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五章 墓穴を掘っている事に気がついていないようでした。
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神聖王国の使者は、国王に対して苦笑いを向けた。この件に関して、神聖王国の神聖王家は全く関与していない。関与しているのは聖殿の旧王国派である。雪の花は何もこの国にある個体だけでは無い。特別だと言うのなら、聖女の聖魔法で少しばかり特殊な成長をしたくらいなのである。それに雪の花は一度契約すると、その個体は次の主人を選ばない。つまり、枯れる道を選ぶのだ。例外は血筋と連動する魔法を使っている場合である。つまり、王国にある雪の花がいい例だ。
「遠い過去も神聖王家ではなく聖殿が手を出していました」
そう言葉を紡いだ。その顔は誰かと酷似していた。そう、この国の王族によく似ているのだ。不思議な色合いの黒い髪と、不思議な色合いの青い瞳と白い肌をしている。
「聖女様を蔑ろにしたのはその時代の聖王子です。そして、聖女様と共に国を出たのもまた、神聖王家の血筋の者でした」
雪の花が従うのは聖女と神聖王家の者だけ。契約までともなると、二人が二人とも特殊な条件を必要とする。
「我、遠い親戚となる方々におかれましては、神聖王も真実を知らせるべきだと考えられました」
「どう言う事だ」
「雪の花はその血筋を気に入らなければ枯れるだけ」
「親戚とは?」
国王の言葉に彼は微笑みを浮かべる。
「私は神聖王国第五王子ルフラン・ヒース=セレンティアです」
この場は非公式の場だ。その中には国王と二人の王妃。王太子とリラ。何故かシュトラスとリストル公爵の姿がある。
「神聖王家は雪の花が気難しい事を知っています。それは彼の花は意志を持っているからです。その意志は人の思惑の外にある。遠い過去、聖女様と相手となった者が持ち去ったと伝えられていると思いますが実際は違います。雪の花がついて行ったのです」
そして、秘密裏に聖王子であるルフランがこの場に来たのは雪の花の真実を伝える為。神聖王家にのみ伝えられている秘密中の秘密であるからだ。その秘密を聖殿は欲している。神聖王家を失墜させ、神聖王国がある大陸を意のままに操りたいからだ。
「元々、雪の花はあの大陸の中で、あらゆる生き物の頂点に立っていました。それは、大陸の気候そのものを制御していたからです」
雪の花が生まれたのはこの世界が混沌としていた時代であるのだと言う。そのままでは生命が育たない。その為に存在するようになった。
「気候が安定し、雪の花はその存在をある深い渓谷に移しました。強い力を持つ雪の花は懸念されたのだと思います。よく無い者達に利用されてはならないと」
だが、ある時、聖王子は聖女を言われの無い罪で断罪した。つまり、冤罪で裁いたのだ。その結果、雪の花の一株が神聖王家と聖王子に反旗を翻した。当然、他の雪の花も賛同したのである。その結果、雪の花の一株があの大陸から持ち出された。聖女は国外追放だけではなく、大陸からの追放を言い渡されたからだ。
「当時の聖王子は聖殿に拐かされていました。雪の花の気難しさを知っているにも関わらず」
聖王子を拐かしたのは聖殿の最高権力者の娘であったと伝わっている。二人は結局、結婚することはなかった。何故なら、残された雪の花が反対をしたからだ。もし、二人が結婚し、神聖王家にその娘の血が混じった場合、関わりを完全に断つと宣言されたからだ。そんな事になれば神聖王家は存続すら危うくなる。雪の花との契約があるからこそ、神聖王家は神聖王国を統べる事が出来るからだ。
「当時の聖王子は辺境の塔に幽閉されましたが、雪の花は彼を見捨てたと言われています」
雪の花に見捨てられた聖王子がどうなったのか。それについては伝わっていない。雪の花は血と共に契約する。それは、その血を持つ者が存在する限り契約は反故にならない。なった場合、それは契約に反する行いをした時に限るのだ。
「この地の雪の花は我が神聖王家の血を引き、尚且つ、聖女の血を持つこの王家との契約。それは、どうやっても覆ることはありません」
「一度、直系が絶えているのだが?」
国王は眉間に皺を寄せ唸る様に声を発した。
「それも聞き及んでおります。けれど、雪の花は枯れなかった。それが全てです。直系が絶えた場合、少しばかり雪の花との繋がりが希薄にはなりますが、それでも、契約を違えなければきちんと修復されます」
元々、雪の花と契約したのは神聖王家の傍系の血筋だった。そして、聖女と結ばれる事で直系にも引けを取らない存在に昇華した。つまり、この国にある雪の花は、彼の大陸にある雪の花とは完全に違うものに変化した。その最たるものが王太子となる者の手に種を握らせる、と言った特異性である。
「神聖王家の聖王太子は種を握ってはいないと?」
