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恋じゃなくて、多分、愛じゃない
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ふいに藤原さんの言葉がまた脳裏をよぎった。
付き纏ったり脅迫したり。まさか。
もし、ここに隠れていることを悟られれば一体、何をされるのだろう。
警察沙汰寸前、というとやはり、暴力沙汰ということだろうか。だが、それなら男性である俺の方がまだ彼女を傷つけずに事を終えられる可能性はある。
咄嗟に何故、隠れたのか。自分でもわからなかったが、隠れてしまったことはもう取り返しようのない事実だ。
ならばここから潔く出ようか。むしろ彼女が興奮していない今、姿を現した方が得策ではないのだろうか。
「戸崎先生~?いるのはわかってるんですよ?私、ただ先生とお話したいだけですから、そんなに怯えないでください~」
…怯えているのか、俺は。
そう見えているらしい自分がどこか滑稽だと思った。よく考えてもみれば、悪いことをしたのは自分ではないはずだ。
なんだか酷く理不尽な気持ちで満たされた。何故、俺が、どうして。
克巳ほどではなくとも一般的にはそれなりにデカい図体を丸め、クローゼットに縮こまっている自分が惨めで情けなく、そうさせた扉の向こうにいる彼女に激しい怒りを覚えた。
…俺だって、やられっぱなしじゃいられない。
「戸崎先生~?そろそろいいんじゃないですか~?出てきてくれても!」
甲高く刺激する声はクローゼットの扉越しからはっきりと聞こえる。
震えそうになる手をクローゼットの扉に掛けた。
だが、その手は自然と離れていく。扉がスーッと開いたのだ。
「かくれんぼ、ですか?戸崎先生」
まるでそこにいたことがわかっていたかのように、不気味な笑みを浮かべながらそう言った彼女は側から見てもきっと気味が悪かっただろう。
クローゼットの中に身を縮まらせている自分も自分だけれども。
恐怖のあまり気道が狭くなり、ヒッと鳴りそうになった喉を寸前のところで堪え、言う。
「し、東雲先生。こんなところで、どうしたんですか?」
「どうしたって戸崎先生、本気で言ってます?だとしたらかなり、お馬鹿さんですよねぇ?」
足を出した方がいいだろう。が、出せない、というか全身がまるで石にされたかのように固まってしまっている。
部屋の中を意味もなく、彼女はゆっくり歩き回る。
付き纏ったり脅迫したり。まさか。
もし、ここに隠れていることを悟られれば一体、何をされるのだろう。
警察沙汰寸前、というとやはり、暴力沙汰ということだろうか。だが、それなら男性である俺の方がまだ彼女を傷つけずに事を終えられる可能性はある。
咄嗟に何故、隠れたのか。自分でもわからなかったが、隠れてしまったことはもう取り返しようのない事実だ。
ならばここから潔く出ようか。むしろ彼女が興奮していない今、姿を現した方が得策ではないのだろうか。
「戸崎先生~?いるのはわかってるんですよ?私、ただ先生とお話したいだけですから、そんなに怯えないでください~」
…怯えているのか、俺は。
そう見えているらしい自分がどこか滑稽だと思った。よく考えてもみれば、悪いことをしたのは自分ではないはずだ。
なんだか酷く理不尽な気持ちで満たされた。何故、俺が、どうして。
克巳ほどではなくとも一般的にはそれなりにデカい図体を丸め、クローゼットに縮こまっている自分が惨めで情けなく、そうさせた扉の向こうにいる彼女に激しい怒りを覚えた。
…俺だって、やられっぱなしじゃいられない。
「戸崎先生~?そろそろいいんじゃないですか~?出てきてくれても!」
甲高く刺激する声はクローゼットの扉越しからはっきりと聞こえる。
震えそうになる手をクローゼットの扉に掛けた。
だが、その手は自然と離れていく。扉がスーッと開いたのだ。
「かくれんぼ、ですか?戸崎先生」
まるでそこにいたことがわかっていたかのように、不気味な笑みを浮かべながらそう言った彼女は側から見てもきっと気味が悪かっただろう。
クローゼットの中に身を縮まらせている自分も自分だけれども。
恐怖のあまり気道が狭くなり、ヒッと鳴りそうになった喉を寸前のところで堪え、言う。
「し、東雲先生。こんなところで、どうしたんですか?」
「どうしたって戸崎先生、本気で言ってます?だとしたらかなり、お馬鹿さんですよねぇ?」
足を出した方がいいだろう。が、出せない、というか全身がまるで石にされたかのように固まってしまっている。
部屋の中を意味もなく、彼女はゆっくり歩き回る。
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