多分、愛じゃない

リンドウ(友乃)

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恋と呼びたいだけだった

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 小さい顔、頭。だが、もっと驚いたのは右目を覆うほどに長い髪の毛。

 可愛らしいマトリョーシカのようで、けれどまた別の、なんと表現すればいいのかわからない。

 ただ一つ言えるのは、とてつもなくバランスが悪い奴だということだ。

 今時、そんなことを気にするなんて時代錯誤も甚だしい、そうは思っていても目に入る情報が人を認識する最初の情報なのだ。

 しかし、俺が言いたいことは外見がどうのこうのといった問題ではないと強く主張したい。

 つい、驚いてしまったのは俺の完全な思い込みではある、俺は隣に立つそいつを認識した瞬間から厳つい顔をした奴だと勝手に想像していた。

 俺が言いたいのは結局、そいつの鬱々とした態度そのもの。

 ごめんなさい、怪我大丈夫ですか、弁償します、そいつは何回もビクビクしながらデカい図体を縮こまらせているその性格にこそ、物申したかったのだ。

 猫を被って「俺はもう大丈夫ですから」とか言いながら実のところ俺は既に我慢の限界だった。

 何故なら、そういう奴が俺は大嫌いだからだ。

「おい!お前なぁ、いい加減にしろって!」

「え、え?俺ですよね、あ、あれですか?治療費とかそういう類のことでしたらご心配なさらなくても」

「あぁーもうッ!だから、そういうことじゃなくて!」

 噛み合わない、恐ろしく噛み合わない。どうしてこんなにというほど。

 その時の俺は、最悪だった。自分だって国語の教師のくせして主語もクソもない言葉遣いだったなんて微塵も思いもせず、自分の主張こそが正しいと自信満々に胸を張っていたのだから。

 だが、もっと最悪なのは大嫌いなそいつを何故か放っておけなかった自分自身だろう。

 今、思えば全ての始まりはここからだった。

「そうじゃなくて!お前、名前なんて言うの」

「あ、俺は油井です」

「ゆい?随分と可愛らしい名前なんだな」

「あ、いえ、下の方ではなくて苗字です。フルネームは油井 克巳です」

 紛らわしい言い方をするんじゃねーよ。自分の過ちを他人で上塗りした、またしても最低な俺の出来上がりだ。

「…油井、お前そのペコペコすんのやめろよ」

「え、だって、自分が完璧に悪い、のに」
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