「そうです。それはこの地にある雪の花が考え出したものでしょうね。おかしな事にならない様にという配慮でしょうが」
それを逆手に取ることを考えるのもまた、人間という者なのだろう。
「今代の種は強い力を持っていると聞き及んでおります」
ルフランの言葉に一同は眉間に皺を刻んだ。つまり、外に情報が漏れている、という懸念だ。気配でそれを察したルフランは苦笑いを浮かべた。この国の雪の花は確かに独自の進化を遂げた様だが、雪の花同士のネットワークは途切れてはいない。神聖王家が持つ雪の花関連の情報は全て、大陸に残った雪の花から齎されたものだ。だからこそ、その情報は間違いのないものなのである。
「勘違いしてもらいたくないのですが、これらの情報は向こうにいる雪の花から齎されたもの。人の情報網での情報ではありません。そして、雪の花から齎される情報は決して外に漏らしてはならない。特に聖殿に知られれば面倒でしかありませんから」
ルフランは一つの可能性を示した。今代の種が強いのは直系が絶えてしまった、それを補う為の処置に過ぎない。そして、それは種を握り生まれてきたフェルナンドだけの能力ではないという点だ。
「どういう事だ?」
国王の言葉にルフランは小さく頷いてみせた。
「雌雄が揃う事で、窮地を脱しようとしたのかもしれません」
ルフランの言葉に厳しい顔を見せたのはリストル侯爵だ。シュトラスはそんな父親に苦笑いしか浮かばない。必死で娘を守ろうとしていたのに、それは無駄な足掻きであると言われた様なものだったからだ。
「雌雄?」
リラは首を傾げる。その言い方ではフェルナンドとリラをまるで動物か何かと勘違いしてしまいそうな言い方だ。
「ああ、不愉快な思いをさせてしまいましたか? この大陸の雪の花にとって種を宿すという行為はまさに雌雄なのですよ。どちらかの能力が良くても悪くても駄目なのです。次代の王となる者と、その妃となる者の能力の差は無くさなくてはならない。何故なら、その二人から直系となる次代が生まれるからです」
ルフランは淡々と語る。初代である聖女が使った聖魔法。それは特殊なもので、決して、彼女だけの力で使えるものではなかった。雪の花と、何より相手となる彼がいて初めて使える類の特殊なものであった様だ。雪の花は元の大陸に戻るつもりはなかった。その為、雪の花は初代である聖女と彼の血筋との繋がりを作ったのだ。どちらか約束を反故にしなければ破棄されない。それは普通の契約とは違った。だからこそ、直系が故意に命を絶ったわけではないので契約は続行されている。
「どうやら、暗殺騒ぎがここ数代起こっている様ですが、ある意味、問題はないのですよ。雪の花が認めているのは基本、その種を手にした者のみ。例外はあった様ですがそれはあくまで例外なのです」
リラは驚いた様に目を見開き、兄であるシュトラスに顔を向けた。シュトラスも驚いている様だ。つまり、どんなに頑張ろうと、エリエスが王位に就くことは出来ない。それは雪の花との契約を完全に反故にした者だからだ。本来なら守るべき命を奪う行為を雪の花は許さない。
「つまり、その第二王子は雪の花を完全に怒らせた事になる。無事であると良いですね」
ルフランは無害そうな笑みを一同に向けた。しかし、リラは思った。視界に収めた雪の花は兎に角、美しい花を咲かせる樹木でしかなかった。魔物であるなら動くこともあるだろうが、ただ、そこにあるだけの様に見えた。確かに神秘的な魔力を帯びてはいたが、その雪の花が攻撃をするのだろうか。首を傾げたリラに、全員は苦笑いを浮かべる。見た目に騙されてはいけないのが雪の花なのだ。王家の知識に乏しいリラでは雪の花の正確な生態など知りようがない。
「雪の花は気象を操ります。人の体など気象に比べたら簡単な構造ですよ」
リラはルフランの物言いに心の中で、こわっ、となった。この目の前の王子様は見た目を裏切りかなりの腹黒さがありそうだ。言葉に嘘偽りはないだろうが、使者に選ばれるくらいである。普通の王子であるなど考えられない。
「感のよろしいお妃様ですね」
ルフランはリラの考えを肯定した。訊きもしないで肯定したのだ。彼は危険だとリラは緊張する羽目になってしまった。この部屋にこっそり結界を貼ったが、更にこっそりフェルナンドに結界を二重掛けした。他の人達は自力で何とかしてもらう。いくら無尽蔵の魔力を持つリラでも全員は無理である。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ただ、私が雪の花と同化しているだけです。ふふ、だからこその使者ですよ。同化しているからこそ、嘘偽りは言えない。言えば私と同化している雪の花が私の命を奪います」
「へ?」
「神聖王家の秘密とはこの事なのですよ。この部屋には強力な結界が貼られている様なので外に漏れることはないでしょうし」
「つまり?」
国王は躊躇いがちに問い掛ける。
