愛の重さは人知れず

リンドウ(友乃)

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 もし、惣一郎がサプライズをしたら詩音は喜んでくれるだろうか。
 少しでも、喜んでくれたらいい。少しの間だけでも、今、抱えている何かを忘れられるといい。
 結局、詩音の抱える問題の解決には何一つなっていないけれど、今、自分にできることはこれしかないのだと、惣一郎は思い、そして次に三月に会った時にはこの計画を相談してみようと思っていた。

「そっか」
「詩音?」
「なんでもない。今日はね、時間があったからデザートも作ってみたよ」

 一瞬、曇った声だった気がしたが、次の瞬間にはもう、いつもの詩音だった。
 パタパタとお揃いの、紺と白のボーダー柄のスリッパの音を立てながら、キッチンに向かう。冷蔵庫から、皿に載った白いデザートを運んできた。

「今日はこれ、作ってみたんだ」
「杏仁豆腐?」
 惣、好きだよね?問われ、もちろんと頷いた。

 一口、口に含むと甘くない杏仁豆腐の味が口に広がる。
 詩音が杏仁豆腐や甘くないスイーツを作り始めたのは、同棲してしばらく経った頃。たしか、二年目になる頃だった。
 甘いものが苦手な惣一郎のため、甘くないケーキやパフェを作ってくれたり、好物のチーズケーキを作ってくれたり。そのどれもが美味しい。
 が、詩音が料理上手だと知ったのは、もっと昔のことで、それは付き合う前の学生時代、まだ友人と呼ばれる時のことだった。

 講義が被り、自然となんとなく、一緒にいる時間が増え、選ぶゼミも同じだったことで、数人で遊ぶ仲間に詩音がいた。
 ある日、その仲間で遊んだ帰り、とてつもない豪雨に見舞われたことがあった。

『やべー傘、持ってきてねーよ』
『急いで帰ろうぜ』

 朝は快晴。天気予報でも、雨が降るとは予報されていなく、口々にそう言いながら、友人たちは走って帰っていった。
 惣一郎も詩音も走って帰ろうとした。けれど、惣一郎の家はそこから遠く、更には駅までも数分かかる。びしょ濡れのまま、電車に乗るわけにはいかない。
 近くにあった店の軒下に身を寄せ、仕方ないからしばらく待つかと、意を決した時だった。

『良かったら家、来る?』
 そう、言ってくれたのだった。

 聞けば、詩音の住むアパートはそこから歩いてすぐのところにあるそうで、詩音が指さした先に見える何軒もの扉があるアパートが見えた。

『いいのか?俺、結構濡れてるけど』
『僕も同じだよ?』

 小さく唇の端を上げ笑うと、詩音が腕を引っ張り、走った。
 そして、部屋に入り、作ってくれたスープとオムライス。その時、初めて詩音は料理が上手いのだと、知ったのだ。
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