多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋じゃなくて、多分、愛じゃない

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 それに克巳は「そのうちね」と笑って言っていたな。

 懐かしいそんな思い出を蘇らせながら扉を開けた。

 瞬間、ふわっと香ってきた匂いにその場で固まってしまっていた。

 洗濯物と混じった清潔な匂い、それが克巳の匂いだった。なのに、香ってきた匂いは玄関を開けた時に感じた甘ったるい匂い。

 玄関、リビングに広がる甘ったるい匂いがこの部屋に流れ込んできた、のかと思った。

 それくらい、残り香は強くまるでその存在を主張しているかのよう。

 だが、違う。そう悟ったのは、克巳の部屋を見た時だった。

 思わず、鼻をジャケットの袖で抑え恐る恐る部屋に入った。

 目を瞠った。本当にここは克巳の部屋なのだろうか。

 以前と変わらない配置に置かれたセミダブルのベッド、デスク、チェア。

 けれど違うのは、それ以外の物だった。

 まず始めに目に入ってきたのは大きなラグだ。以前は何度言ってもラグはいらないとやんわりと断られたはずが今は、四角く大きなラグが部屋の真ん中を占めている。

 そしてデスクの横には大きな観葉植物。ベッドサイドには丸いサイドテーブル、丸い置き時計。

 極め付けには揺らめいたように見える薄い紫のカーテン。

「うそ、だろ?」

 気付けば声を出していた。もう一度、部屋を出て廊下を見渡すがやはり、ここは玄関から一番近い手前の部屋だ。

 克巳の部屋へ戻り、また部屋を見渡した。すると俺は今度こそ自分の両目を疑うこととなった。

 片開き扉を開けた死角、以前はなかった洒落たハンガーラックに明らかに克巳のサイズではない女性の洋服が数着、綺麗に掛けられていたのだ。

 一目散にトイレへ駆け込んだ。込み上げる吐き気が抑えられない。

「ハァ、ハァ、ッッ、おぇッ…!」

 吐きたいのに吐けない、出るのは酸っぱい胃液だけ。

 便器に顔を突っ込みながら、ここにも広がる胸糞悪い匂いに更に胸が焼けるように痛み出す。

 …なんで、なんでだよ。

 ただ、その言葉だけが胸に渦巻いていた。喧嘩して家出して、けれどまだ俺たちは別れていないはずだった。まだここは俺の家のはずだった、部屋のはずだった。

 なのになんだよ、あれ。俺が何度言っても変わらなかった、変わろうとしなかった部屋が見事に変わっているじゃないか。
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