「その代に一人、必ず雪の花と同化した王子が生まれます。王太子の場合もあれば、私の様に末端の王子である場合もある。雪の花と同化しているので護衛などは不要です。雪の花が勝手に襲撃者を撃退し、他の雪の花の助けで完全に排除します」
それを聞いた一同は思う。聖殿はその事実を知らない。知る為に神聖王家に手を出している。今まで反撃されているだけだと思っているのなら大きな間違いだ。雪の花が気に入っている血筋の者達を何度も手に掛けようとしたのだ。もし、今まで雪の花が傍観していたとしたなら、後から来る報復はかなりキツいものになるのではないだろうか。
「雪の花はご立腹らしい。今まで我慢して手を出してきた者にだけ報復していた様だが。他の地に根を下ろした雪の花にまで手を出したのだから。それも、聖女を排除した時の様に、王家の血筋の者を籠絡して」
ルフランは穏やかな口調で言っているが、何故だろうか。この部屋の温度が一気に下がった様な気がしたのだ。
「第二王子の部屋に行ってみると良いですよ。面白いものが見られます」
ルフランの言葉に皆が一斉に腰を上げた。唯一、腰を上げなかったのは国王とリストル侯爵だ。国王はルフランの言葉の真偽を考えると同時に、ルフランを一人にしない為。リストル公爵はその王を守る為に残った。二人は皆を見送るとルフランに再び視線を向ける。
「この地の雪の花の仕業か?」
「いいえ。この地の雪の花はこの地の気候を安定させる為にその力を使っています。私が来たのは我が大陸にある雪の花の意志でもあるのです。私がこの地に移動すれば、この地の雪の花を助ける事が可能になるので」
国王とリストル公爵は目を見開く。つまり、第二王子エリエスは雪の花の報復を受けたという事になる。
「陛下、致し方ないかと……」
「分かっておる。彼奴は王妃達の思惑を中途半端に跳ね除けておった。中途半端故に、何に於いても中途半端。このような事態になる予測は流石の我にも出来なかったが。かの大陸の雪の花に報復されるなど考えてはおらんだろう」
ルフランは哀れな者を見るように国王に視線を向けている。ルフランはただ、雪の花の意向に従ったのみ。神聖王国の神聖王に全てを話し、この地に来る許可を得て来た。その時点でエリエスの未来は決まっていたのだ。雪の花は決まった者にしか執着しない。その執着を侮ってはいけないのだ。
「この地の雪の花と違って、我が大陸の雪の花は好戦的です。申し訳ないが、私では止めることは叶いません。そして、この地に来ないという選択肢はありませんでした。ご了承ください」
ルフランは目を伏せ、そう言葉を紡いだ。
慌ててエリエスの部屋に駆け込んだ一同は、扉をノックするなどという礼儀を排除した。扉の前の警備兵すら無視して室内に足を踏み入れる。扉を開けてすぐ気がついたのは肌を刺す冷たい空気だ。この部屋だけ季節が違っていた。一年を通して温暖な気候のこの地で、震える程の気温を体感する事は難しい。その室内で見覚えのある姿の氷像が床に横たわっていた。喉を掻き毟った様な異様な姿で存在している。
「雪の花とはここまで恐ろしい存在なのか」
フェルナンドは小さく声を漏らす。エリエスはフェルナンドの命を狙う、弟だが完全に敵でもあった。いくら弟として愛でていたとしても、本人は全くそれを受け取ろうともしない。オセリアは確かにとんでもなく愚か者だが、素直であるという美点があった。これはただ、凍りついているわけではない。おそらく、融ける事はないだろう。少しでも魔力がある者なら、それくらい瞬時で判断出来る。それ程、強い力が感じられるのだ。
「このままではまずい」
瞬時にそう判断したシュトラスは直様外の護衛兵に指示を出す。護衛兵は近衛騎士だ。直ぐに行動を開始し、緘口令が敷かれた。
「言いたくないけど、息してない?」
リラはそう言うなりエリエスの元まで歩み寄り跪き、口に手を翳す。信じられないが、エリエスは確かに生きていた。微かな呼吸を感知出来たのだ。
「この状態で生きているのか?」
フェルナンドも半信半疑ながら歩み寄り確認する。シュトラスは多少慌てたが、リラとフェルナンド相手では行動を止める事など出来ないと早々に諦めた。
「本当に息をしているな。リラでも魔法解除は無理か?」
「当たり前よ。この魔法、私達が使う魔法と次元が違うもの。考えたくないけど、このまま、永久に生き続けるんじゃないかな? それこそ、人が居なくなっても生きていそう」
リラはぶるりと体を震わせた。息はしていても体の機能は完全に奪われている。このまま老化もしないだろうが、生きてるとは言い難い姿で未来永劫生きていかなくてはならない。一人の人が負う罰としては大き過ぎるのではないだろうか。
「もしかして、エリエスの罪だけではなく、王族であるから、過去全ての罪を背負わされたのか?」
