多分、愛じゃない

リンドウ(友乃)

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それは恋だと思っていた

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 心を鬼に。そう言い聞かせていたのは何も生徒にだけの話ではない。

 特段、今の生活に不満がある訳ではなかった。

 朝起きて向かう場所が必ずある職場は、自分で言うのもなんだが恵まれているのだと思う。

 若い生徒に囲まれながらの授業も部活もいろいろな刺激があり、三十路近いおっさんにはそれだけで吸収できるものがある。

 そして帰りすがらには、愛する彼氏のために夕飯のレシピを考え、冷蔵庫の中身を思い浮かべるなんて、出会いの少ないゲイからすれば充分すぎるほどの幸せだ。

 なのに、ここ最近の俺はどこか虚な気持ちを持て余している。

 …気のせいなのかもしれないが。

 やるべきことを終わらせた頃には、既に午後七時を指していた。

 ということは今日は、週末に作り置きしていた鶏ひき肉のハンバーグを冷凍庫から出すしかないか。

 副菜は確かピーマンが半端に残っていたから、ちくわときんぴらにでもしよう。

 段取りを考えながら薄らと暗くなった道を歩いていると、携帯が振動を伝えた。

 その存在に焦ってスラックスのポケットから取り出したのは、克巳とのルールをすっかり忘れていたからだった。

 まずい、直感でそう思った。克巳は滅多なことでは怒らないが、今回のあのしつこさはまあまあなものだ。

 慌てて携帯を取り出す。あまりにも長いバイブに、着信だったかと更に慌ててディスプレイを見た。

 瞬間、焦っていた指が止まった。そこに表示されていた名前は、ユウリだ。

 いつの間にか急ぐ歩みも止めていたようで、地面を踏み締める音はすっかり止んでいたが、代わりに俺の耳にはドクドクという音が響き渡っている。

 良樹にはユウリと連絡を取っているとは言っていたが、実際には取っているとは言えない間柄となっていた。

 正しくは、ユウリから送られてくるメールを返していなかったのだ。

 …正直、気まずい。やはり、どんな間柄だとしても連絡をマメにするタイプの自分からすれば、意図的に連絡を返さないのはポリシーに反する。

 そうまでして返信しなかった自分に辟易しつつも、そうせざるを得なかった状況に頭を悩ませる。
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