因習村の生贄の双子を拾って10年、何故か双子に執着されています

ユッキー

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運命と出会ったのは誰か

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「綺麗な月だな~」

 満月の日に夜の散歩をするのは俺の数少ない趣味の1つだ。こんな日に夜空を見上げているとなんだか元気になる気がするのだ。月や星々の幻想的な光景とは裏腹に、左右は騒々しい。当たり前のようにこの双子は俺の散歩についてくるのだ。まぁ賑やかなのは嫌いじゃないから良いんだが。

「透さん手つなごうぜ~!」
「は? 前から思っていたが嵐、お前は御影さんに馴れ馴れしいにも程がある。立場を弁えろ」
「あ~うっせぇ! テメェだって透さんと手を繋ぎたい癖に」
「それはっ……! いや、そんな恐れ多い事を僕が思う訳ない!」

 何故こいつらはいつも喧嘩してるんだろう。よく分からないが、手を繋ぐかどうかで揉めてるらしい。アホくさ。俺は二人の手を握って歩き出す。嵐は上機嫌でぶんぶん振り回し、凪は花が咲くような柔らかい笑みを浮かべた。とりあえず喧嘩は収まったようで何よりだ。そのまま散歩の間くらいは喧嘩しないでくれるとありがたいのだが。

「なんかお前らとこうして歩いていると懐かしい気がするな」
「子供の頃はよく手を繋いで歩いてたからなぁ」
「おいおい、お前らなんてまだまだ子供だぞ?」
「嵐はそうですね」
「誰がガキだ! 俺はもう立派な大人だっつーの」
「バーカ、働いて無い内はガキだよ、ガキ」
「バイト禁止したのはアンタだろうが……」
「そういうことじゃないんだが……まぁお前らはまだまだ子供で居てくれ。巣立つのは俺もまだ寂しいからな」

 いつかこいつらも俺の元を離れて誰かと結婚し、子供を作るのだろう。その未来が来て欲しいような欲しくないような複雑な感情だ。子離れ出来てないということだろうか? まぁもう少しぐらい子離れできなくても許されるだろう。そうさな、あと百年くらい。なんて流石に冗談だが。

「月が綺麗ですね」

 俺を見つめながら凪がそんな事を呟く。俺は黙って頷くが、嵐はそんな俺らの姿を見て笑った。そんなおかしなことがあっただろうか?

「透さんにそんな詩的な言葉が通じる訳ねぇだろ。もっとこういう風にだなぁ」

 嵐は俺を抱き寄せ耳元で「愛してる」と囁いた。よく分からないが、当然俺も双子の事は愛している、なので二人纏めて抱きかかえて、ぎゅーとしておいた。二人とも妙に顔が赤いし、「胸がっ……!」とか呟いてるが熱でもあるのか? 因みに二人の身長は180cmと高いが俺は2mなので、まだまだ双子を見下ろす形だ。頑張って俺を抜くくらい成長して欲しいものだ。17歳ならまだ可能性はあるだろう。
 そんな風に二人を抱きしめていて、ようやく思い出した。妙な既視感の正体を。

「ああ、そうかあの日もこんな満月の夜だったな」



 10年前、俺は取材で月影村を訪れていた。長い時を経るうちに名前すら失われた土地神の伝承を今なお受け継ぐかの村は、知る人ぞ知る場所だった。彼らはよそ者を嫌い、俺もろくに相手にして貰えなかったので詳しい話は聞けずじまいだった。「なんでよりによって今日くるんだ……」誰もかれもそんな風な事を呟いていたが、それ以外碌な情報が無い。当然だが何も聞けませんでした~って終われるほどルポライターの仕事は甘くない。高校を卒業したばかりの新人とはいえ、働く以上プロだ。仕事へのプライドがある。数日は粘らないとダメかな~なんて思うも宿泊も断られたので車中泊だ。

「それにしても妙に人が少ないな? 村の規模からしたらもっと居てもおかしくないが」

 すれ違う村人の異様な少なさに違和感を抱きながら、俺は停めていた車に戻ろうとした。その途中で強い風が吹いたかと思うと被っていた帽子が攫われてしまった。

「ちょっ、それ借り物!? 先輩の縁起担ぎで勝手に持ってきたのに失くしたら雷が落ちちまう!?」

 慌てて帽子を追いかけるが、どんどん高度を上げて村の裏手にある山の方へと飛び去って行く。確か村人達が信仰している神が住んでいるから禁足地になっているはずだ。少しだけ迷ったが、俺は小声で神様に謝罪して帽子を追いかけて山を登っていく。幸い緩やかな坂道だったので、運動が得意でない俺でも問題無く山を登っていけた。ただ、風に揺られる木々がやけに煩かったのが印象に残った。
 そうして帽子は山頂近くでようやく止まってくれた。帽子を拾い上げて安堵した俺はようやく気付く。その場に自分以外の人間がいることに。山頂の開けたその場には白い布に身を包んだ少年二人がおり、俺を見て驚愕で目を見開いていた。そっくりな姿を見るに双子だろうか。