フェルナンドの言葉に二人は息を呑んだ。もしそうだとするなら、エリエスだけがこの様な姿であるのはおかしい。フェルナンドは慌てて指示を出す。国内でこのような姿の者を探し出せと命じたのだ。杞憂であって欲しいと考えるのは普通だろう。しかし、その考えが間違いでないと証明されるのは遠くない未来だった。
次々と上がってくる報告。調べればその殆どが彼の大陸で暗躍している聖殿の関係者だった。エリエスが氷像になる事で分からなかった事柄が全て浮き彫りになったのだ。雪の花は全てを知っていた。雪の花は動物であると同時に植物でもある。どの場所にも小さな動物はおり、植物は存在する。つまり、隠し事など雪の花には出来ないのだ。
ルフランは次々と上がってくる報告を一緒に聞いていた。本来なら許されない事だが、この事態を引き起こした張本人でもあったからだ。ルフランがこの地に足を踏み入れた時点で、雪の花は選別を開始し、それが終わると速やかに報復を実行した。雪の花を侮ってはならないのだと知るには十分な出来事だ。
「聖殿関係者はこちらで引き取らせていただきます。攻撃材料になりますし、何より、重要人物まで。本当に愚かですよ。司祭直々にこの国に来ているなど」
ルフランは凄く嬉しそうだ。しかし、ここまで入り込んでいるなど知りようもなかった。
「うちの国ヤバくない?」
執務室で執務を取り行っているフェルナンドにリラはそう愚痴る。どれだけの聖殿の関係者が居たのか。そして、まんまと王妃達に微ボンクラに育てられていた第二王子エリエスは策に乗ってしまったのだ。そのエリエスだが、王宮の地下深くに封印されている。未来永劫、その場所から出る事は叶わないだろう。何より、この国の雪の花は気候を安定させる為に力を使っているらしいが、一旦使われた魔法に関しては維持していく事は可能なのだとか。つまり、この地に雪の花が存在する限り、エリエスは氷漬けのまま、と言う事になる。自業自得ではあるが哀れであるとしか言えない。そして、これは王家として秘匿すべき絶対的な秘密となった。知っている近衛騎士達にも制約魔法で縛りを設けてる。話す事も、書面に残す事も当然出来ない。しようとしても、魔法の制限で苦しい思いをするだけだ。
「まあ、エリエス関係はかたは付いたが、暗殺騒ぎはこれからも続くぞ」
フェルナンドはさらりと、まるで明日の天気でも言う軽さで言ってのけた言葉にリラは目を丸くする。いやいや、それはおかしいだろう。
「一つだけじゃないの?!」
「当たり前だろう。この国の特異性を理解してもらおうか。まず、陸の孤島状態なのは分かっていると思うが」
それくらいならリラも知っている。この大陸の砂漠地帯、その真ん中に位置する山に囲まれた地にこの国はある。当然周りは砂ばかり。そんな中にポツンと存在するオアシスだ。そのオアシスだが、周りが昼は高温、夜は零下になる地にあって温暖な気候なのだ。つまり、この国の特異性を理解せず、攻め込もうとしている国は多いのである。聖殿は雪の花の存在を知っていた。知っているからこそ、エリエスを利用したのだ。だが、その他の国は違う。真っ先に王族を排除し、この国を手に入れようとする。
「でも、王族がいなくなればここも砂地になるよね?」
「まあ、な。でも知っているのはあくまで王家に近い高位の貴族だけだ」
フェルナンドは架空に視線を向ける。エリエスの事は完全に秘匿され、国民には病死と発表される。国民を混乱に巻き込みたくないからだ。王族が日々、命が狙われている事実も彼等は知らない。
「つまり、私が次の王太子を産んだとしても、他国からの脅威は消えないと言う事だよね?」
「そうなるな。まあ、だからこそ、父上も母上達も鍛錬を怠らないのだが」
リラはそうだと肩を落とした。ここの王族ときたら、近衛騎士より強いのだ。何のための騎士なのだと言いたくなる。神聖王国のルフラン第五王子は大層驚き、また、称賛していた。守られているのではなく、攻撃という守りを手に入れている王族。瞳を輝かせ、鍛錬しなければ、と言っていた。脳筋王族の親戚は脳筋なのか。思わず遠い目になる案件だった。
「エリエスの事は神聖王国の手助けで何とかなったが、その他は私達で何とかしなければ」
目立って裕福ではない。それでも狙われるのは陸の孤島であり、なかなか落ちない難攻不落の国だからだ。唯一の入り口である辺境伯領は民すらも優秀な兵士だ。それも男女問わない優秀さである。自給自足が出来る上、砂漠の中にあって穏やかな気候。雪の花がもたらしている秘密を他国は知らない。それが魔法によって紐付けされ、その血筋が絶えれば失われる平和だ。しかし、それを公にする訳にはいかないのである。
「まあ、これからも頼むよ、婚約者殿」
「もーっ!!!」
「ああ、執務の手伝いもな。なかなか優秀な助手だ」
「分かってるわよ!!」
執務室から聞こえてくる絶叫に、扉の前で護衛している近衛騎士はギョッとしたように扉に視線を向けた。そして、リラの破天荒ぶりを思い出し、何も聞かなかったと、口を噤む選択をした。その選択は間違えていないだろう。今回の事を詳しく知る近衛騎士達はこの国の王族の規格外っぷりを知っている。その規格外に規格外の令嬢が妃として婚約者となっただけだ。
