多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋と呼びたいだけだった

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「奏、あの。その、俺…」

「うん。何?」

 克巳が絞り出した何の意味もない言葉に、俺は心から優しい声で問い返す。

「東雲先生と、二人で会ったことも、あと奏に内緒にしてたことも、本当にご、ごめん。でも、本当に何もないし、その、相談だけだったから…」

「うん、わかってる。けどさ、克巳、俺が何で家出するくらい怒ってるかわかってる?」

「なんで、って…それは、俺が奏の気持ちを、その、ちゃんと考えられなかったから…」

 その答えを聞いた途端、守っていた静けさをぶち破りたくなった。

 そうだよ、克巳の言う通りだ、俺は怒っていた。けれどそれは事実のみであってしかも俺が言ったことそのまんまだ。

 そうじゃない、それだけじゃないんだよ、克巳。俺は俺と克巳の約束よりも東雲先生を優先した理由が知りたいんだ、俺と克巳が同棲して三年目の祝いの約束を破るほどの理由を!

 そうは思いつつも、それがわからないのが他人であり克巳だ、そんなことは十分にわかっていたし、同棲記念日なんて付き合いたての若い女子じゃねーんだ、そこに拘っていること自体くだらないのかもしれない。

 だけど、それでも。俺はやっぱり克巳に求めたいよ。お前も俺と同じ気持ちでいてほしいって。

 我儘と希望の狭間で揺れながら、やっぱり俺は空気を飲み込むことしか出来なかった。

「克巳、ごめん。俺、もう少し時間がほしい」

「え?ど、どうして?俺の言ったことで不快にさせたなら、本当にごめん!で、でも、俺、奏と一緒にいたい!」

 グラグラ、グラグラ。まるでシーソーのように揺れ動く気持ちに足を取られそうになる。

 俺が思う気持ちは所詮、自分よがりなものだ。誰一人として、それがたとえ恋人だとしても真の意味で分かりあうなんてことは未来永劫不可能なのだ。

 そう思えば俺が拘っていることすら、無駄な時間のような気がしてくる。

 克巳はきちんと謝ってくれたし、確証はないけれど浮気をしたわけでもないのだろうし。

 ならばもう、いろいろ諦めてあの広すぎる胸に飛び込んでしまおう、そう決断し、克巳の手を取ろうとした。

「あれ?戸崎先生に油井先生?」

 職場での名を呼ばれ、俺も克巳も勢いよく顔を上げまた二人して顔を突き合わせた。

 なんとそこにいたのは渦中の東雲先生だったのだ。

「あれ、お二人ってやっぱり仲良いじゃないですかぁ。いいなぁ、良かったら私も混ぜてもらってもいいですかぁ?」
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