多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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それは恋以外の何者でもない

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 記念日を覚えていなくてもドタキャンされても、他の女と仲良さげに笑っていても俺は克巳、結局お前が好きなんだよ。

 …そう言ってしまいたかった、ぶちまけてしまいたかった。ユウリにぶちまけた時と同じように。

 なのに、出来ない。そんな自分に嫌気がさして噛み締めすぎた唇から血が出てしまうかと思った。

「お、俺だって、奏が好きだよ!」

 じゃあなんで、どうして。その言葉ばかりが頭をぐるぐると回る。

 けれど、それを言葉にする勇気が俺にはまだない。受け止めたくない現実がのしかかってくるかもしれない。

「奏が好きだよ。だからお願い、家に帰ってきて」

 それならもういっそのこと、なかったことにしていいんじゃないのだろうか。

 ドタキャンされたことも東雲先生に優しく笑いかけていたことも、全部全部、最初からなかったことにすればいい。

 そうすれば、俺たちはまた元に戻れるんだから。

 克巳の大きすぎる手が俺の手を包み込む。じわりじわりと温かさが伝わってくる。

「…ああ、わかった。明日、良樹の家から荷物運ぶわ」

 そう言うと克巳は「良かった!」と言いながら俺を苦しいほどに抱きしめてきた。

 息がしにくいほどに強い力。克巳からこんなふうに求められるのは、皮肉にも夜の営み以外では初めてのことだった。

 …いいんだよな、多分。

 広すぎる背中に腕を回しながら、そう思い込もうとしていた。

「で?あれからどうなのよ」

 不躾にも聞こえる言い方で俺に近況を聞くのは、この世でただ一人。

「別に、普通?良くも悪くも普通だな」

 良樹の家のだだっ広いテーブルに置かれたいくつかの皿から、適当に箸で摘み小皿に入れる。

「普通か、それはあれだね。君にとっては良くない言葉だね」

「…なんだよ、それ。普通は普通以外の何者でもねーだろ?それ以上も以下もない、故に日常だってことだ」

「ふーん。まあ、奏がいいならいいけどねぇ」

 含みのある口振りの良樹が、ぐっと350mlのビールを煽る。

 こういう時は大抵、何かあった時だ。けれど、不躾に聞けば聞くほど荒れ狂うだけだからと、俺はとりあえず事の成り行きを見守ることにした。

「で?ユウリさんとは連絡取ってるの」

「…時々な?」

「時々~?家にいる時は毎日のようにメールしてたのにぃ?」

 ああ、まずい。素直にそう思ったのは、良樹の語尾がいつも以上に間延びしているからだ。

「ユウリだって忙しいんだ、俺に構ってる時間があったら他にやりたいことの一つや二つくらいあって当然だろ?」

「…やりたいことの一つに奏が入ってるかもしれないのに?」
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