一年後、無事に婚姻まで漕ぎ着けたフェルナンドは速攻リラを孕ませる事に成功する。当然リラは暴れたが、どこ吹く風だ。雪の花が開花するのも近い未来の事である。
終わり。
「遠い過去も神聖王家ではなく聖殿が手を出していました」
そう言葉を紡いだ。その顔は誰かと酷似していた。そう、この国の王族によく似ているのだ。不思議な色合いの黒い髪と、不思議な色合いの青い瞳と白い肌をしている。
「聖女様を蔑ろにしたのはその時代の聖王子です。そして、聖女様と共に国を出たのもまた、神聖王家の血筋の者でした」
雪の花が従うのは聖女と神聖王家の者だけ。契約までともなると、二人が二人とも特殊な条件を必要とする。
「我、遠い親戚となる方々におかれましては、神聖王も真実を知らせるべきだと考えられました」
「どう言う事だ」
「雪の花はその血筋を気に入らなければ枯れるだけ」
「親戚とは?」
国王の言葉に彼は微笑みを浮かべる。
「私は神聖王国第五王子ルフラン・ヒース=セレンティアです」
この場は非公式の場だ。その中には国王と二人の王妃。王太子とリラ。何故かシュトラスとリストル公爵の姿がある。
「神聖王家は雪の花が気難しい事を知っています。それは彼の花は意志を持っているからです。その意志は人の思惑の外にある。遠い過去、聖女様と相手となった者が持ち去ったと伝えられていると思いますが実際は違います。雪の花がついて行ったのです」
そして、秘密裏に聖王子であるルフランがこの場に来たのは雪の花の真実を伝える為。神聖王家にのみ伝えられている秘密中の秘密であるからだ。その秘密を聖殿は欲している。神聖王家を失墜させ、神聖王国がある大陸を意のままに操りたいからだ。
「元々、雪の花はあの大陸の中で、あらゆる生き物の頂点に立っていました。それは、大陸の気候そのものを制御していたからです」
雪の花が生まれたのはこの世界が混沌としていた時代であるのだと言う。そのままでは生命が育たない。その為に存在するようになった。
「気候が安定し、雪の花はその存在をある深い渓谷に移しました。強い力を持つ雪の花は懸念されたのだと思います。よく無い者達に利用されてはならないと」
だが、ある時、聖王子は聖女を言われの無い罪で断罪した。つまり、冤罪で裁いたのだ。その結果、雪の花の一株が神聖王家と聖王子に反旗を翻した。当然、他の雪の花も賛同したのである。その結果、雪の花の一株があの大陸から持ち出された。聖女は国外追放だけではなく、大陸からの追放を言い渡されたからだ。
「当時の聖王子は聖殿に拐かされていました。雪の花の気難しさを知っているにも関わらず」
聖王子を拐かしたのは聖殿の最高権力者の娘であったと伝わっている。二人は結局、結婚することはなかった。何故なら、残された雪の花が反対をしたからだ。もし、二人が結婚し、神聖王家にその娘の血が混じった場合、関わりを完全に断つと宣言されたからだ。そんな事になれば神聖王家は存続すら危うくなる。雪の花との契約があるからこそ、神聖王家は神聖王国を統べる事が出来るからだ。
「当時の聖王子は辺境の塔に幽閉されましたが、雪の花は彼を見捨てたと言われています」
雪の花に見捨てられた聖王子がどうなったのか。それについては伝わっていない。雪の花は血と共に契約する。それは、その血を持つ者が存在する限り契約は反故にならない。なった場合、それは契約に反する行いをした時に限るのだ。
「この地の雪の花は我が神聖王家の血を引き、尚且つ、聖女の血を持つこの王家との契約。それは、どうやっても覆ることはありません」
「一度、直系が絶えているのだが?」
国王は眉間に皺を寄せ唸る様に声を発した。
「それも聞き及んでおります。けれど、雪の花は枯れなかった。それが全てです。直系が絶えた場合、少しばかり雪の花との繋がりが希薄にはなりますが、それでも、契約を違えなければきちんと修復されます」
元々、雪の花と契約したのは神聖王家の傍系の血筋だった。そして、聖女と結ばれる事で直系にも引けを取らない存在に昇華した。つまり、この国にある雪の花は、彼の大陸にある雪の花とは完全に違うものに変化した。その最たるものが王太子となる者の手に種を握らせる、と言った特異性である。
「神聖王家の聖王太子は種を握ってはいないと?」
「そうです。それはこの地にある雪の花が考え出したものでしょうね。おかしな事にならない様にという配慮でしょうが」
それを逆手に取ることを考えるのもまた、人間という者なのだろう。
「今代の種は強い力を持っていると聞き及んでおります」
ルフランの言葉に一同は眉間に皺を刻んだ。つまり、外に情報が漏れている、という懸念だ。気配でそれを察したルフランは苦笑いを浮かべた。この国の雪の花は確かに独自の進化を遂げた様だが、雪の花同士のネットワークは途切れてはいない。神聖王家が持つ雪の花関連の情報は全て、大陸に残った雪の花から齎されたものだ。だからこそ、その情報は間違いのないものなのである。
