多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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それは恋以外の何者でもない

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「何?」とぶっきらぼうに聞こえる声で返す。

「前にさ、ユウリさんが家に来て料理作ってくれたことあったじゃん?」

「ああ、あったな」

「その時、奏さ、どうしてユウリさんがってめっちゃ気にしてたよね?」

 ああ、そんなこともあったな。けれど、何故今になって。

「ユウリさんから口止めされてたんだけど、この際だから言っちゃう」

 …悪酔いを通り越して楽しくなってやがる。

 良樹は普段、酔う飲み方をしないくせに酔うとなるととても手が付けられなくなる。

 結局、酔いから覚めたら盛大に後悔して頭を抱えるのだ、それでも偶には羽目を外したくなる気持ちもわかる。

 俺は珍しくカシスオレンジの缶に口を付けながら、良樹の内緒話に耳を傾けることにした。

「最初はお互いに遠慮がちだったんだよ?こんにちはーとか、買い物ですかとか」

「うん」

「そんでね、ユウリさんが奏はどうですかって聞いたんだ。だから俺、全然元気じゃないですって言った」

 ゲッ。そういうオチかよと、少しばかり身構える。

「したらさ、なんて言ったと思う?元気じゃないってなんかあったのってすごい勢いで食い付いてきたの」

 だから洗いざらい喋っちゃったんだよねぇ。と、良樹は更に言葉を続ける。

「ユウリさんって本当に奏のこと、好きなんだなぁって思ったんだぁ、俺」

「…なんで?」

「だって、俺が奏のこと話したら、見る見るうちに心配ですって顔したんだもん。あれは、好きな人を心配する顔だった」

 違うよ、良樹。ユウリは元々、そういう人ってだけなんだ。

 そう言い聞かせながらも、鼓動は早まる一方で聞いてやるかと思った数秒前の自分に後悔すらしている。

 けれど、酔っ払った良樹は止める気はないようで、酒に濡れた唇がまたもや動き出す。

「それでねぇ、ユウリさん、今から家に行って料理していいかって聞いてきたわけ。もちろんびっくりしたよ?いきなりなんでって。でも、奏が落ち込んでる時はこれ作ると元気になれるからって、アクアパッツァの写真見せてくれたんだぁ」

「写真?アクアパッツァの?」

「そう。アクアパッツァを美味しそうに頬張ってる奏の」

 …想定外だった。俺の記憶違いでなければそれは、大学時代に住んでいたアパートに突如訪れたユウリが作ってくれた時に撮った写真だ。

 あの時はユウリも俺も付き合い立てで、互いに舞い上がっていたのだ。
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