愛の重さは人知れず

リンドウ(友乃)

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 思わぬ一言に、食いついてしまった。惣一郎が思っていることを言い当てられた気がして、何とも言えない気持ちになる。

「えっと、ダメ、でしたか?」
「いえ、実は俺も同じことを思っていて」
「それはまた、偶然ですね」
 ふと、お互い、なんだかおかしくなって笑った。

「じゃあ、詩音さんのために、早く連絡しますね」
 そう言って別れたのは、本屋から歩いて十分ほどの、突き当りだった。
 左が三月、右が惣一郎たちの家。かなり、近い場所にあるらしい。
 久しぶりに胸がほくほくしていた。結果、今日は詩音を喜ばせてはあげられないが、これから先、喜ぶ顔が見られると思うと、嬉しい気持ちでいっぱいだ。

「ただいま」
「おかえり、惣」
 前向きな気持ちで玄関の扉を開けると、詩音が笑顔で出迎えてくれた。
 鼻を擽る匂いの正体は、カレーだ。
 以前、惣一郎が詩音の作るカレーが好きだと言ってから、月に三回は作ってくれるようになった。
 しかも、詩音は甘口派なのに、惣一郎に合わせて辛口を作ってくれる。
 甘口でいいと、間を取って中辛でいいと言ったが、辛口でも食べられるからと言い、以来、カレーは辛口となったのだ。
 そういうところに惣一郎は、詩音の愛情を感じる。

「美味いな、やっぱり」
「そう?良かった」
 朝とは逆な光景。けれども、その光景が落ち着く。

「今日も遅かったね?」
「ああ、ちょっとな」
 聞かれ、今日のことを思い出し、けれどまだ、詩音には秘密にしておきたくて言葉を濁した。

『その詩音さんに会ってみたいです』

 三月の言葉を、信じてみたい。と、惣一郎は思い、本とともにサプライズで三月と詩音が会えないかと考えていたのだ。
 サプライズはいつも、されるばかりでする方は得意ではない。
 誕生日、記念日、詩音はサプライズが好きなのかいつも毎年、驚くようなことをしてくれる。
 たとえば、去年の誕生日。珍しく部屋に電気が付いていないと不思議に思いながら帰ると、突然、クラッカーの弾ける音が盛大にした。

『びっくりした?誕生日おめでとう!』

 そう言って満面の笑みで笑う詩音は、いつもよりも幼く、そして可愛く見えたものだ。
 恋人になって五年。定番となってしまったサプライズに心の底から驚くことは正直、なくなってはきているけれど、それでもいつだって、自分のために一生懸命考えてくれる詩音が好きで、そんな詩音を見ていると嬉しくもなる。

 ああ、愛されている。そう、思って、胸が甘い痛みに満たされる。
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