「勘違いしてもらいたくないのですが、これらの情報は向こうにいる雪の花から齎されたもの。人の情報網での情報ではありません。そして、雪の花から齎される情報は決して外に漏らしてはならない。特に聖殿に知られれば面倒でしかありませんから」
ルフランは一つの可能性を示した。今代の種が強いのは直系が絶えてしまった、それを補う為の処置に過ぎない。そして、それは種を握り生まれてきたフェルナンドだけの能力ではないという点だ。
「どういう事だ?」
国王の言葉にルフランは小さく頷いてみせた。
「雌雄が揃う事で、窮地を脱しようとしたのかもしれません」
ルフランの言葉に厳しい顔を見せたのはリストル侯爵だ。シュトラスはそんな父親に苦笑いしか浮かばない。必死で娘を守ろうとしていたのに、それは無駄な足掻きであると言われた様なものだったからだ。
「雌雄?」
リラは首を傾げる。その言い方ではフェルナンドとリラをまるで動物か何かと勘違いしてしまいそうな言い方だ。
「ああ、不愉快な思いをさせてしまいましたか? この大陸の雪の花にとって種を宿すという行為はまさに雌雄なのですよ。どちらかの能力が良くても悪くても駄目なのです。次代の王となる者と、その妃となる者の能力の差は無くさなくてはならない。何故なら、その二人から直系となる次代が生まれるからです」
ルフランは淡々と語る。初代である聖女が使った聖魔法。それは特殊なもので、決して、彼女だけの力で使えるものではなかった。雪の花と、何より相手となる彼がいて初めて使える類の特殊なものであった様だ。雪の花は元の大陸に戻るつもりはなかった。その為、雪の花は初代である聖女と彼の血筋との繋がりを作ったのだ。どちらか約束を反故にしなければ破棄されない。それは普通の契約とは違った。だからこそ、直系が故意に命を絶ったわけではないので契約は続行されている。
「どうやら、暗殺騒ぎがここ数代起こっている様ですが、ある意味、問題はないのですよ。雪の花が認めているのは基本、その種を手にした者のみ。例外はあった様ですがそれはあくまで例外なのです」
リラは驚いた様に目を見開き、兄であるシュトラスに顔を向けた。シュトラスも驚いている様だ。つまり、どんなに頑張ろうと、エリエスが王位に就くことは出来ない。それは雪の花との契約を完全に反故にした者だからだ。本来なら守るべき命を奪う行為を雪の花は許さない。
「つまり、その第二王子は雪の花を完全に怒らせた事になる。無事であると良いですね」
ルフランは無害そうな笑みを一同に向けた。しかし、リラは思った。視界に収めた雪の花は兎に角、美しい花を咲かせる樹木でしかなかった。魔物であるなら動くこともあるだろうが、ただ、そこにあるだけの様に見えた。確かに神秘的な魔力を帯びてはいたが、その雪の花が攻撃をするのだろうか。首を傾げたリラに、全員は苦笑いを浮かべる。見た目に騙されてはいけないのが雪の花なのだ。王家の知識に乏しいリラでは雪の花の正確な生態など知りようがない。
「雪の花は気象を操ります。人の体など気象に比べたら簡単な構造ですよ」
リラはルフランの物言いに心の中で、こわっ、となった。この目の前の王子様は見た目を裏切りかなりの腹黒さがありそうだ。言葉に嘘偽りはないだろうが、使者に選ばれるくらいである。普通の王子であるなど考えられない。
「感のよろしいお妃様ですね」
ルフランはリラの考えを肯定した。訊きもしないで肯定したのだ。彼は危険だとリラは緊張する羽目になってしまった。この部屋にこっそり結界を貼ったが、更にこっそりフェルナンドに結界を二重掛けした。他の人達は自力で何とかしてもらう。いくら無尽蔵の魔力を持つリラでも全員は無理である。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ただ、私が雪の花と同化しているだけです。ふふ、だからこその使者ですよ。同化しているからこそ、嘘偽りは言えない。言えば私と同化している雪の花が私の命を奪います」
「へ?」
「神聖王家の秘密とはこの事なのですよ。この部屋には強力な結界が貼られている様なので外に漏れることはないでしょうし」
「つまり?」
国王は躊躇いがちに問い掛ける。
「その代に一人、必ず雪の花と同化した王子が生まれます。王太子の場合もあれば、私の様に末端の王子である場合もある。雪の花と同化しているので護衛などは不要です。雪の花が勝手に襲撃者を撃退し、他の雪の花の助けで完全に排除します」
それを聞いた一同は思う。聖殿はその事実を知らない。知る為に神聖王家に手を出している。今まで反撃されているだけだと思っているのなら大きな間違いだ。雪の花が気に入っている血筋の者達を何度も手に掛けようとしたのだ。もし、今まで雪の花が傍観していたとしたなら、後から来る報復はかなりキツいものになるのではないだろうか。