「あ、いや、お兄さんは怪しいものじゃないよ!?」
「かみさま」
「ぼくたちをたべにこられた」

 静かに告げられるその声に、俺は慌てた。

「神様!? 食べに!? いやいや、お兄さんはちょっと迷い込んだだけの一般人で……ってどんな状況?」

 そんな俺の問いに答えるように双子は再び口開き、鈴のようにその声を辺りに響かせた。

「ぼくらはいけにえ」
「かみさまにささげられるうつわ」
「かみさまがきえないように」
「かみさまがうしなわれないように」
「みらいえいごうこのちにいていただくため」
「おろかなひとをみちびいていただくため」
「「ぼくたちはここにいます」」

 彼らが醸し出す雰囲気が、それが冗談でも悪ふざけでもないと告げてくる。多分俺は紛れ込んではいけない場所に立ち入ってしまったようだ。汗がぽつりと頬を伝って落ちる。いつの間にかあれ程騒がしかったはずの木々は静まり返っており、何の音も聞こえない。獣たちの姿も無い。月だけが双子を幻想的に照らして存在を明らかにしている。もしかしたら、この場に本当に神がいるのかもしれない。多分放って置けば双子はこの地にいるという神に食われてしまうのだろう。普段なら馬鹿げた話だと鼻で笑うが、今この瞬間だけは馬鹿に出来ない。だからこそ――。

「なあ、お兄さんと一緒に来ないか?」

 俺は二人に手を差し伸べた。俺の言葉に双子は心底不思議そうな顔をした。これから俺が背負うとしているのは、高校を卒業したばかりの若造が背負いきれるはずのない重荷だ。それでも、俺はこの双子を放って置く選択を取る事ができなかった。祟れるもんなら祟ってみやがれ!

「お兄さんの名前は御影透って言うんだ。君らの名前は?」
「さかきなぎ」
「さかきあらし」
「なぎ君とあらし君か。お兄さんは東京で暮らしてるんだけど、二人も一緒に暮らさないか?」
「かみさまが」
「あなたさまがのぞむなら」
「俺は神様じゃないよ。ただの人、御影透だよ」

 自分は人間だともう一度二人に告げる。二人は明らかに戸惑っていた。ここには神がくるはずだったのに、何故か関係無い人間がいるのだ。そしてその人間は生贄である自分達を連れて行こうとしている。あり得ないことだ。あり得てはいけない事だ。それでも――。

「俺は二人と一緒に居たい。ダメかな?」

 困ったように眉を下げた俺を見て、双子は互いの顔を見合う。そしてゆっくりと俺の手を握った。双子は、なぎとあらしは笑った。まるで生まれて初めてしたかのように不器用な笑みだった。そうして俺達は月に照らされながら山を下って行った。いつの間にか木々はまた騒がしく音を立てだした。
 途中で俺達を止めようとする声が聞こえたが、それらはすぐに途絶えた。まるでその行為が許されなかったかのように。何かが起きている。けど、俺は必死にそれらから目を逸らして、ただただ双子の手を強く握った。山さえ下りてしまえば、きっと大丈夫だと信じて。そうして奇跡的に無事だった俺達は車に乗り、月影村を後にした。

 その後は色んな人を巻き込んで大騒動があったのだが、あまりに大変だったせいかよく覚えてない。気が付けば二人は俺と同じ御影凪と御影嵐になっており、流石に狭すぎた1kのアパートを引っ越して3人で暮らせる都心から少し外れたマンションが住処となった。因習村で育った双子は一般常識に疎かったが、彼らは息を吸う様に外の世界の事を学習して、まるで最初からそうだったかのよう馴染んだ。常識知らずと先輩から揶揄われる俺よりよっぽど一般的だったかもしれない。
 3人での暮らしは何故か涼し気な双子と違い俺は必死に試行錯誤して、気が付けば10年経っていた。



「お前らも随分成長したなぁ」
「あ? なんだよ急にじじ臭いこと言って」
「じじくさっ!?」

 そうか俺はじじくさかったのか……。もうそろそろ30の大台にのるしな……。でも見とけよその内お前らだっておじさんになるんだからな?

「嵐! 御影さんになんて失礼なことを!」
「あ~うるせぇうるせぇ! キャンキャン叫ぶなよ。本当兄貴は透さんの事になると煩いなぁ」
「…………当然だろう。御影さんのおかげで僕達は今ここに居るんだから」
「そりゃそうだけどよ。そういう感謝の押し付けもどうかと俺は思うけどね。透さんはどう思う?」
「よく分からんが、俺を巻き込まないで欲しいと思う」
「いやアンタの話なんだけど、まぁ本人がこんなんだから別に良いじゃん。兄貴は兄貴の思う様に、俺は俺の好きにやるってことでさ。どうやっても俺と兄貴じゃ立ち位置が違うんだから」
「…………言いたいことは色々あるが、御影さんが望んでいない以上今はこの話は終わらせよう」
「はいはい~」
「よく分からないが、話が終わったならそろそろ帰るか。もう夜も遅い」

 いつものように兄弟喧嘩を収めると、俺は二人の手を引いて家へと歩き出した。この手が離れるのが少しでも先になれば良いなぁと思いながら。二人も同じ気持ちだと信じて。

 そんな三人の傍で木々がざわめく。あの運命の日と同じように。そして月はスポットライトのように彼らを照らす、まるで彼らが主演であると告げるように。
 凪は静かに瞳を閉じ、祈る様にそれらを受け入れた。嵐は視線を上げ、何もないはずの虚空を睨んだ。そこに――”何か”がいると知っているように。
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