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ep64 めんへら

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 午後三時頃。

「えへへ。おにーちゃんとお散歩だぁ」
「ハハハ......」

 俺はウサと手を繋いで近所を散歩していた。
 なぜこんなことになったのか?
 それは三十分前のこと......。


「ねえおにーちゃん、ウサとおさんぽしよーよぉ。ねえおにーちゃん」
「わかったわかった、わかったから(ウサというよりイヌだなこれは......)」
「ほんとぉ?やったぁ!じゃあはやく行こぉ」

 と、しつこく腕を引っぱられ、しぶしぶ勉強を切り上げて今に至ったのだった。

「あっ、おにーちゃん。ウサはあの公園にいきたい」
「はいはい行きますよ」
「......おにーちゃん?ひょっとしてイヤイヤなの?」
「いや!ノリノリだよノリノリ!」
「ほんとに??」
「ホントホント!」
「わかった!えへへ」

 俺は〔シスタープログラム〕の失敗を恐れ...というよりウサの〔ボイスディザスター〕を恐れ、必死に返答した。

「そういえばここ、トラエにシバかれたとき以来だなぁ」

 俺はかつて一悶着のあった公園の広場を見渡してつぶやいた。

「んん?おにーちゃんはトラエおねーちゃんと公園デートしたの?」

 ウサが屈託なく言った。

「いや、デートというよりデッドかな......」

「どういう意味??」

「別になんでもないよ」

 わざわざウサに説明することでもないと思ったので、テキトーに流した。

「んんん?なんかあやしーなぁ?」

 ウサは俺の顔を覗き込んできた。

「えっ、なにが?」

「うーん。あっ、ひょっとしてトラエおねーちゃんとここでチューしたとか?」

「してない!そんなイイ想い出ではない!」

「じゃあなんなの?」

「ここでトラエと......まあその、モメたことがあったんだよ。最後にはネーコも一緒になってね」

「ふーん?なーんだ。チューしたとかじゃないんだ」

「するわけないだろ!」

「じゃあウサとする?」

「は??」

 ウサは俺の腕に巻きついてきて、くりんとした目で上目遣いをする。

「ねえどーする?おにーちゃん」

「ど、どうするって......そ、それも〔シスタープログラム〕なの?」

「そうだよ」

「ふつう、兄と妹はチューしたりしないと思うんですが...」

「え?するよ?ウサの中にはそういうデータが山ほどあるよ?」

「それってどんなデータ?」

「ラノベとかエロゲとか二次創作とか...」

「データ偏りすぎ!!それ完全に開発者の偏った趣味だから!!データのチョイスがオカシイから!!」

「そーなの?」

「そうだよ!健全な妹はそんなことしません!」

「そーなんだぁ」

 いやはや危なかった。
 まったく開発者はなにをやっているんだ。
 ある意味ネーコの〔セクシープログラム〕よりも危険だぞ。
 それにウサにはどこかこう......メンヘラとは言わないまでも何か怖さのようなものを感じる。
 地雷がありそうというか......気のせいだろうか。
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