「雪の花はご立腹らしい。今まで我慢して手を出してきた者にだけ報復していた様だが。他の地に根を下ろした雪の花にまで手を出したのだから。それも、聖女を排除した時の様に、王家の血筋の者を籠絡して」
ルフランは穏やかな口調で言っているが、何故だろうか。この部屋の温度が一気に下がった様な気がしたのだ。
「第二王子の部屋に行ってみると良いですよ。面白いものが見られます」
ルフランの言葉に皆が一斉に腰を上げた。唯一、腰を上げなかったのは国王とリストル侯爵だ。国王はルフランの言葉の真偽を考えると同時に、ルフランを一人にしない為。リストル公爵はその王を守る為に残った。二人は皆を見送るとルフランに再び視線を向ける。
「この地の雪の花の仕業か?」
「いいえ。この地の雪の花はこの地の気候を安定させる為にその力を使っています。私が来たのは我が大陸にある雪の花の意志でもあるのです。私がこの地に移動すれば、この地の雪の花を助ける事が可能になるので」
国王とリストル公爵は目を見開く。つまり、第二王子エリエスは雪の花の報復を受けたという事になる。
「陛下、致し方ないかと……」
「分かっておる。彼奴は王妃達の思惑を中途半端に跳ね除けておった。中途半端故に、何に於いても中途半端。このような事態になる予測は流石の我にも出来なかったが。かの大陸の雪の花に報復されるなど考えてはおらんだろう」
ルフランは哀れな者を見るように国王に視線を向けている。ルフランはただ、雪の花の意向に従ったのみ。神聖王国の神聖王に全てを話し、この地に来る許可を得て来た。その時点でエリエスの未来は決まっていたのだ。雪の花は決まった者にしか執着しない。その執着を侮ってはいけないのだ。
「この地の雪の花と違って、我が大陸の雪の花は好戦的です。申し訳ないが、私では止めることは叶いません。そして、この地に来ないという選択肢はありませんでした。ご了承ください」
ルフランは目を伏せ、そう言葉を紡いだ。
慌ててエリエスの部屋に駆け込んだ一同は、扉をノックするなどという礼儀を排除した。扉の前の警備兵すら無視して室内に足を踏み入れる。扉を開けてすぐ気がついたのは肌を刺す冷たい空気だ。この部屋だけ季節が違っていた。一年を通して温暖な気候のこの地で、震える程の気温を体感する事は難しい。その室内で見覚えのある姿の氷像が床に横たわっていた。喉を掻き毟った様な異様な姿で存在している。
「雪の花とはここまで恐ろしい存在なのか」
フェルナンドは小さく声を漏らす。エリエスはフェルナンドの命を狙う、弟だが完全に敵でもあった。いくら弟として愛でていたとしても、本人は全くそれを受け取ろうともしない。オセリアは確かにとんでもなく愚か者だが、素直であるという美点があった。これはただ、凍りついているわけではない。おそらく、融ける事はないだろう。少しでも魔力がある者なら、それくらい瞬時で判断出来る。それ程、強い力が感じられるのだ。
「このままではまずい」
瞬時にそう判断したシュトラスは直様外の護衛兵に指示を出す。護衛兵は近衛騎士だ。直ぐに行動を開始し、緘口令が敷かれた。
「言いたくないけど、息してない?」
リラはそう言うなりエリエスの元まで歩み寄り跪き、口に手を翳す。信じられないが、エリエスは確かに生きていた。微かな呼吸を感知出来たのだ。
「この状態で生きているのか?」
フェルナンドも半信半疑ながら歩み寄り確認する。シュトラスは多少慌てたが、リラとフェルナンド相手では行動を止める事など出来ないと早々に諦めた。
「本当に息をしているな。リラでも魔法解除は無理か?」
「当たり前よ。この魔法、私達が使う魔法と次元が違うもの。考えたくないけど、このまま、永久に生き続けるんじゃないかな? それこそ、人が居なくなっても生きていそう」
リラはぶるりと体を震わせた。息はしていても体の機能は完全に奪われている。このまま老化もしないだろうが、生きてるとは言い難い姿で未来永劫生きていかなくてはならない。一人の人が負う罰としては大き過ぎるのではないだろうか。
「もしかして、エリエスの罪だけではなく、王族であるから、過去全ての罪を背負わされたのか?」
フェルナンドの言葉に二人は息を呑んだ。もしそうだとするなら、エリエスだけがこの様な姿であるのはおかしい。フェルナンドは慌てて指示を出す。国内でこのような姿の者を探し出せと命じたのだ。杞憂であって欲しいと考えるのは普通だろう。しかし、その考えが間違いでないと証明されるのは遠くない未来だった。
次々と上がってくる報告。調べればその殆どが彼の大陸で暗躍している聖殿の関係者だった。エリエスが氷像になる事で分からなかった事柄が全て浮き彫りになったのだ。雪の花は全てを知っていた。雪の花は動物であると同時に植物でもある。どの場所にも小さな動物はおり、植物は存在する。つまり、隠し事など雪の花には出来ないのだ。
