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恋だと思っていたものと、そうじゃなかったもの
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だが、その瞬間、上げ掛けた腰を止める。
物事は都合よくできているという。
会話が弾んでいたのか、良樹が肩を揺らして笑い身を屈めた向こうに、ユウリの姿が見えた。
「すみません、マスター。具合が悪いので帰ります」
何故、そう言っていたのだろうか。スツールに腰を下ろさず、気付けば来たばかりの玄関に立っていた。
「あーあ、俺、めっちゃ一人じゃん」
克巳のいる家には帰りたくない、携帯も玄関に落としてきたのか手元にない。
雨じゃないだけまだマシか、と思いながら夜空を見上げ行く当てもなくトボトボと歩きながら、ついさっきの出来事を思い返す。
二人が俺を通じて知り合いになっていたのは、知っていた。
だから二人が俺の知らないところで仲良く酒を飲み交わしていても当たり前だった。
なのにあの瞬間、猛烈に嫉妬心が込み上げてきた。
仲睦まじく笑う二人、赤らんだ頬、楽しそうな雰囲気。
これがもし自分のコンディションが良い時なら何も気にせず、その場に入り込めた。
そして俺も一緒になって笑って酒を飲んでいたのだろう。
…でも、ダメなんだ、今は。今だけは、見たくなかった。
だって俺、今日、最悪だったんだ。
誰かに言いたい、けれど言えない。そのジレンマに押しつぶされてしまいそうだ。
お願いだ、誰か嘘だと言ってくれ!
そう願いながら乗った電車は無言のまま、俺を見知らぬ土地へと運んでいた。
物事は都合よくできているという。
会話が弾んでいたのか、良樹が肩を揺らして笑い身を屈めた向こうに、ユウリの姿が見えた。
「すみません、マスター。具合が悪いので帰ります」
何故、そう言っていたのだろうか。スツールに腰を下ろさず、気付けば来たばかりの玄関に立っていた。
「あーあ、俺、めっちゃ一人じゃん」
克巳のいる家には帰りたくない、携帯も玄関に落としてきたのか手元にない。
雨じゃないだけまだマシか、と思いながら夜空を見上げ行く当てもなくトボトボと歩きながら、ついさっきの出来事を思い返す。
二人が俺を通じて知り合いになっていたのは、知っていた。
だから二人が俺の知らないところで仲良く酒を飲み交わしていても当たり前だった。
なのにあの瞬間、猛烈に嫉妬心が込み上げてきた。
仲睦まじく笑う二人、赤らんだ頬、楽しそうな雰囲気。
これがもし自分のコンディションが良い時なら何も気にせず、その場に入り込めた。
そして俺も一緒になって笑って酒を飲んでいたのだろう。
…でも、ダメなんだ、今は。今だけは、見たくなかった。
だって俺、今日、最悪だったんだ。
誰かに言いたい、けれど言えない。そのジレンマに押しつぶされてしまいそうだ。
お願いだ、誰か嘘だと言ってくれ!
そう願いながら乗った電車は無言のまま、俺を見知らぬ土地へと運んでいた。
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