多分、愛じゃない

リンドウ(友乃)

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恋だと思っていたものと、そうじゃなかったもの

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 それから俺は、思うがままに歩いていたみたいだ。

 まずはと当てもなく訪ねたのは良樹の家だった。けれど大抵は灯っている明かりが一つもなく、諦めたのは記憶に新しかった。

 その後はユウリの勤めるレストランに向かった。

 良樹の家とは違い、明るすぎるほどに煌々と明かりが灯されてはいた。

 しかし、ユウリの姿が見当たらず、思い切って以前見知ったスタッフに聞いてみれば今日は休みとのことだった。

 …ついていない時は本当についていない。

 辺り一面を照らしていたオレンジ色が、ネオンの光に照らされる暗闇に変わっていた。

 トボトボと当てもなく歩く週末の街並みは、カップルや家族連れで賑わっている。

「ねえ、お父さん!私、オムライス食べたい!」

「ええ~僕はカレーライスがいい!」

 子どものたわいないやり取りに父親らしき人がじゃあファミレスに行くかと笑いながら答えている。

 途端に目元が熱くなった。どうして俺は今、一人なのだろうか。

 数時間前までは浮かれてはいないまでも、ほのかに期待はしていた。

 いつもは俺から誘うデートが今日に限っては克巳からの誘いでのデート。

 最近、ぎこちない気がしていただけに嬉しかった。だから昨夜も服選びに夜遅くまでかけていた。

 なのに、この仕打ち。

 一体俺が何をしたって言うのだろう。ただ、克巳に少しでも俺と同じ気持ちでいてほしいと、記念日くらい一緒に過ごしたいと、ただそれだけを願っただけだった。

 それが、贅沢だったのだろうか。

 気付けば俺は、いつものバーの玄関の前にいた。

 寂しいと人恋しくなるのは、本当のようだ。

 泣いて腫らした目が熱いまま、バーの玄関を開ける。

 週末は飲食店に限らずといったようで、店内は賑わいを見せていた。

 といってもクラブみたいに酒を飲んで騒ぎまくる、といった場所ではないため、みんな静かにそこそこに会話を楽しみながら酒を嗜んでいる。

 中央のカウンターを挟んで前後に席が広がっている席を、丁寧にけれどどこか重たい目でゆっくりと見ていた。

 ここに来れば、良樹かユウリどちらかに会えると思っていたのだ。

「お客様、こちらにお掛けください」

 バーテンダーが案内してくれたカウンターに腰掛け、また右に左にと視線を彷徨わせていると、左。カウンターから見て奥の席に良樹の姿を見かけ、「すみません、知り合いがいたので」と席を立とうとした。
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