躊躇いを見せた後、それを受け取る。
 
「さあ、用事はすみました。帰りますよ」
「聖月ちゃん。もう少し、暁ちゃんと雪兎ちゃんとお話ししたいのよ? ねぇ、櫻子さん」
「ねぇ、薫子さん」
「駄目ですよ。今回は三人と面識を持てた最初のお正月ですから我が儘を聞きましたが、これ以上は当主からお叱りを受けます」
 
 そうだよね。大叔母さん達ってかなりの高齢。見た目が矍鑠としていて、年齢以上に若く見えるけど、九十歳は超えてるよね。
 
「如何しても?」
「もう少しねぇ?」
「駄目ですよ。本宅に戻ってしなければならない事が沢山あるんですよ。お盆には三人共、陽月が連れてきてくれますから。もし来ない場合でも、草壁側から迎えにやります。今回はこれで我慢して下さい」
 
 待って。本当にお盆には草壁本家に行かないといけないわけ? しかも、行かない選択は用意されてないわけ?
 
「相変わらず嵐ね」
 
 慌ただしく帰って行った三人に、和香さんが呟く。相変わらずって、いつもあんな感じなの。室内に戻って、渡された物をリビングのテーブルの上に雪兎と二人で置いた。その前に座り、二人でジッと袋を見詰めた。雪兎は四袋のポチ袋。で、俺のはだけど……。
 
「……嫌な予感がするんだけど」
「これだよね?」
 
 草壁当主からのポチ袋は高くてもたかだか知れてると思う。問題は大叔母さん二人から渡された普通の封筒のお年玉。嫌な予感が拭えない。多分だけど、兄さんとシィ兄のところにも行ってるよね。おそらくだけど、中身は一緒だと思う。
 
「開けないの?」
「まず、こっちで」
 
 渡されたポチ袋の中身は、普通よりは多いと思うけど、驚くほどの金額じゃない。兄さんが休み中に手伝った時に渡される金額の半分くらい。多いとは思うけど、驚くほどじゃない。
 
「父さんも、高校生にこの金額は」
 
 陽月さんが呆れ気味。雪兎も同じ金額。他のポチ袋も金額は控え目だけど、それなりの金額が入ってた。お金持ちの感覚って。まず、お年玉の正規の金額っていくらなの。
 
「普通はどれ位?」
「お年玉の事?」
「そう?」
「僕は何時でもこんな感じだから」
 
 俺はまず、お年玉って貰ったのが初めてだから。
 
「普通は二人の年齢なら、高くても二枚から三枚くらいじゃないかしら」
 
 和香さんが覗き込んできて一言。つまり、傍系だとしても、財閥の血族だって事だよね。
 
「問題は……」
 
 この白い封筒。まず、お札が入ってる気配がしない。ポチ袋の感じから、一枚って事はないと思う。しかも、大叔母さん達って、ある意味規格外。人の事は言えないけど。恐る恐る開封して中身を確認。そして、思いっきり脱力。
 
「暁?」
「どうかしたのか?」
 
 雪兎と陽月さん、そして、和香さんも疑問顔。ゆっくり中身を取り出して、三人にそれを見せた。中に入っていたのは小切手。書かれている金額がまず、有り得ない。
 
「何を考えて!」
 
 陽月さんが絶句。当然、雪兎と和香さんも驚愕に言葉が出ないらしい。
 
「多分だけど、兄さん達も同じかそれ以上の金額だと思う」
 
 陽月さんが右手で顔を覆った。
 
「嬉しかったのは分かるが、限度を知らなすぎる」
 
 その言葉は当たってると思う。
 
「でも、今更、返せないわよ」
 
 和香さんの言葉はごもっとも。しかも、ご高齢だし、返してショックを受けて昇天でもされたら堪ったもんじゃないよね。
 
「兄さん達と相談してみます」
「その方が良いな。本当に、今度、言っておくから」
「お願いします」
 
 金銭感覚が破壊的な兄さんでも、これには度肝を抜いたんじゃない。
 
「大叔母様達も年齢を考えなかったのかしら」
「孫の分まで曽孫に渡したんじゃないの?」
 
 雪兎の言葉に固まった俺達三人。孫って、あの莫迦二人の事だよね。
 
「……それは流石に」
「いや、二人ならやりかねない」
 
 陽月さん、肯定しちゃうの。
 
「そうね。お二人ならやってしまうわね」
 
 和香さんも肯定するの。
 
「覚悟した方が良いよ。おそらく、今年ほどじゃないと思うけど、毎年、成人しても渡してくると思うの」
 
 何恐ろしい言ってくれちゃうわけ……。
 
「あり得るな。まともな曽孫がいた事で、やっと、愛でれるとか考えてそうだ」
「そうね。大旦那様が雪兎を可愛がっていて、羨ましがってたくらいだし」
 
 ……大旦那って?
 
「僕の曾おじいちゃん。もう亡くなってるけど」
 
 そりゃ、男性より女性の方が長命だし、亡くなってるのは理解できるけど。
 
「好きにさせてやってくれないか? 今まで寂しそうだったから。ただ、金額については忠告させてもらうよ。さすがにその金額はお年玉の金額じゃない」
 
 申し訳なさそうに言う陽月さんに俺は頷いた。まあ、頷く事しかできなかったが正確だけど。帰ったら、兄さんとシィ兄と話さないと。面倒が増えて、本当に面倒! その後、渡された御節に更に吃驚。草壁家って、やっぱり財閥なんだね。感覚が一般人とかけ離れてる。
 
 
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