ルフランは次々と上がってくる報告を一緒に聞いていた。本来なら許されない事だが、この事態を引き起こした張本人でもあったからだ。ルフランがこの地に足を踏み入れた時点で、雪の花は選別を開始し、それが終わると速やかに報復を実行した。雪の花を侮ってはならないのだと知るには十分な出来事だ。
「聖殿関係者はこちらで引き取らせていただきます。攻撃材料になりますし、何より、重要人物まで。本当に愚かですよ。司祭直々にこの国に来ているなど」
ルフランは凄く嬉しそうだ。しかし、ここまで入り込んでいるなど知りようもなかった。
「うちの国ヤバくない?」
執務室で執務を取り行っているフェルナンドにリラはそう愚痴る。どれだけの聖殿の関係者が居たのか。そして、まんまと王妃達に微ボンクラに育てられていた第二王子エリエスは策に乗ってしまったのだ。そのエリエスだが、王宮の地下深くに封印されている。未来永劫、その場所から出る事は叶わないだろう。何より、この国の雪の花は気候を安定させる為に力を使っているらしいが、一旦使われた魔法に関しては維持していく事は可能なのだとか。つまり、この地に雪の花が存在する限り、エリエスは氷漬けのまま、と言う事になる。自業自得ではあるが哀れであるとしか言えない。そして、これは王家として秘匿すべき絶対的な秘密となった。知っている近衛騎士達にも制約魔法で縛りを設けてる。話す事も、書面に残す事も当然出来ない。しようとしても、魔法の制限で苦しい思いをするだけだ。
「まあ、エリエス関係はかたは付いたが、暗殺騒ぎはこれからも続くぞ」
フェルナンドはさらりと、まるで明日の天気でも言う軽さで言ってのけた言葉にリラは目を丸くする。いやいや、それはおかしいだろう。
「一つだけじゃないの?!」
「当たり前だろう。この国の特異性を理解してもらおうか。まず、陸の孤島状態なのは分かっていると思うが」
それくらいならリラも知っている。この大陸の砂漠地帯、その真ん中に位置する山に囲まれた地にこの国はある。当然周りは砂ばかり。そんな中にポツンと存在するオアシスだ。そのオアシスだが、周りが昼は高温、夜は零下になる地にあって温暖な気候なのだ。つまり、この国の特異性を理解せず、攻め込もうとしている国は多いのである。聖殿は雪の花の存在を知っていた。知っているからこそ、エリエスを利用したのだ。だが、その他の国は違う。真っ先に王族を排除し、この国を手に入れようとする。
「でも、王族がいなくなればここも砂地になるよね?」
「まあ、な。でも知っているのはあくまで王家に近い高位の貴族だけだ」
フェルナンドは架空に視線を向ける。エリエスの事は完全に秘匿され、国民には病死と発表される。国民を混乱に巻き込みたくないからだ。王族が日々、命が狙われている事実も彼等は知らない。
「つまり、私が次の王太子を産んだとしても、他国からの脅威は消えないと言う事だよね?」
「そうなるな。まあ、だからこそ、父上も母上達も鍛錬を怠らないのだが」
リラはそうだと肩を落とした。ここの王族ときたら、近衛騎士より強いのだ。何のための騎士なのだと言いたくなる。神聖王国のルフラン第五王子は大層驚き、また、称賛していた。守られているのではなく、攻撃という守りを手に入れている王族。瞳を輝かせ、鍛錬しなければ、と言っていた。脳筋王族の親戚は脳筋なのか。思わず遠い目になる案件だった。
「エリエスの事は神聖王国の手助けで何とかなったが、その他は私達で何とかしなければ」
目立って裕福ではない。それでも狙われるのは陸の孤島であり、なかなか落ちない難攻不落の国だからだ。唯一の入り口である辺境伯領は民すらも優秀な兵士だ。それも男女問わない優秀さである。自給自足が出来る上、砂漠の中にあって穏やかな気候。雪の花がもたらしている秘密を他国は知らない。それが魔法によって紐付けされ、その血筋が絶えれば失われる平和だ。しかし、それを公にする訳にはいかないのである。
「まあ、これからも頼むよ、婚約者殿」
「もーっ!!!」
「ああ、執務の手伝いもな。なかなか優秀な助手だ」
「分かってるわよ!!」
執務室から聞こえてくる絶叫に、扉の前で護衛している近衛騎士はギョッとしたように扉に視線を向けた。そして、リラの破天荒ぶりを思い出し、何も聞かなかったと、口を噤む選択をした。その選択は間違えていないだろう。今回の事を詳しく知る近衛騎士達はこの国の王族の規格外っぷりを知っている。その規格外に規格外の令嬢が妃として婚約者となっただけだ。
一年後、無事に婚姻まで漕ぎ着けたフェルナンドは速攻リラを孕ませる事に成功する。当然リラは暴れたが、どこ吹く風だ。雪の花が開花するのも近い未来の事である。
終わり。
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